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医療改革 負担増より支出減をこそ

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【山本洋一・株式会社政策工房 客員研究員】

 政府内で医療改革の議論が進んでいる。厚生労働省は負担の引き上げによって医療費の増加に対応する方針だが、それだけでは抜本的な解決にはならない。既得権益が抵抗する支出削減に取り組まなければ、日本の素晴らしい皆保険制度を維持することはできない。

 
 厚労省が社会保障審議会の医療保険部会に示した「療養の範囲の適正化・負担の公平の確保について」には、かかりつけ医からの紹介状を持たずに大病院を受診した際の5000円程度の追加負担や、入院患者の食費負担の引き上げ、75歳以上の保険料の軽減措置の廃止、月収121万円以上の高所得者の保険料引き上げなど、負担増のメニューがずらりと並んだ。

※厚労省の資料はこちら

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000061515.pdf

 
 一方、同時に示した支出削減策「医療費適正化について」には健康づくりに向けたインセンティブの付与やデータ分析による医療費抑制などを盛り込んだが、目新しいものはない。

 例えば割安な後発医薬品(ジェネリック医薬品)を欧米並みに普及させれば医療費を7%削減できるとの調査もあるが、今回の厚労省案には「ジェネリック医薬品希望カード」の配布など中途半端な取り組みばかり。保険医療における後発薬の義務付けなど抜本策にはまったく触れていない。

※資料はこちら

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000061516.pdf

 
 厚労省が支出削減に後ろ向きなのは、業界の反発を恐れているからだ。厚労省の政策は基本的に社会保障審議会やその関連部会で決めるが、そこには医師会や薬剤師会など各業界の代表者がずらりと並んでいる。彼らの反対する政策は打ち出せないようになっているのだ。

 
 例えばジェネリック医薬品の普及には製薬業界が否定的。ジェネリック医薬品は新薬の特許が切れた後に別の製薬会社が同じ成分で作った薬のことだが、当然ながら後発薬が売れれば新薬を開発した会社の高価な薬は売れなくなる。大メーカーが後発薬の普及に賛成するはずがない。

 
 レセプト(診療報酬明細書)や電子カルテなどのITを使った支出抑制策の検討が進まないのも、新たな投資や勉強が必要になる町医者や、それを束ねる日本医師会が反対しているからだ。本来は政治家がリーダーシップを発揮してそうした政策を前進させるべきだが、多くの与党議員が業界から金を受け取っているため、声高に主張しようとはしない。

 
 高齢化が進む限り、医療費の支出はこの先もどんどん膨らむ。ある程度の負担増はやむを得ないが、それだけでは際限なく負担が増えていき、いずれ国民は耐えられなくなる。支出の削減に取り組まなければ、日本の皆保険制度はやがて崩壊してしまう。

 
 厚労省が示した負担増のメニューも実は先行きが心もとない。特に高齢者の負担増は「選挙に行く有権者」の反発が大きく、政権基盤が安定していない限り法律の制定まで持っていくのは難しいからだ。厚労省は安倍政権の支持率が高いうちに実現しようと考えたのだろうが、小渕優子経済産業相の政治資金スキャンダルで支持率は暴落の危機。仮に安倍政権の求心力が低下すれば、法案の提出さえ危うくなる。

 
 世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進む日本にとって、社会保障費の抑制は最大の政治課題である。この難しい課題の解決策を見出すのは役人ではなく、国民の代表である政治家の仕事。政治献金の受け取りを拒否してでも、支出削減に取り組む大政治家はいないものだろうか。 

カテゴリー : 政治・経済・社会 タグ :
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記者:

霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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