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旅人は何かが欠けている。創刊10周年の旅雑誌「Coyote」編集長に聞く、地図をつくる旅

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「旅」という言葉を切り口にした雑誌や本、記事などは、いまや書店からネットまであふれています。その中で目を引く、自分のスタイルを貫く旅人というのは、いつも自由でこだわりと愛情の深い人々に思われます。

今回は長年旅玄人たちに愛される雑誌「Coyote」の編集長に、旅とは何か、人はなぜ旅をするのかといった哲学的かつ永遠のテーマを中心に、お話を伺いました。

「Coyote」は、あこがれの旅人のフィルターを通して見える景色を形にした雑誌

「Coyote」編集長、SWITCHパブリッシング代表の新井敏記さん

― 雑誌「Coyote」は今年で創刊10周年を迎えます。おめでとうございます。

ありがとうございます。「Coyote」は、僕がひとりひとりの持つ旅のスタイルに興味があって、それを紹介できる雑誌を作りたくて始めました。

中でも沢木耕太郎さん、池澤夏樹さん、藤原新也さん、それから今月の特集でもある星野道夫さんの4人の旅観がとても好きだったのが原点です。彼らがどこへ行って、何を見て、誰と出会って何をしたのか、話を聞いているだけでほんとうに心が躍りました。彼らに責任編集を任せて旅の雑誌をつくれたら、と思っていました。

― それぞれの好きなものを好きなように紹介していく雑誌、ということですね。

そう。1996年に星野さんは亡くなってしまったけれど、生前は「アラスカはいいですよ」と物語を読み聴かせてもらうように聞いていて、聞いている間はまるで風景が目の前に広がっているようでした。だから実際にアラスカに行くと、星野さんのフィルターを通してどう見えるのだろうかということをいつも考えました。

歴代の雑誌「Coyote」。手前は最新号「アラスカ 星野道夫の暮らし」。

風景も大事だけれど、その風景を身近にするためには人が出会うことが大事だと、彼は繰り返し教えてくれたし、今もそう実感しています。人との出会いがあると、もっともっと行きたくなって、だからアラスカへも何度も足を運んで、滅多に喋れないような現地の人たちとも話したりしました。

旅の仕方や準備するもの、動機もみんな違う。そういう部分を紐解くと、個人の旅のスタイルが見えてきて、それがすごくおもしろかった。旅の仕方も100人いたら100人違いますから。僕らが提案したいのは「地図は自分で作る」ということです。

― その地図を「Coyote」を通して見せていきたいと。

自分たちの行ったことのない場所の話を聞くと、思いを馳せるじゃないですか。まったく何の予備知識もなくて感動することもあれば、誰かの言葉を聞いたからこそ心打たれることもある。先入観はあまり生まれないです。

現地の日常を知りたいという旅人のジレンマ

― 多くの国や刺激的な場所へひっきりなしに行っていると、マンネリしてしまうことや物足りないと感じてしまうことはありませんか。

例えば大好きな人でも、ウェルカムなときもあれば冷たいときもありますよね。相手のコンディションによって印象は変わってしまうから、僕が「好きだな」と思っても、相手の国や現地の人の受け入れ態勢が変われば、対応も変わる。そうすれば「帰ろうか」と思うことだってありますよ。

あとは毎年足を運んでいて記憶に焼き付いた原風景が、すっかり変わってしまったのを見て一気に冷めてしまったことはあります。竹富島がそうですね。昔は10円くらいで乗れる村の人のための周回バスが走っていたけれど、今は観光客のために数分刻みでバスが出ている。もともと流れていた島の時間が大きく変わってしまいました。何かを伝えてくれていた不便さが、今は消えてしまいました。

― 旅をする身としては、ジレンマを感じずにはいられません。

まあ、旅人でよそ者である僕の勝手なジレンマですよね。そこへ行かない権利もあるわけですし。でも観光資源としては大きいかもしれないし、村の人は喜んでいるのかもしれない。ただ、得たものと失ったものは等価ですから、もったいないという思いは拭えません。

― どの国でも、どの場所でも観光客の流入で地元のひとの生活が変わってしまった場所は多いと思います。

昔、アーティストのCoccoさんに「新井さんは、月の光で影踏みしたことがある?」と聞かれたことがあります。ぼくはそんなことをしたことはなかったし、カンボジアだとかの田舎で、開発が進んで闇がなくなっていくのを見たことがあったから彼女の言葉はとても沁みました。ぼくにとっては、そういう経験のある人がうらやましいですね。

旅をするのは一種のSOS

― 土着の文化や日常を知ることが、一番おもしろいんですけれどね。わたしたちが永遠によそ者だからこそかもしれませんが。

旅をしていると、この山から一歩も出たことないっていう人と出会うこともあります。彼らは、地元のことをとてもよく知っています。山のことや山菜が採れる場所とか、鳥の鳴き声だとか。そういう人って一番すごいと思うんだよなあ。偉いのは、旅に出る人ではなくて、旅に出ない人ですからね。

― と言いますのは?

旅をする必要がないということは、確固たる信念があるのだと思います。一方で、旅をすることは、何か自分に欠けているものを探しにいきたいという願望が、ある種の発露になっている。だから、旅をしない人がぼくは一番すごいと思う。

― 新井さんご自身が「Coyote」で切り口を変えて旅のスタイルを見せているように、旅の記録を書き残して誰かに見せる行為には、どういう意味があると思われますか。

「自分がここにいる」というのを伝えたいのだと思います。昔は手段が少ないから雑誌くらいしかツールがなかったけれど、今はウェブがあるから誰でも表現者になれる。よくFacebookで食べ物の写真をアップしている人もいますが、僕にはそれが一種のSOSに見える時があります。

― 痛切なアピールということですか。

そう。本人は意識していないと思いますが、時々キリキリ痛むんだよね。

― 欠けているものを探しに行く行為が旅なら、満たされた自分を他者の反応を通して確認するために発信するのでしょうか。

根本では同じだと思います。雑誌を作ったのも、褒められたかったから。書くことが好きだし、それを読んでどう思われるか反応を見たかった。今は読者の人の感想を直に聴く機会を得るために、イベントを開催したりしています。

探しに行くという意味では、僕は昔は家出をよくしました。家出セットを常備していたくらいで、時々警察に補導されたこともあります。行為を指す表現はいろいろあると思います、旅や観光、旅行もそう。それぞれに自分のコードがあるんだけど、それをたくさん持っていると楽しいでしょ。僕は観光も旅も旅行も好きですよ。

自分で地図をつくる旅を

― 「Coyote」は、地図は自分で作ることを提案するための雑誌だということを、先ほど仰っていましたが、読者の方に一番届けたいものは何でしょうか。

「Coyote」自体は、旅先で役に立つ雑誌ではありません。役立つというよりは、現地へ行った人が追体験できるような雑誌にしていきたい。地図を作る旅をしてきた人にとっては、それを補える要素が多分にあると思います。そういう意味では、ガイドブックから漏れてしまった情報が「Coyote」にはあります。

― 今後「Coyote」という雑誌や新井さんご自身が、読者の方にどうなってほしいなどありますか。

今回はアラスカの特集ですから、ぜひアラスカに行きたいと思って欲しいです。ただ雑誌やメディアは「僕の場合はこうでした」ということを見せるしかできない。繋ぎ止めて深化させるのは読者の方々だから、今後の旅に派生していく何かを、「Coyote」から拾ってもらえたらうれしいです。

(撮影:赤崎えいか、聞き手・編集:立花実咲)

[新井敏記:編集者、ノンフィクションライター。日本大学芸術研究所卒。1985年、インタビュー・カルチャー・マガジン『SWITCH』を創刊し、2003年まで同誌編集長を務めた。1994年、スイッチ・パブリッシングを創業、代表取締役。2004年、旅する雑誌『Coyote』を創刊、現編集長]

「Coyote」No.53 【アラスカ 星野道夫の暮らし】9月15日発売


写真:Coyote公式HPより

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