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ブラック企業と伝説の格闘家 人材育成法の違いを識者が分析

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 格闘技界のレジェンドが自伝を発表した。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏は「若手社員のマネジメントにも使える」と勧める。

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 『希望の格闘技』(イースト・プレス)という本を読みました。著者は、格闘技界のレジェンド中井祐樹氏です。勝負哲学の本なのですが、これは部下・後輩のマネジメント、育成に悩むビジネスパーソン向けの本だと思いました。ポイントをお伝えしましょう。

 まず、中井祐樹氏についてご紹介しましょう。北海道出身の彼は高校時代にレスリングを、北海道大学で高専柔道の流れをくむ七帝柔道を学びます。七帝柔道は、やや端折って言うならば、寝技中心の柔道です。この競技で活躍後、大学を中退して上京。初代タイガーマスク、佐山聡氏がつくった総合格闘技、シューティング(現:修斗)に入門し、活躍。ウェルター級チャンピオンになりました。

 中井祐樹氏の試合と言えば、1995年4月20日に日本武道館で開催されたバーリトゥードジャパンオープンというトーナメントでの試合が格闘技ファンの間で語り継がれています。当時は日本の総合格闘技の黎明期とも言える時代で、ルール面などでの模索が続いていました。無差別級のトーナメントではありましたが、1回戦で身長差が約30センチ、体重差が30キロ以上ある、オランダの喧嘩屋ジェラルド・ゴルドーと対戦。

 ゴルドー選手はサミング(指を眼に入れる行為)、噛みつきなどの反則をする選手として知られていましたが、この日もサミングを連発。明らかに体格差がある中、踏みつけられ、殴られましたが、足の関節をきめ、勝利しました。この日、当時学生だった私も観戦していたのですが、諦めずに立ち向かう姿に感動しました。決勝まで進み、400戦無敗の男として知られる、ヒクソン・グレイシーと対戦しています。

 しかし、この日の試合がきっかけで、右目を失明。その後はブラジリアン柔術に転向し、アメリカ、ブラジルで実績を残しました。現在は、日本ブラジリアン柔術連盟会長、格闘技ジムであるパラエストラ東京の代表を務めています。

 私が格闘技ファンであるが故に、ついつい前置きが長くなってしまいましたが、まさに格闘技界のレジェンドです。格闘技イベントPRIDEが始まったのが1997年ですが、その前の礎をつくった一人であり、世界的に活躍する青木真也選手を始め、たくさんの後進を育成しています。

『希望の格闘技』は、中井祐樹氏の自伝であり、勝負哲学の本であり、もちろん格闘技ファンにはたまらないのですが、むしろ部下・後輩を抱える会社員向けの本だと思いました。なぜならば、世界に通用するプロを育成した指導者のメソッドとマインドが、惜しげも無く公開されているからです。

 先日、中井氏と対談するという貴重な機会を頂いたのですが、そのときにも、この本でも感じたのは、「次の世代は、自分たちより強くなって欲しい」という彼の想いです。そのためにも、自分のコピーを作らないのです。

 格闘技というと、体育会の空気、厳しい上下関係という印象を抱く方もいるでしょう。さらに、特定の型があり、ひたすらそれを叩き込むという印象もあるでしょう。中井氏ももちろん、礼儀は大事にしますし、ある型を学ぶことを否定しませんが、彼は、後進を自分の色に染めるタイプの指導はしません。様々な格闘技のメソッドがあることを伝えます。「こうやれ」と押し付けるのではなく、「こういう考え方もある」という教え方をします。これを自分になりに消化し、考えて行動できるようになることを重視します。また、チャレンジする機会を与え続けます。

 彼の話を聞いて、ブラック企業にありがちな人材育成法との違いを感じました。ブラック企業といえば、高いノルマ、劣悪な労働環境などをイメージする方も多いと思いますが、さらには「行動モデル」の設定と徹底ということが一つのパターンとして見受けられます。つまり、「1日必ず◯件の営業訪問をする」「この商品を必ず進める」「このトークを使う」ということがルールとして決められていて、その通りにやることが求められるわけです。

 これはブラック企業に限りません。組織的な営業力を高めるために、行動モデルの設定を行っている企業は存在します。営業の勝ちパターンの一つであり、短期で、スキルの低い人でも成果が出やすくするためには、適した方法の一つだとは言えます。

 ただ、このやり方は、環境の変化があった場合は、すぐに通じなくなること、個々人が自律的に考えて行動しなくなる可能性があることが難点です。

 日本の格闘技の世界でも、ブラジルのやり方、アメリカのやり方など、流行ったものにすぐ染まってしまうことがあるとか。たしかに強いと言われている人たちのやり方は学ぶべきですが、それ一色になってしまっては、変化に対応できません。

 自分のコピーを作ろうとして部下も自分も疲れてしまうという、新任の管理職がよくやりがちな失敗があります。機会を与える、様々な考え方があることを伝える、個々人の良いところを伸ばす、型にとらわれない。中井メソッドは、一般の人が抱く、格闘技のイメージとは違うかもしれませんが、考えて行動できる人を育てるという意味で、有効だと感じた次第です。

 この本には、「指導者」という言葉が頻出します。会社ではあまり使わない言葉です。ただ、部下や後輩を育てることも仕事の一つ。自分は指導する立場なのだ、しかも型にはめるのだけが指導ではないのだということに気づくべきです。

 大学の非常勤講師を始めて5年目に突入したのにも関わらず、未だに教え方について模索中の私にとっても大変に参考になる本でした。

 部下・後輩の育成に悩んでいる皆さん、管理職のマニュアル本もいいですが、格闘技のやり方からも学んでみましょう。


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