「躾」が「押しつけ」に 個性心理学の第一人者が警鐘を鳴らす親子問題

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「躾」が「押しつけ」に 個性心理学の第一人者が警鐘を鳴らす親子問題

 親と子の関係のあり方が大きく変わっているといわれている昨今、親子間で起こる悲惨な事件は、後を絶ちません。どうしてそうなってしまっているのでしょうか。

 その答えの一つが『個性心理學から生まれた絵本「杉の木の両親と松の木の子ども」[七田式]』(しちだ・教育研究所/刊)という絵本に書かれています。作者の弦本將裕さんは個性心理學研究所の所長で、大ブームとなった『動物キャラナビ』の著書などで知られている方です。
 そんな弦本さんが講演会で毎回最後に話すのが「杉の木の両親と松の木の子ども」という物語。杉の木の両親の間に松の木の子どもが生まれ、自分の思い通りに育ってくれない子どもに悩む親と、親から愛されずに苦しむ子どもの関係が描かれています。

 その衝撃的な結末は心を打たれますし、どうしてこの親子はこのような道を歩まなければいけなかったのか、誰しもが考えるはず。今回はその絵本について弦本さんにお話をうかがいました。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■あなたは子どもの「個性」を認めてあげていますか?

――『杉の木の両親と松の木の子ども』という絵本は、非常に衝撃的な結末に驚きを抱くとともに、強いメッセージ性を持っている作品だと感じました。まず、どのような想いからこの物語を作ったのでしょうか。

弦本さん(以下、敬称略):普通、「絵本」というと可愛いものが多いですよね(笑)でも、現在子育て中のお母さん方の話を聞くと、個性の違いから、我が子でありながら理解できないとか、子ども同士の中でえこひいきしてしまうという声が聞かれて、親子の関係がとても難しくなっているのを強く感じました。
人間は、自分と異なる個性を受け入れるのは容易ではありません。それは、価値観が違うからなんですが、そこで、親子を杉の木と松の木という全く異なる性質を持つ「木」に置き換えることで、個性の違いを訴えたかったんです。

――「木」というモチーフはどこからでてきたのですか?

弦本:なぜ「木」に例えたかというと、「親」という字にヒントがあります。この字は、「木」という字、「立」という字、そして「見」という3つの字から成り立っています。これをイメージ心理学で被せたんですね。こう考えると、深いでしょう?

――すごく深いですね! この絵本は、杉の木の親の間に松の木の子どもが生まれ、その子どもは松の木らしくスクスクと育っているのに、杉の木の親はそれを認めようとせずに自分の意見と合う医者を探しまわり…という物語です。特に、医者を探しまわるシーンが印象的でしたが、どうして杉の木の親は自分の意見と合う木しか信じられなかったのでしょうか。

弦本:これは、アンデルセン童話にある「みにくいアヒルの子」の物語に共通していると思うのですが、自分と異なるモノ、これは風貌だったり考え方だったりいろいろですが、それを受け入れるのは容易ではありません。個性を考える時に、「みんな自分と同じように考えるはずだ」という間違った固定観念が「否定」を生みます。自分と他人は違うのだという前提に立たないと、コミュニケーションは成立しません。親は、最も身近な他人である我が子と接する時に、自分の価値観を押し付けようとします。人はこれを「躾」といいますが、実は丁寧に「お」が付いて「押しつけ」になってしまっていたのです。これは、組織などの人間関係にも当てはまりますから、子育てに限ったことではありませんが、自分という人間の器が大きくないと、他人を受け入れることは出来ないのです。

――弦本さんは「個性」を軸に心理学を展開されていらっしゃいますが、この絵本も「子どもの個性をいかに認めるか」というところが大きな一つのテーマになっています。どうして「個性」に着目されていらっしゃるのでしょうか?

弦本:私たち人間は、“多様な個性の集合体”であり、お互いの個性を受け入れることで、人間関係はスムーズになっていきます。異なる個性同士強く惹きつけ合うということは、恋愛などでも証明されていますよね。でも、その個性の違いから別れてしまうカップルが多いのも事実です。私たちが一番興味を持っている分野こそ、実は「個性」だったということに気が付いたからなのです。

――この絵本の中で描かれている「杉の木の親」は、子どもの「個性」を認められない親です。確かに、残酷な親のように見えるのですが、ただ、子どもが少しでも変だと思うと親は心配してしまうものだと思うんですね。

弦本:確かにそうです。でも、よく考えてみて下さい。どんな人も親に反抗して、反発しながら育ってきたはずです。なのに、自分のことを棚上げして、子どもに従うことを求めてしまっている。そして、それを続けると、親から怒られないように「いい子」を演じ続ける気持ち悪い子どもになっていまうんです。
また、個性に「いい個性」も「悪い個性」もありません。いいか悪いかではなく、親の価値観と一致しているかどうかだけです。個性の中には「才能」も含まれています。私は親は、その才能を見つけ出して伸ばしてあげるのが使命だと思っているんですね。「Education」=教育の語源は、「いい所を引き出してあげる」というのが本当の意味なのですが、どうも教育現場でも勘違いされていて「沢山の知識を詰め込む」という風に捉えられています。これでは、子どもたちが可哀想過ぎます。自分にとって「都合のいい」子どもが「いい子ども」であるはずがありません。そんな対応をしているから、子どもたちは親の前だけ「いい子」を演じてしまうのです。親は、子どもを無条件で信じてあげるべきだと思います。信じてあげるだけで、子どもたちはグレたりすることはなくなるのです。

(後編に続く)


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