ブラック企業と「旧日本軍」の類似点 トップが部下に「無茶な精神論」を押し付け

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ブラック企業と「旧日本軍」の類似点 トップが部下に「無茶な精神論」を押し付け

働く人をないがしろにする「ブラック企業」に対する批判が、あらためて高まっている。批判の中にときおり見られるのは、そんな会社や経営者を「旧日本軍」になぞらえる意見だ。例えばツイッターには、こんなコメントも投稿されている。

「何でも感(ママ)でも根性が足りないとか社蓄(畜)とは旧日本軍ですか?過重労働者に自己管理も何もその前の前提の間違いを正せよと」

「日本人は草食動物」と補給を軽視した牟田口中将

ブラック企業と旧日本軍の共通点として、たびたび指摘されるのが「現場を無視した無理な戦略」と「現実を無視した上司の無理強い」だ。

「ブラック企業」の経営者には、違法行為やハラスメントの悪質さを自覚しているタイプと、自覚していないタイプがあるといわれる。特に後者は、収益性の低い事業を営む中小・零細企業の経営者が、部下に「精神論」を押し付けて乗り切ろうとする場合が多い。

旧日本軍の場合と共通するのはこのタイプだが、その傾向が最も顕著にあらわれたのが、1944年3月に陸軍によって行われたインパール作戦といわれる。この作戦は、連合軍が駐留するインドの都市インパール攻略のために、日本軍が3個師団を繰り出したものだ。

前線が拡大して補給が困難になるため、軍内部でも作戦に反対する声があがる中、牟田口廉也中将はこの作戦を強引に実行する。当時兵隊一人が持てる食糧は3週間分が限度で、ビルマからの長い道のりを行くには明らかに足りないが、牟田口中将はこう言い放ったという。

「ビルマにあって、周囲の山々はこれだけ青々としている。日本人はもともと草食動物なのである。これだけ青い山々を周囲に抱えながら、食糧に困るなどというのは、ありえないことだ」(NHK取材班編「太平洋戦争 日本の敗因〈4〉責任なき戦場 インパール」角川文庫刊より)

当時の軍では、ジャングルに生える野草を食べる研究が真面目に行われていたというが、それだけを食糧とするのは無理というもの。結果的に将兵たちは、飢えで次々と倒れていった。
「食わず、飲まず、弾がなくても戦うもんだ」

補給がないことにしびれを切らした31師団の佐藤幸徳師団長は、インパール北方の要衝コヒマ方面に到達していたが、作戦の途中に独断で撤退してしまう。これに激怒した牟田口中将は、将校たちの前でこう語ったという。

「佐藤の野郎は、食うものがない、撃つ弾がない、これでは戦争ができないというような電報をよこす。日本軍というのは神兵だ。神兵というのは、食わず、飲まず、弾がなくても戦うもんだ。それが皇軍だ。それを泣き事言ってくるとは何事だ。弾がなくなったら手で殴れ、手がなくなったら足で蹴れ、足がなくなったら歯でかみついていけ!」

牟田口中将の長い訓示を聞いているうちに、栄養失調状態だった将校たちは次々と倒れていった。同作戦は開始から3か月あまりで中止が決定。退路でも将兵が次々と飢餓や病で倒れ、戦死者は3万人にのぼったという。

これに類する話は、身近な企業でも耳にしたことがあるのではないか。社員から「ブラック企業だった」という声もあがる居酒屋ワタミを創業した渡邉美樹氏も、テレビ東京の番組「カンブリア宮殿」で村上龍氏にこう信念を述べている。

「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ。途中で止めるから無理になるんです」

「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる。そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」

経営者は何のために、社員にそのような働かせ方をする必要があるのだろうか。
連合軍「実際に戦闘する兵士たちのことを考えよ」

無理な戦略を精神論で押し切ることへの批判に対し、「戦争や仕事とはそういうものだ」という旨の反論もあるが、迎え撃つ連合軍はそのような戦い方をしなかった。

前述の「太平洋戦争 日本の敗因」によると、英国軍は補給線が伸びて日本軍が弱体化することを予想。緒戦で国境付近に展開していた部隊を、物資輸送の可能なインパール平野まで撤退させている。

さらには日本軍の勢力圏内でゲリラ戦を展開するとともに、航空機からの空中補給によって自軍を徹底的にサポートした。戦後、英国軍の将校はこう話していたという。

「日本軍も最後まで勇敢に戦いましたが、弾薬もなく補給もなくなれば、それまでなのです」

「極東だけでなくインドも占領しようなどという大々規模な作戦を行おうというのならば、実際に戦闘をする兵士たちのことを考えなければ。すなわち、継続的な補給網の確立なしでやってはいけないことは、あまりにも明白なことです」

「すき家」のゼンショーは、深夜の一人勤務・通称「ワンオペ」や、月500時間労働でデフレ時代に成長を遂げた。一時は外食ナンバーワンの座を誇ったが、いまでは人手不足で多数の店舗の閉店を余儀なくされている。

ヒト・モノ・カネの補給が十分にないまま、個人のムリな労働に頼ったブラック企業の経営は、そのまま旧日本軍の無謀に通じていると言ってもいいのではないだろうか。

(文:ロベルト麻生)

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