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高村薫初のユーモア小説登場!〜『四人組がいた。』

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 宝塚ファンが高じて、ごひいきのタカラジェンヌと家族ぐるみのおつきあいをし、ついには息子さんのお嫁さんに迎えたという女性の話題をニュースで見たことがある。もし”ファンであれば、その相手と自分の息子を結婚させられる”という法則があるとしたら、私だったら高村薫先生にいらしていただきたい(高村先生は私より15歳近く年上で、うちの一番下の息子とだと48歳ほど違うが、問題ない)。もし先生がお嫁さんだったら、「書き上げた原稿は私がいちばんに読ませてもらうわね」「2年に1冊は合田雄一郎ものの新刊を出してくれるとうれしいわ」「加納祐介の出番をもっと増やせないかしら?」と、注文し放題ではないか!高村先生が姑をたてるタイプだといいのだが。

 そんな心浮き立つ妄想はさておくとして、本書は著者初のユーモア小説との触れ込みである。読み始める前は、「高村先生が遠藤周作のような小説を…?」と正直危ぶんでいた(ユーモア小説と聞いて遠藤周作を思い出すところに、我ながら強烈な昭和臭がするが…。そもそも「ユーモア小説」という言葉自体、久々に耳にしたけれども)。読み進んでみると、実際古き良き時代の笑いを感じさせる作品となっている。最近のお笑いの主流とは異なる、吉本新喜劇風な。そもそも主人公からして高齢者たちで、ヤング感に欠けるし。その四人組、すなわち元村長・元助役・郵便局長に野菜の直売をしているキクエ小母さんは、郵便局兼集会所に集まっては日がな一日ああでもないこうでもないとダベり続けている。概ね彼らの関心事といったら食べ物と儲け話くらいしかないのだが、気の赴くままにしゃべったり行動に出たりしたことが、結果的に世間に対する鋭い風刺となっているのだった。一般的には地方住まいで高齢者ときたら弱者であるようなイメージではないかと思うが、この四人組を見る限りパワフルさは草食男子などの比ではなさそう。

 高村氏と時事ネタという取り合わせ自体ははさほど驚くべきものではない。何か事件が起きれば、テレビや新聞などで時事問題について持論を展開する著者の姿はよく見られるものだ。だが、その批評眼がAKB48やパワースポットなどの話題にも向けられるとなれば、さすがに意表を突かれるのもしかたのないことだろう。「え!高村先生ってこんなこともご存じなの!?」と瞠目させられるような細かいネタも。「ワイルドだろ〜」や「東方神起で決まりだね、あたしゃ絶対チャンミンだから」などといった台詞を高村作品で読めるとは…(感涙)。硬軟取り混ぜた幅広い知識に脱帽。

 しかしながら、「あの高村先生がこんなことを書いていらっしゃる!」という感慨を味わうためには、これまでに書かれた著者の作品を読んでおく必要がある。どの作品も読み応えがあるが、やはり『マークスの山』(早川書房/講談社文庫・新潮文庫)から入って、合田雄一郎シリーズあたりを先に読み進まれるのもよろしいかと。こちらは「警察小説」という単純なくくりに留まらない、警察官の狂おしい懊悩のみならず犯人の秘めたる狂気までもがひしひしと伝わってくる重厚な読書体験となるだろう。高村氏が「3.11の震災以降、ミステリー小説という枠組みに興味が持てなくなった」といった趣旨の発言をされていたインタビュー映像を見たことがあるが、合田&加納の活躍を待望する身としてはいま一度以前の路線への復活も期待したいところ。やはり、息子たちの見合い写真を送り付けさせていただくか…(冒頭の妄想に戻る→)。

(松井ゆかり)

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