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わかりづらい「増税先送り解散」の意味

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 年内の衆院解散・総選挙がにわかに現実味を帯び始めた。新聞各紙は一斉に「消費増税を先送りし、早期の衆院解散に踏み切る案が浮上」と報道。「12月2日公示、14日投開票」という具体的な日程まで取りざたされている。ただ、報道を見る限りはなぜ増税の判断と解散がリンクするのかわかりづらい。
「増税先送り解散」の意味、意義とは。

 
 読売新聞は11日付朝刊で「安倍首相が帰国する17日から数日以内に解散する方向で検討を始めた」と踏み込んで報道。「12月14日投開票」を軸に調整しており、翌週の「21日投開票」の案もあるとした。「与党は早期解散を容認する構え」とも書いている。

 
 読売は以前からフライング気味で解散説を報じていたが、ここにきて他紙も追随し始めた。11日付朝刊各紙には「早期解散、広がる憶測」(朝日)、「早期解散論が浮上」(日経)、「年内解散、臨戦モード」(産経)と似たような見出しが並んだ。

 
 慎重で知られるNHKも「首相 解散排除せず政権運営を総合的に検討」と報じ、永田町で解散風が急激に吹き始めたことを認めている。

 
 
 恐らくネタ元は同じなのであろう、各紙とも書いている内容はほぼ同じだ。①首相は17日に発表される7~9月期の国内総生産(GDP)を踏まえて増税の是非を判断するが、想定以上に悪い数字が出る可能性がある②数字が悪い場合は増税の先送りもやむを得ない③先送りするのであれば「国民に信を問わなければならない」――という論理である。

 
 前半はわかる。世論の過半数が反対する中、景気指標の悪化を無視して再増税に踏み切れば、安倍内閣の支持率が急低下しかねないからである。安倍首相が目指すのは「安定した長期政権」。消費税の判断によって政権の座を譲り渡すわけにはいかないと考えているだろう。

 
 しかし、増税を先送りした場合に、なぜ解散しなければならないのか。解散・総選挙によって増税の是非の判断を国民に委ねるというのであれば理解できるが、そうではないという。そこには「増税賛成派をねじ伏せなければならない」という政府・与党内の事情がある。

 
 
 実は消費税率を来年10月に10%に引き上げるということは、法律上、すでに決まっている。2012年8月に民主、自民、公明の3党合意に基づいて成立させた消費税増税法案は、5%だった消費税率を今年4月に8%、来年10月に10%に引き上げることを規定している。

 
 反対派に配慮して「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という景気弾力条項が盛り込まれたものの、実際に引き上げを停止するには、この法律を改正する必要がある。この改正作業が非常に困難とみられているのだ。

 
 改正案を作る際には党内の増税賛成派から突き上げをくらうし、具体的にいつまで先送りするかも決めなければならない。国会では野党から「景気悪化を招いたアベノミクスは失敗だった」と追及されるのは必至で、国会運営に行き詰まる可能性もある。

 
 こうした難局を打開するには、解散・総選挙で勝利し、「国民の信を得た」という錦の御旗をかざして反対派を黙らせるしかないーー。これが増税を先送りした場合に、解散しなければならない最大の理由である。

 
 野党の選挙準備が整っていないという事情もある。民主党の衆院候補予定者は現職を含めて133人。野党間の候補者調整の余地を残しておくため、前回選挙から約2年がたった今も全295小選挙区の半分も埋まっていない。野党同士がつぶし合う選挙区も多数残っており、与党にとっては非常に戦いやすい状況だ。だからこそ「与党も早期解散を容認する構え」なのだろう。

 
 安倍首相にとって喫緊の課題は10日の日中首脳会談だっただろう。成果はともかく、無事に終了した今、頭の中は解散・総選挙のタイミングのことでいっぱいかもしれない。 

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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記者:

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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