「まちの本棚」をみんなで手づくり 石巻の復興プロジェクト

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「まちの本棚」をみんなで手づくり 石巻の復興プロジェクト(画像提供:石巻 まちの本棚)

2014年、宮城県石巻市でスタートした『石巻まちの本棚をまちじゅうに増やそうプロジェクト』。いつどのように生まれ、どんな取り組みを行っているのか、『石巻 まちの本棚』代表の勝邦義さんらに話を聞いた。手づくりの小さな本棚と本を介して広がるコミュニケーション

2014年7月、石巻市で、オリジナルの本棚をつくるワークショップが開かれた。主催は復興応援プロジェクトの「hope&home」、製作指導は震災後に生まれたものづくりの拠点「石巻工房」が協力。宮城県産の栗駒杉を使い、1チーム(1人~家族など数名)で本棚2台をDIY(Do It Yourself)でつくり、1台は自宅用に持ち帰り、もう1台を小さな『まちの本棚』としてまちじゅうに設置する。

ワークショップでつくった本棚は、設置を希望するお店やコミュニティスペースに設置を依頼して置き場所を増やす。この企画を手掛けるのが石巻の中心市街地にある本の拠点『石巻 まちの本棚』だ。

【画像1】2014年7月に行われたワークショップには子どもを含む26組が参加した(画像提供:石巻工房)

【画像1】2014年7月に行われたワークショップには子どもを含む26組が参加した(画像提供:石巻工房)

【画像2】ワークショップ参加者が製作し石巻に寄贈した本棚。初めてでも上手につくれる(画像提供:石巻工房)

【画像2】ワークショップ参加者が製作し石巻に寄贈した本棚。初めてでも上手につくれる(画像提供:石巻工房)

もともと、石巻の市街地には新刊を扱う書店が少ないうえに、震災で多くの本を失った。そこで、「日常的に本に触れる場所、本が好きな人や本に関わる人たちが気軽に集まり語り合える拠点を」と、2013年7月に『石巻 まちの本棚』をつくった。

【画像3】宮城県石巻市中央、内装をセルフビルドでつくった『石巻 まちの本棚』(画像提供:まちの本棚プロジェクト)

【画像3】宮城県石巻市中央、内装をセルフビルドでつくった『石巻 まちの本棚』(画像提供:まちの本棚プロジェクト)

拠点となるスペースは以前、書店だったビルの1階を有志の手でリノベーションしてつくったそう。本棚と床が一体となった小屋組みは、東京のワークショップでつくった「週末みんなでつくる家」を譲り受け、石巻のワークショップで組み立て直したものだ。『石巻 まちの本棚』は、土・日・月曜の11:00-18:00にオープン(水曜夜も不定期で開館)。石巻市内外から多くの人が訪れ、本の閲覧、貸出や購入を楽しむ拠点となっている。

『石巻 まちの本棚』が軌道にのり、2014年に『石巻まちの本棚をまちじゅうに増やそうプロジェクト』がスタートした。手づくりの本棚は、市内の日本酒バー、まちの電気屋さん、沿岸部のゲストハウスなどに設置され、今後も設置場所は拡大予定だ。

「本はすぐに何かの役に立つものではないかもしれませんが、いつか何かの形で身になるはず。『まちの本棚』に訪れる人、利用する人が、本を通じて会話をしたり、コミュニケーションが生まれるようにと願っています。また、石巻を訪れる人が店先などに置かれた小さな『まちの本棚』を見て店主の人となりに興味をもったり、街歩きを楽しむきっかけになれば」と代表の勝さんは話している。

設置している本は、「石巻の人たち、訪れる人たちに読んでほしい本」として募集し、全国から寄贈されたものだ。「本の寄贈に協力してくれる人、本棚づくりを楽しんでくれる人がいれば、今後も続けていきたい」自らの手でものをつくり、未来を切り拓く『DIYの力』

本棚をつくるDIYワークショップに製作指導で協力している「石巻工房」は、震災後に生まれたものづくりの拠点施設だ。震災後、石巻の食事処・仕出し屋の建物を手がけた東京の建築家の芦沢さんが石巻を訪れ、地元の人たちと相談。壊れた家や家具などを直してもらうには時間がかかる。「大工さんがくるのを待っているより、自分たちで直したほうが早い」と、金槌(かなづち)や工具などを持ち寄り、自らの手で修繕を始めた。そして、市民工房のような場所をつくり「工具を貸し出すので、自分で生活に必要なものをつくったり、家具を修繕するのに使ってください」と呼びかけた。そんな小さな修繕のための「市民工房」が「石巻工房」を誕生させるきっかけになった。

その後、2011年の夏祭りの映画上映会で客席として使うために、ワークショップで地元の石巻工業高校の学生と協働してベンチをつくった。祭りで使ったベンチは屋外のオープンスペースや店舗に置いたり、仮設住宅に配った。手づくりのベンチは憩いの場、コミュニケーションの場になり、やがて「石巻ベンチ」と名づけて製品化された。

【画像4】「石巻工房」の製品第一号の石巻ベンチは、屋外で使い倒せることをコンセプトにした頑丈なつくり(画像提供:石巻工房)

【画像4】「石巻工房」の製品第一号の石巻ベンチは、屋外で使い倒せることをコンセプトにした頑丈なつくり(画像提供:石巻工房)

その後、仮設住宅で、天袋からものを取るときの台が必要になり、スツールをつくった。2011年秋には、アメリカのハーマンミラーの協力でワークショップを行い、ベンチやスツールなどを一緒に開発。自分たちでつくることが原点なので、誰にでもつくりやすいシンプルな構造だが、代表の芦沢さん、藤森泰司さん、アメリカのハーマンミラー社など、多くのデザイナーらが関わり生み出された、機能的でカッコいいデザインが特徴だ。

「石巻工房は『まちの大道具屋さん』としての役割も担っている、という思いがあります」と語る、石巻工房の武田恵佳さん。「商品を通して、もっと多くの方々にDIYの面白さ、モノづくりの面白さを感じてもらいたいです。地元の若い人たちが石巻でこんなカッコいいモノをつくっているんだ、と誇りに思ってほしいし、海外にも販路を広げて、石巻にはこんなカッコいいモノがあることを多くの人に知ってもらいたいです」

つくってもらうのではなく、自分たちでつくるという石巻のこれらの取り組みは、震災という困難な状況にあってピンチをチャンスに変えつつある。頭を使い、語り合い、手を動かし、協力しあい、ベンチや本棚などの必要なものをDIYでつくる工程や、DIY製品を通じて人と人がつながり、まちに活気があふれる。「震災前よりバージョンアップした新しいまち」を目指して、少しずつ前に進んでいる。被災地に限らず、まちづくりの重要なヒントがここにあるように思う。●石巻_まちの本棚
HP:http://bookishinomaki.com
●石巻工房
HP:http://ishinomaki-lab.org/
元記事URL http://suumo.jp/journal/2014/10/10/71094/

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