派遣期間制限廃止で見える雇用の未来

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「スペシャリスト」を重用するアメリカで生まれた「派遣労働」

派遣期間制限廃止で見える雇用の未来

「派遣切り」や「年越し派遣村」などのニュースで非正規雇用の代名詞になった感のある派遣労働ですが、いわゆる正社員とは何が違うのでしょうか?

派遣労働とは、人材派遣会社(派遣元)に雇用されて、人材派遣会社が仕事を請けてきた企業先(派遣先)で働く働き方です。つまり、雇用関係は人材派遣会社との間に存在しながらも、指揮命令関係は派遣先企業との間にあります。高度な能力を有する政令26業種等を除いて、派遣受け入れ期間は3年以内となっているのが現状です。派遣受け入れ期間については、「同一の業務に関してトータル3年以上、派遣社員を受け入れてはなりません」という意味です。同一人物を3年ではありません。これは、日本においては派遣労働がそもそも急場をしのぐ制度であり、3年以上も派遣労働者が必要というのは、「すでに正社員を雇わないといけないレギュラー化した業務ではないですか?」ということになるからです。

また、もともと派遣という働き方は「スペシャリスト」を重用するアメリカで生まれました。「高度な能力を有するスペシャリストは自社で確保するのが難しい」ということから始まった制度なのです。しかし、日本人には、この表現を見て違和感を覚える人もいるかもしれません。それは、日本では、職種を限定したスペシャリストを雇用するという慣行がほとんど無いからです。そしてまた、そういったスキルを認め、担保する仕組みも整っているとは言えません。

派遣期間制限廃止で雇用慣行が転換され派遣労働者の二極化が進む

しかし、厚生労働省は先日、企業の派遣労働者受け入れ期間の上限廃止を柱とし、先の通常国会で廃案となった労働者派遣法改正案について、施行時期を2015年4月のまま変更せずに臨時国会へ再提出する方針を固めました。これにより、組合等の労働者側が主張する「非正規社員の増加や固定化」というものが真っ先に想定されると思います。

ただ、もっと深く考えてみると、別の未来も見えてきそうです。今後、日本の雇用慣行は転換され、スペシャリストが重用されるようになり、それに伴い、自己訓練の重要性が増すものと考えられます。今の時代、巨大企業でも「一寸先は闇」ですから新規事業に正社員を募るのを躊躇うでしょう。そんな時、プロジェクトの先導役として派遣労働者が重宝されるかもしれません。上手く軌道に乗れば直接雇用になる人もいるでしょう。また、能力の高いスペシャリスト派遣労働者は腕利き職人のように次々と仕事が舞込んで来る可能性があります。

結果として、能力を担保し保持するために自己訓練を行っているか否かで派遣労働者の二極化が進むことになりそうです。そして、派遣労働者を雇用する営業力や職業訓練能力、福利厚生や労働条件も問われるでしょう。派遣期間制限廃止は、ますます自己責任が問われる時代に突入した今、「雇用の流動化」を推し進めるという政府の考えの意思表示にも見て取れます。我々も思考転換が求められているとも言えるでしょう。

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