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アベノミクス第三の矢の試金石は電力システム改革

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 今通常国会において電力小売り事業の全面自由化を可能とする電気事業法改正法案が可決された。これまでの東京電力などの既存電力会社による地域独占の枠組みが抜本的に変わり、電力の発電、売電等の自由化が促進することによって電気料金の低減が実現することが期待されるが、単に小売りの範囲を一般需要家まで広げることだけでは電力システム改革は完結しない。
 電気というものは、現在の技術では一般的には貯蔵がきかず、電気の需要量に応じて同時に発電し、送電網を使って瞬時に電気を送らなければならないという特性がある。現在の地域独占における電気事業では、どこでどのような需要が発生しているのか既存電力会社が情報を独占し、それに応じた電気を送電ネットワークに受け入れる調整を独占的に行っている。この送電網を持っている会社が発電事業を行っている場合、他社の発電事業より自らの発電事業の稼働を上げて利益を増大させようとする恐れがないとは言えない。そもそも競争相手である他の発電会社が自らのもつ送電網に接続しづらくするために、さまざまな規制や不利な条件を課さないとも言えない。送電網の情報を持たない競争相手の小売会社はいざという緊急時に送電網を持っている独占会社の小売サービスと同等のサービスを提供できるかどうかも保証がない。
すなわち、いくら電力小売り事業や発電事業を自由化したところで、必ず通らなければならない送電網の利用がすべての発電事業者や小売事業者にとって公平に利用できなければ、公正な競争はできないのだ。裏返して言えば、送電網を持っている会社が小売事業や発電事業を行っている限り、公正な競争は担保されないのだ。これは、道路という公共インフラを用いてバス会社やタクシー会社が競争しているのと同じように、それぞれの競争主体が共通して使わなければならないインフラが公共のものであって初めて、さまざまなビジネスがそのインフラを使って競争的になされるということである。
 そこで、平成25年に成立した電気事業法改正法では、①送電網を広域で運用する検討機関の設立、②完全小売自由化、③発送電分離の3段階で行うことが規定されている。これが完全に実現すれば、たとえばガス会社や石油元売会社が自らの燃料調達の優位性を生かした発電事業へ本格的に参入したり、地域の老舗エネルギー販売会社が電気、ガス、省エネ住宅、電気自動車などを総合的に販売し、エネルギー利用に関するコンサルティングを行うなど、新規ビジネスの可能性が限りなく広がることになる。現に6月に出されたエネルギー基本計画でも、「電力システム改革は、エネルギー供給事業者の相互参入、新たな技術やサービスのノウハウを持つ様々な新規参入者の参入を促すことで、産業構造を抜本的に変革するとともに、ガスシステム改革等も同時に進め、他のエネルギー産業にも影響が波及していくことで、エネルギー市場を活性化し、経済成長の起爆剤となっていくことが期待される」と書かれている。
 ところが、6月10日に出されたアベノミクス第三の矢となる『「日本再興戦略」の改訂(骨子案)』では、いわゆる「混合診療」や農業分野での具体的なプランは挙げられていても、電力システム改革の記述は具体的ではない。いま我が国が抱えている経済環境は、日本のみならず世界中が金融を緩和しマネーが溢れる中で、魅力的な投資先がないことである。この電力システム改革は、医療や農業の分野以上の計り知れない投資フィールドを生む可能性があるのに、この冷めた記述は原発の再稼働を優先する電力業界を慮ってのことかとも勘ぐりたくなってしまう。経済界やマーケットからも発送電分離を求める熱い期待はまだあまり寄せられていない。

平成25年電気事業法改正法附則第11条第2項には、「電気事業に係る制度の抜本的改革は、中立性確保措置を法的分離・・・によって実施することを前提として進めるものとする。ただし、法的分離の実施に向けた検討の過程でその実施を困難にする新たな課題が生じた場合には、必要に応じて、中立性確保措置を機能分離・・・によって実施することを検討するものとする。」とされている。ただし書き以下は、与党内の議論において電力業界からのロビーイングで挿入されたものである。「法的分離」とは別会社化、「機能分離」とは社内での別部門化である。多くの発送電分離を実現している国は、密接な資本関係を持つことも禁じた「所有分離」であることからみて、「機能分離」では発送電分離は丸ごと骨抜きとなってしまう。すでに骨抜きの芽があちこちに出ているのだ。そうした中で、アベノミクス第三の矢の一番多くな可能性を持つ発送電分離に向けた法案がどのようなものになるのか、マーケットや経済界はしっかりと見定めていかなければならない。

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