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競争よりも「独占」を ~ピーター・ティール~

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ピーター・ティール/起業家・IT投資家

【何をした人?】オンライン決済サービス「ペイパル」創業者。Facebook初の外部投資家
【何ですごいの?】ペイパルから、自身だけでなく多くの起業家を輩出
【今は何をしている?】シリコンバレーで現在、最も注目される起業家・投資家の1人として活動中。サンフランシスコ沖に「独立海洋国家」を建設する計画も進行している

世界のオンライン決済の主流となったサービス「ペイパル」。出身者にはイーロン・マスク(スペースX、テスラ・モーターズCEO)やスティーブ・チェン(You Tube設立者)など多くの起業家が存在するが、そのボス的な存在が初代CEOのピーター・ティールだ。彼は経営に関して、さまざまな考え方を持つが、中でもピーター・ティールらしい哲学が、「競争を避け、独占を目指す」である。

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先進技術・アイデアを持つ企業への「エンジェル投資家」として名を馳せるピーター・ティール。特に最近では、航空宇宙、人工知能、先進コンピューター、エネルギー、健康といった分野で革新的なテクノロジーを持つスタートアップに投資している彼だが、若き日のティールが目指していたのは、投資家・起業家ではなく、アメリカ最高裁の法務事務官だった。

スタンフォード大学のロースクールを卒業後、連邦上訴審の事務官に就任。しかし、現在も陪席判事であるアントニン・スカリアとアンソニー・ケネディによる最高裁の面接に落ちてしまい、「死ぬほど落ち込んだ」とティールは振り返っている。

その後、金融機関勤務、投資ファンド創業を経て、1998年、パームパイロットという携帯情報端末(PDA)で決算を取り扱うコンフィニティ社を起業。翌年に「ペイパル」という名称でオンライン決済サービスを開始し、2000年にはイーロン・マスクが立ち上げたXドットコムと合併した。

マスクのXドットコムは、ペイパルと同じくオンライン決済サービスを行う企業で、共にシリコンバレーに本社を置くライバル同士であった。それにもかかわらず、なぜ2社は合併したのだろうか? 母校での講義を収録した著書『ゼロ・トゥ・ワン』の中で、彼は次のように振り返っている。

「2000年2月になると、イーロンも僕もお互いのことより急激に膨れ上がったハイテク・バブルの方が恐ろしくなってきた。市場が崩壊すれば、争いに決着をつける前にどちらも潰れてしまう」

世界的なITバブルは、ティールとマスクの見立て通り、2002年に崩壊する。その危機を察知した2人は、両社のオフィスの中間地点にあるカフェで会談の場を持ち、互いがフィフティ・フィフティとなるような合併交渉を始めたのだという。

合併後のペイパルからは、ティール、マスクだけでなく、「リンクトイン」のリード・ホフマン、「YouTube」のスティーブ・チェンなど数々の起業家を輩出し「ペイパル・マフィア」とまで呼ばれるようになった。もし、合併がなければ、その後のITの歴史は少し変わったものとなっていたかもしれない。

また、2社の合併は、ティール自身が争いを好まない人物である点も影響している。

彼を少しでも知る人ならば、「ピーター・ティールは、究極のリバタリアン(完全自由主義者)ではないか」と感じるだろう。ティール自身もそれを認めており、サンフランシスコ沖の公海上にリバタリアン的思想を持つ人々が自由なビジネスができる「独立海洋国家」を建設する計画すら持っている。

ビジネスの場面において、「強者こそ善で、相手を叩き潰すまで徹底的に戦う」とイメージされがちなリバタリアンではあるが、ティールの場合は「競争すればするほど得られるものは減っていく」と考える。例えば、マイクロソフトとグーグルを例にとり、「ウィンドウズ対クロームOS、ビング対グーグル、エクスプローラー対クローム……」と、両社はあらゆる分野で対立していることを指摘。その結果、アップルに支配的地位を奪われてしまい、株式の時価総額で2社を合わせても4,660億ドル(2013年1月時点)と、こちらでもアップル1社のそれ(4,900億ドル、同)を下回ってしまった。

このように、争いによって得られる利益より、損失の方が大きいと考えるティールは、イーロン・マスクの会社を潰すことに力を注ぐよりも、共に市場を独占していくことを選んだ。

そして競争は、破壊を招くこともある。ペイパルのオンライン決済は、クレジットカード「VISA」のような企業を駆逐するのではと想像するが、むしろ市場が大きくなったことで、ティールは「VISAは損よりはるかに得をしているはずだ」としている。確かに、VISAがニューヨーク証券取引所上場後に発表した2009年度の売上高は4.25兆ドルだったが、現在(2013年度決算)は6.9兆ドルにまで成長している。

最後に、ナップスター(音楽ファイル共有サービスで、創業者のショーン・パーカーは「音楽産業を破壊する」と豪語していたが破産に追い込まれた)を引き合いに出した、ティールの見解を紹介しよう。

「ナップスターがアメリカのレコード業界に仕掛けたような、市場全体が損をする戦いとは違って、僕らの場合は市場全体が潤った。周辺市場に拡大する計画を練る時には、破壊してはならない。できる限り競争を避けるべきだ」

【参考資料】『ゼロ・トゥ・ワン–君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版)

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