車のナンバーから顧客情報分析、法的に問題なし?

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自動車登録情報の「商業利用」に道が開かれた

車のナンバーから顧客情報分析、法的に問題なし?

駐車場の入口に設置されたカメラが、自動車のナンバーを瞬時に読み取るシステムを知っていますか?例えば、大阪空港の駐車場などです。駐車券にナンバーが刻印されていて、帰りは車に乗り込む前に精算機での支払を終えておけば、出口で機械に駐車券を挿入しなくても自動的にゲートが開いてくれます。駐車場の入口と出口にあるカメラが車のナンバーを撮影し、これを正確に読み取ってデータに変換した上、コンピューターに記録したり、あるいは照合したりしているわけですが、最近はこの技術を応用した新しいビジネスモデルが生まれています。

平成20年から、国土交通省の審査を経て認められた民間企業などに対し、自動車登録情報を有償で提供する事業が開始され、登録情報の「商業利用」に道が開かれました。これらの民間企業は、カメラが読み取ったナンバーから、車検証に記載されている車種やメーカー、住所のうち町名や大字までの情報を得ることができる仕組みです。

氏名や住所の詳細は開示されませんが、駐車場に出入りする自動車からある程度の「顧客情報」が得られるわけです。これらを分析することで、チラシの配布先や広告看板の設置など、広報宣伝活動を効率良く展開することが可能になるといわれています。ただ、私たちが全く意識していないところで「顧客情報」が収集されていることはあまり愉快なことではないでしょう。

自動車の登録情報は「公開」が原則だが、法改正で取得は困難に

ところが、意外にも自動車の登録情報は「公開」が原則なのです。もともと道路運送車両法は、自動車の登録事項証明書は「何人も…交付を請求することができる」と定めており、個人情報保護の対象外です。これは、誰でも不動産の登記情報を見ることができるのと同じです。

ただし、平成18年の法律改正で、第三者が登録事項証明書を取得することは難しくなりました。証明申請の手続に車台番号の記入が必要になったからです。車台番号はボンネットなどを開けなければわからないため第三者が知ることは困難で、登録事項証明書の取得は事実上不可能となりました。

これは、自動車のナンバーから所有者の住所などを突き止めて、犯罪に悪用する事例が増えたため、犯罪防止の目的で法律が改正されたものです。確かに、街で見かけた高級車のナンバーから住所を割り出して車を盗んだり、ストーカーが相手の住所などを知るために自動車登録情報を取得する事例が多くなっていたことも事実です。

登録情報利用に関する法的なガイドラインの策定が強く望まれる

しかし、私たち弁護士も仕事がやりにくくなりました。不貞行為の相手方を特定したり、債務者の自動車を差し押さえたりなど、自動車のナンバーから情報を収集する事案も多々あるからです。私有地に放置された自動車の撤去を誰に求めるのかという切実な問題もあります。時間をかけて複雑な手続を経れば情報の取得も可能ですが、時間的に急ぐ案件ではたちまち困ってしまいます。

このように個人のレベルで収集できる情報には制限が加わる一方で、役所や民間企業が手にする情報は膨大なものになる傾向が強まっています。自動車の登録情報が公開原則であり、民間企業への情報一部開示は法律が認めたものであるとしても、この状況をそのまま放置しておくことに問題がないとは言えません。

それは、登録情報をコンピューターに取り込み、他の情報と組み合わせれば、個人の行動を追跡・監視するシステムの構築すら不可能ではないからです。例えば、デジタル画像から個人を自動的に識別できる「顔認証システム」との組み合わせなどを考えると、背筋が寒くなってきます。登録情報利用に関する法的なガイドラインの策定が強く望まれるところです。

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