政治資金に企業会計並みの透明性を

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 女性閣僚の「ダブル辞任」に始まった政治とカネの問題が野党にも飛び火し、泥仕合となっている。疑惑の中身は政治資金収支報告書の意図的な虚偽記載や単純ミスなど様々だが、収支報告書が間違いだらけだということははっきりした。このままでは政治への信頼が落ちゆくばかり。実効的な対策を考えなければならない。

 
 
 9月の内閣改造後、うちわの配布や政治資金のSMバーへの支出、外国人企業からの献金など様々な失態が取りざたされ、臨時国会はさながら「スキャンダル国会」の様相を呈している。中でも最も多いのが後援会などの収支を毎年報告する政治資金収支報告書の記載ミスだ。

 
 小渕優子前経済産業相の場合は観劇会に関する収入が、劇場などに払った支出に比べて数千万円単位で少なかったことが判明。実際に受け取った収入よりも少ない額を記載した、虚偽記載の疑いが持たれている。観劇会を開いたにもかかわらず、収支ともに記載していない年もあった。

 
 後援会などの会計を担当していた元秘書の折田謙一郎・前中之条町長は「実務上のミスだが、(外形的には)虚偽記入に当たる」(日本経済新聞より引用)としているが、故意に収入を少なく記載した疑いもある。「裏金になっていた」と指摘する声も根強い。

 
 東京地検特捜部は何らかの理由で故意に収入を少なく記載した疑いがあるとみて、30日に後援会事務省や折田氏の自宅などを家宅捜索した。故意だったことがはっきりすれば、小渕氏の議員としての立場も危うい。

 
 望月義夫環境相が追及されている問題はもう少し複雑だ。2008年と2009年分の収支報告書に記載していた賀詞交歓会への支出計660万円が、実際には別で支出した会費や会合費だったというのである。

 
 会食や会合費への支出が「当時、社会的に批判されていた」ことから、額の見合った賀詞交歓会への支出を計上していたという。一般企業でいえば、関係のない領収書を提出して経費を架空請求していたというのに近い。しかし、望月氏は「亡くなった妻が会計を担当していた」として、具体的な中身の説明を避け、自分に法的責任はないと主張し続けている。

 
 収支報告の記載ミスは野党にも見つかっている。民主党の枝野幸男幹事長は2011年の政治資金収支報告書に、新年会の収入約240万円を記載していなかったことを公表。維新の党の江田共同代表は2008年から2012年までの5年間、政治資金収支報告書にイベントの収入を記載していたにもかかわらず、支出を記載していなかったと表明し、報告書を訂正した。

 
 
 兵庫県の「号泣県議」の一件以降、地方議会における政務調査費の収支報告書の訂正も相次いでいる。国会、地方議会ともに、なぜこれだけのミスが発生するのだろうか。これ以上、政治への信頼を落とさないために、どうすればミスを防げるようになるのだろうか。

 
 実は国会にはミスを防ぐための仕組みが設けられている。2008年4月に始まった政治資金監査制度は、国会議員に関係する後援会などの政治団体が収支報告する際に、特別な研修を受けた政治資金監査人の監査を受け、報告書を添付するよう義務付けている。

 
 それにもかかわらずミスを防げないのは、この制度が一部で形骸化しているからだ。政治資金監査人は弁護士や公認会計士、税理士なら誰でもなることができるが、実際には後援会の中の税理士などに研修を受けてもらい、形だけの監査をしているという例が少なくない。

 
 さらに小渕氏の問題のように、複数の団体で分散して計上していると、一つ一つの収支報告は正しくても、全体として不正を見過ごしてしまう可能性がある。これを防ぐには政治家が自ら監査人を選べないようにするとともに、それぞれの団体だけでなく、各団体をまとめて監査する制度に変えるべきである。

 
 企業であればこんな杜撰な経理が許されるはずもない。政府は投資家保護のために上場企業に厳密な決算の管理を義務付けており、企業側も当たり前のように受け入れている。政治資金には税金も含まれているのだから、なおさら厳しく管理すべきだ。そもそも企業に比べてカネの出入りは非常に少ないので、そこまで大変な作業ではない。

 
 
 「国会でスキャンダル合戦は見たくない」という国民もいるだろうが、実際に不祥事が明らかになっている以上、野党も追及せざるを得ないというジレンマがある。国会をスキャンダル追及ではなく、政策論争の場に変えるには、制度改革によって政治資金問題を撲滅するしかない。

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