映画『小野寺の弟・小野寺の姉』西田征史監督インタビュー

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脚本家としてこれまで数多くの作品を手掛けてきた西田征史が、このたび映画監督としてデビューを果たす。10月25日に公開される映画『小野寺の弟・小野寺の姉』は、自身が2012年に発表した小説が原作。翌年には舞台化され、そこでストーリーの軸となる小野寺家の姉弟を務めた向井理、片桐はいりが今作にもそのまま出演している。姉弟役としては意外とも思えるキャスティングだが、劇中では本物の姉弟に見えてくるから不思議だ。また、二人が暮らす家や食卓にのぼるご飯など随所にちりばめられた何気ない光景も、決して派手ではないもののストーリーを彩るディテールとして印象に残る。観る者を“ほっこり”とした温もりで包んでくれる映画『小野寺の弟・小野寺の姉』。そのメガホンを取った西田氏に、初監督作品に込めた想いを訊いた。

 

——西田さんはすでに脚本家、演出家としてご活躍ですが、今回初の監督作を作るまでの経緯を教えてください。

 西田「もともと25歳くらいから完全オリジナルの物語を作って演出することを舞台でやってきてるんですけど、映画の脚本となるとやっぱりどうしてもいきなりはオリジナルでは作らせてもらえないじゃないですか。なので、キャリアをいろいろ積ませていただいて、ようやく今回、オリジナルで勝負する機会を与えてもらったっていう感じです。最初から映画監督を目指してたというわけではないんですが、やっていく途中で、いつかやれたらいいなって思い始めたんですよね」

——今回の『小野寺の弟・小野寺の姉』は、2012年に小説として出版されました。小説の段階から映画化を見据えていたんですか?

西田「なったらいいなぁ……っていう感じですね。まぁでもその段階で確約が取れてるわけではないので、そういう想いもありつつ、せっかく小説を書くのだから映像の脚本では書けない書き方にしようと思いました。具体的なところでは、映像ではなかなか使えないモノローグ(心の声)を、小説では章ごとに目線を変えながらモノローグをなるべく入れるようにするとか。小説らしい表現で勝負できればなと思って書いたんですよ」

——そしてそれが映画の前に舞台化されるわけですね。舞台と映画だと演出の仕方も変わってくると思うのですが、そのへんはどう取り組まれましたか?

西田「んー、やっぱり使い分けっていうのはあると思います。舞台のほうは、最終的に俳優のものになっていくものだと思ってて。幕が開いてしまえば、僕の理想があったとしても、その日の俳優のリズムもお客さんのテンションも違うので、日によって相違があるもの。それが逆に“生っぽさ”という意味で舞台の魅力になるわけですけれども。一方、映像のほうは撮影でこれが答えだっていうのを切り取ったら、それをまとめて作品として完成させるので、作品自体としては誰が観ても変わりません。それぞれで大切にするものっていうのを、舞台と映画とでは演出の時に変えていく必要があるなとは思っていました」

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——念願の映画を撮り終えて、達成感も大きいのでは?

西田「いやぁ本当にそうですね。ありがたいことなんですけど、これまで脚本の仕事をやらせていただいている時に、どうしても何本かの作品を並行してずっと書いている状態が続いておりまして。そうすると、その作品のそのキャラクターだけを突き詰めて考えるっていう時間がそれほど持てないものなんです。

あ、あれですよ! 勿論精一杯作ってるんですよ。今の発言は、その作品だけを考えることができないのが辛いという意味で、時間が足りない、満足していないという意味ではないです。で、そんな中で、この映画の最中は他の仕事を一切動かさず、進とより子だけを考えて撮影に臨めたのでとてもスッキリしました。心がとても満たされた仕事でしたね」

——小説の段階から、進役には向井理さん、より子役には片桐はいりさんを想定されてたそうですね。このお二人が姉弟役ってことに意外性も感じたのですが、西田監督としてはどのへんが決め手だったんですか? 

西田「以前『ママさんバレーでつかまえて』っていうドラマで脚本と演出をやらせていただいたんですけど、その時に出演していただいていた向井くんとはいりさんの芝居の相性を見て、何か二人でできたらいいなっていうのは当時から漠然とあったんですよね。で、小説を考えていく中で、これはあの二人なんじゃないかって。だから、よく二人が姉弟なんて意外だって言われるんですけど、僕の中ではもともとあの二人が姉弟に見えないっていう考えがなかったんですよね。そこは僕に客観性がなかったところかもしれません(笑)。でもそんなふうに思っちゃったのは、たぶん二人が持っている空気と大事にしているものが一緒だって感じたからだと思います。人に対する接し方の距離感がすごく礼儀正しい。礼儀正しいぶん、人に対して求めるもののラインも高いんですよ。すごく丁寧だし、人当たりもいいんだけど、ちゃんとしてない人には厳しいみたいな、そういうところが僕の中で、姉と弟として自然に見えたんですよね」

——監督のおっしゃるとおり、画面の中のお二人は完全に姉弟でした。しかも、あれが素なのでは?と思うほど自然体で。 

西田「そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。僕が監督として一番こだわったのはそこだったので。二人が撮影を待っているところで喋ってる空気っていうのが、まさに進とより子そのまま。それをいかにそのまま、演じるというスイッチを入れずに芝居に入ってもらうかを考えたので、それが一番嬉しい感想だったりします」

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——また、向井さんに関しては、今まで見たことない感じだったというか。これまでのクールでかっこいいという印象が、ちょっとずぼらで情深くてっていう、本当の向井さんはこっちなんじゃないか?という気もしました。

西田「それも嬉しいですね。そこを見せたくてこの作品をやっているよな部分もあったので。向井くんのそういうチャーミングなところを友人として知っているからこそ、パブリックイメージじゃない面を引き出したかったんです。なので、それが伝わって良かったです」

——キャスティングの意外性のほかにも、今作に出てくる登場人物にはそれぞれに共感できるところがあって、その人の言動にいちいち「わかる!」と思いながら観ていました。そういう意味では西田監督は女性の気持ちと男性の気持ち両方を理解されてるのかなと思ったんですけど、ご自身ではどう思いますか?

西田「うーん、どうなんでしょうねぇ。僕はいつも、作品を書く時に女の人だからとか男の人だからとかっていうのを意識せずに書くようにしてるかもしれません。ヘンに考えすぎると嘘くさくなっていくんですよ。例えば女の人だったら、わかりやすく『◯◯だわ』って言葉遣いになったり。けど、そんなこと言わないよなって(笑)。だから、女の人のセリフも男言葉で書いたり、あまり性別によっての差を自分で作らないようにしてるんです。あくまでも一人の人間として、自分だったらこうするかなっていう考え方で。やっぱり自分が理解できないと書けないですからね」

——向井さんがおっしゃっていたのですが、西田監督が書く作品には一人も悪人が出てこないんですよね。今作で言えば及川さん演じる浅野が、クスッと笑えるような嫌味のないキャラクターになっていて。そのへんは監督自身も気を付けているのでしょうか?

西田「書いていくと、どうしてもそれぞれのキャラクターに思い入れが出てくるんですよ。なので、便利使いはしたくないなって。どの作品を書くにしても、主人公に葛藤を与えるため、苦しみを与えるためだけの悪役っていうのは書きたくないんです。その人にもその人の人生があるだろうから、何か理由があってこうなっているっていうふうに考えていくと、やっぱりどのキャラクターにもそれぞれの生活があって、一生懸命生きているが故にそうなってるんだろうと思っちゃう。だから自然と悪人にはなっていかないんですよね」

——監督にとっては、どのキャラクターも愛おしいものだと。

西田「そうですね。だから、すごい脇役の人に対して、この人がすごく好きでした!って言ってもらってもうれしいくらい。そういう想いで毎回書いてます」

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——それぞれの関係性、それぞれのエピソードに共感しながら拝見していたのですが、なかでも特に考えさせられたのは家族のことでした。この作品は西田監督ご自身の家族関係なども反映されているものなのでしょうか。

西田「あぁ、どうですかねぇ。……あの、これが作品でいいたいことでもないので、言うか迷うことなんですけど。……僕、兄がいたんですけど事故で亡くしてるんです。それもあってこの作品を書いたのかなっていうのを、最近になってなんとなく思ったんですよね。書いている時はそんなふうに思わなかったんですけどね。僕がこの作品の登場人物の中で一番共感するのは――もちろん全員のキャラクターに思い入れがあるんですけど、敢えて言うなら一番はやっぱり進で。彼の、相手を慮って言えばいいことを言えないっていうあたりは、自分も同じなのでわかる部分があって。で、そういう慮って言わないことってうちの家族にも通じるところがあるのかなと。僕も兄の死後、兄のことを口にしないほうがいいのかなって子供心に気遣っていた部分もありますし。そういうところが、この小野寺姉弟のベースにあるような気がします」

——また、この作品の中では小野寺姉弟のファッションや住む家、より子さんなどが作るご飯といった細かいディテールも印象的でした。監督としてはそこもやはりこだわった点なのでしょうか?

西田「そうですね。ファッションや姉弟が住む家は舞台からの延長で。こういうテイストでやりたいってことを伝えて、衣装さんや美術スタッフの方に揃えてもらった感じですね。家の間取りは舞台と違うんですけど、古いけどなんかかわいい、ああいうところに住みたいと思ってもらえたらいいなと思ったんです。出てくるご飯もフードコーディネーターの方と打合せしながら決めていったんですが、やっぱり、そういうディテールで作品の中に何か引っ掛かりとか楽しみを感じていただけたらと思ったんですよね。出てきたご飯を見て美味しそうだなぁって感じていただけたら、何もないような時間からでも何かを感じていただけると思うので、そこはすごく大事だと思いました」

——そういった細かいシーンも含め、この作品は観た人がいろいろなものを受け取れるものだと思うのですが、監督がこの映画を観て一番感じてもらいたいと思っているのはどんなことですか?

西田「んー、見ていただいた方にただ感じてもらえたらいいなと思っているので、そのへんはあまり口には出したくないんですけど……漠然としたことで言うなら、みんなそれぞれ生き方があって、そのそれぞれの生き方でいいんだよっていうこと、って感じですかね。あとは、あなたのことを理解してくれる人は近くにいるんだよ……とか。今ってこんな時代で情報が溢れてるから他者と比べてしまうじゃないですか?それで自分の生き方に悩んでしまう。人それぞれ生き方は違うけど、でもきっとそれでいいんじゃないかなって思うんですよね」

——映画の中で進が探し続けている“ありがとうの香り”。監督個人としては何を思い浮かべますか?

西田「あー、えーっと……お風呂の匂い、ですね。自分が入ったお風呂じゃなくて(笑)、誰かが入った後の、石鹸とかのいい香りと湯気がほわ〜っとしてる感じ。入ったのが誰かにもよりますけど(笑)。でも、あの感じが温かくて幸せの象徴のような気がします」

——映画のラストもすごく印象的ですよね、あの二人の日常は映画が終わってもそのままどこかで続いていくような感じで……。監督としてはあの二人の今後はどうなってほしいと思いますか? 

西田「僕の中では勝手に続編があればって考えてて、例えば、ロードムービーにしても面白いかな、なんて。二人でいろんなところに運転して行くっていう。向井くんもはいりさんも続編があればやりたいと言ってくれてるんで、いつか実現できたらなと思ってます。でも、まずは今回の作品。公開を控えて、実はすごくドキドキしてるんですよ(笑)」

 

文 片貝久美子/text  Kumiko Katagai

 

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『小野寺の弟・小野寺の姉』

10月25日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:向井理 片桐はいり 山本美月 ムロツヨシ 寿美菜子 木場勝己 / 麻生久美子 大森南朋 / 及川光博

監督・脚本: 西田征史 原作: 西田征史「小野寺の弟・小野寺の姉」(リンダパブリッシャーズ/幻冬舎文庫)

©2014『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会

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