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名探偵はおもちゃプランナー〜柚木麻子『ねじまき片想い』

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「おもしろい小説を書く作家のエッセイがおもしろいとは限らないが、おもしろいエッセイを書く作家の小説はほぼ例外なくおもしろい」。このコーナーで繰り返し強調させていただいている私の主張である。つい最近私のレーダーが捉えたのが、本書の著者・柚木麻子氏。小学館のPR誌「きらら」で現在連載中の「ゆうずうききますんで」は出色のエッセイだ。実はこの日記形式のエッセイを読むまでは、どちらかというと自分には縁のないタイプの作家かもと思い込んでいた。というのも柚木氏といえば、色白で可憐な容姿、上品そうなお嬢様っぽい雰囲気、女子校出身者が熟知しているであろう同性同士の甘美で残酷な関係性を濃密に描き出す作風…。共学出身で雑草育ちの身にはまぶしすぎる要素の揃い踏みであるからだ。しかし、「ゆうずうききますんで」で次々と露わになる著者の日常が…。琴線に触れたエピソードは多々あるのだが、特に気に入ったのは”大好きなカップ焼きそば『俺の塩』を常備してある”、”夫の実家に行くと、真っ先にブラジャーとコンタクトを外し、置きパジャマに着替える”、あとこれはインタビュー映像で見た”学生時代、スーパーの試食販売のバイトをしていた”あたりが現在のところベスト3か。めちゃめちゃ庶民的かつ豪快ではないか!これほどの逸材だったとは。

 本書の主人公は、業界最大手の玩具メーカー〈ローレライ〉に勤める富田宝子・28歳。勤務先は経営企画室のプリンセス・トイ事業部で、『魔法使いの心友』という小学校低学年女子をターゲットにしたアニメのおもちゃを作っている。服装コードのない自由な雰囲気の職場であるため、リバティプリントのワンピース+レース編みのニット帽+バスケットといった少女のようなファッションを貫いている。さらにはほっそりとした長身+ふわふわとした長い髪+大きな垂れ目と白い肌にそばかすという十代に間違われるような外見の持ち主なのだが、プランナーとしては敏腕で職場のエースだ。

 そんな宝子がかれこれ5年も片想いしているのが、フリーのグラフィックデザイナー・西島裕也である。舞台は子どもたちの夢を形にする玩具メーカーという職場、そこここに登場するのは宝子がこよなく愛するガーリーな小物の数々、主人公たちは奥手な美人プランナーと現在は不遇をかこっているが才能に恵まれたデザイナーと、あらゆるものがベタすぎではないかという予感に苛まれるが、ただ甘いだけの恋愛小説に仕立てるような柚木麻子ではない(そもそも東京創元社から出版されない)。なんと、優秀なおもちゃプランナーは優秀な探偵でもあったのだ(それも安楽椅子探偵ではなく、足で稼ぐタイプの)。西島に降りかかる数々の災難を彼に気づかせぬまま鮮やかに解決していく手腕を見る限り、宝子には天職がふたつあるようだ。

 そして、このユニークな恋愛/探偵小説はユニークな職業小説でもある。当たり前のことだが、店頭やコマーシャルで子どもたちを魅了するおもちゃは何人もの大人たちが総力を結集して作り出したものだ。プランナーがアイディアを出し、デザイナーがサンプルを作り、広告代理店やスポンサーの協力を得て宣伝をかける。それぞれにできることとできないこと、譲れることと譲れないことがあり、それでも最終的によりよいものを目指して完成形を作り上げていく。おもちゃが好きなだけでは務まらない、でも好きでなければもっと務まらない。これはどんな職業にも当てはまることではないだろうか。この仕事でやっていくという熱意とプロとしての矜持。ままならない一途な恋心を抱えながらもおもちゃ作りへの情熱を持ち続ける宝子を、すべての職業人(と就職希望者)は見習わなければ。

(松井ゆかり)

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