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松方弘樹が今の時代劇の様相を嘆く 「見てられない。酷い」

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 これまで様々な役柄を演じてきた俳優・松方弘樹が、自身の演技哲学について語った。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。

 * * *

 松方弘樹は2009年の大河ドラマ『天地人』で徳川家康を憎々しい悪役として演じた。他にも、松方が歴史上の人物を演じる際は、史実のイメージに留まらない毒々しさを放つことが多い。

「一番極端な例は『柳生一族の陰謀』で将軍家光をやった時ですね。顔に痣を作って、吃音にしてね。それをやりたいと深作欣二監督に言ったら、『おお、いいな』と乗ってくれました。弟の忠長がイイ男で家光は人望はないし風貌もよくないという設定でしたからね。

『天地人』の家康では頭に瘤(こぶ)を作りました。僕らが若い頃って、そういう人がいましたからね。渡辺謙が主演の『織田信長』で僕は斎藤道三をやりましたが、その時に最初に瘤をしたんです。それが反響がよかった。で、今度は家康が悪役だというから、普通にやったら面白くないと思って。それで宣教師の帽子で瘤を隠していて、天下人になったらそれを初めて見せるとか、先までいろいろと考えましたよ。

 演じる上では悪の方が面白い。人殺しも、殺されるのも、映画やドラマの中でしかできません。それを『らしく』見せるのが演者でしょう。その時に一番『らしく』見せられるのが悪役なんです。主役は淡々としている方がいい。ずっと出ているわけですから、やり過ぎるとお客さんが飽きるんですよ。

 ですから、僕も主役の時は割と流すシーンが多いです。悪や脇の時はいろいろと考えます。主役を食ってやるくらい頑張ると、主役が立ってくるんです」

 近年の松方弘樹で印象深いのは2010年の映画『十三人の刺客』だ。本作の松方は、武士としてのたたずまいや立ち回りの凄味で並居る人気若手俳優たちを圧倒していた。

「立ち回りは、いきなり現場ではできませんよ。彼らは刀を持ったことも、差して歩いたこともない。袴も穿いたことがないから、5回も座ったらケツが出ちゃって、そのまま引きずって歩いているもんね。13人を演じた俳優は僕の立ち回りをみんな見に来ていましたが、見ててもできないです。

 しかも、あの立ち回りは『動』ばっかりで『静』がない。ですから、僕のカットでは絡みに『俺がジッとしたら動くな』と指示しました。止まるから、初めて動いたスピードも早く見える。だから、僕の所だけ違うんです。でも、『動くな』と言っても、みんな逸るんですよ。立ち回りはちゃんと絡みができる俳優が本当にいなくなった。

 ただでさえ芯の出来る主役がいなくなっているのにね。両方が下手なんだから、今の時代劇は見てられないわね。酷い。

 昔の映画の所作事が素晴らしいのは、時間をかけているからです。時間というのはお金です。お金があったら、もっと画はよく撮れます。僕らの若い時はテストを20回もやってくれましたが、今は1回か2回ですからね。それでは上手くなりません。今の映像は、金がないのが全てです。俳優さんが悪いんじゃない。体制が悪すぎる。

 悲しいです。いい時代を見ているだけに、今のテレビドラマや映画の現場に行くと、悲しい」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年9月5日号


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