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富士山の山小屋が「そこにある意味」

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標高=3,776mで日本一の高さを誇る、富士山。訪れる人も増加傾向にあり、2005年は20万人に留まっていた登山者数は、2010年に32万人を超えました。昨年も約31万人が富士山に登っており、”山ガール”に見られるような登山人気、外国人旅行客の増加、そして富士山の世界遺産登録などが要因となっているものと思われます。

登山者数と比例して増えてしまうのが、さまざまなトラブル。6月23日付『産経新聞』には「ハイヒールや背広に革靴姿で登る人もいた」との、静岡県警山岳遭難救助隊隊長のコメントが掲載されています。このような準備不足のほか、5合目から休息をとらず一気に頂上を目指す「弾丸登山」など無謀な計画を立てる人もおり、世界遺産として脚光を浴びる一方で、登山者のモラルも問われるようになってしまいました。

そんな富士山を「山小屋」という舞台裏から見つめたのが本書『雲の上に住む人 富士山須走口七合目の山小屋から』。7月10日に発行されたもので、共著者の関次廣さんは富士山須走ルート7合目の山小屋「大陽館」の主人、写真家・ジャーナリストである山内悠さんは大陽館に延べ600日間滞在し、本書と処女作である写真集『夜明け』(2010年刊行)を発表しています。

太陽館が位置する7合目は、標高=3,000m。タイトルにもある通り、本書には視点より下に雲が浮かぶ写真が数多く収録されています。そのような”下界”とは異なる環境の中、エネルギー確保のため大陽館が導入しているのが、太陽光発電と風力発電。しかし、主人である関さんは元来、エネルギーについて次のような考え方を持っていたそうです。

「暗くなったら眠ればいい。夜が明るい必要はないからね」

これは本書に収められている関さんの言葉ですが、実際に大陽館に伺うと、同じ話をしてくれました。それにもかかわらず、エネルギーを確保しなければならなくなったのは、食料をできる限り保存するために冷蔵庫・冷凍庫の電源が必要になり、さらに夜間に行動する登山者も増えたから。

ただ、電気や環境美化のために導入された燃焼処理方式トイレなどは、下界に近い環境をつくることにもつながります。この点で、関さんは次のような危惧があると、話してくれました。

「世界遺産になった今、自然の中に来た、山に来たという意識を持って登る人はどれほどいるだろうか? 美術館や博物館に行ったつもりの人の方が多いのではないか? 上高地(長野県にある標高1500mの山地)でさえ、登る人はきちんとした装備をしている。その意味で富士山は、上高地以下(の登山者の意識)になってしまったようにも感じてしまう」

現在、大陽館がある場所には、700〜800年前から山小屋があったといわれており、室町時代初期である1384年につくられた懸仏(神仏習合の時代に柱・壁などに掛けて信仰した神仏像)も発掘されています。さらに現在の建物も、明治20年に建てられたときの基礎、構造がそのまま残されているそうです。本書の中で関さんは、古くから同じ場所に山小屋がある理由について、次のように語っています。

「この間登山者が倒れた場所は、この山小屋と上の山小屋のちょうど中間地点なんだ。あそこに気圧の変わり目がある。この下の小屋との中間地点にも気圧が変わる場所がある。(中略)そこで確実に身体には大きな影響があるということだ。こうして昔から山小屋があり、今でも残っている場所にはそういう必要不可欠な意味があるんだ」

富士山の山小屋は「そこにある意味」を、形を変えぬまま、私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

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