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TBSおやじの背中 「設定が特殊すぎて共感しようがない」の声

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 現代は「ホームドラマ」が描きにくい時代なのだろうか。ドラマ「おやじの背中」から、コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。

 * * *

 やっぱりアタリだった。これはサイコホラーの傑作だ。

 以前、ここのコラムで取り上げたTBSの金ドラ『家族狩り』が絶好調である。視聴率は低迷したままだが、番組のテンションがずっと高い。

 家庭内暴力やストーキングなどをキレイ事抜きで描いているので、「考えさせられる……」という感想も多い。が、そんなに身構えないで、とりあえず上質なエンターテインメントとして楽しめばいいんじゃないだろうか。演技、演出、美術、音響、編集などなど、制作メンバー全員の本気度が類稀なる映像パワーを生み出している。ハラハラドキドキで怖い。だからクセになる。

 そんな『家族狩り』に対して、同じTBSで同じ時期に同じ「家族」モノとして『おやじの背中』が始まった。私はこちらも期待して見続けている。けれども、残念ながら、ハズレの回が続いているように思える。

『おやじの背中』の番組枠は、半世紀以上の伝統がある日曜劇場だ。そこで「10人の脚本家と10組の名優が贈る、10の物語。」というキャッチコピーを掲げ、とにかく豪華な名前を並べた1話完結型のホームドラマを毎週放送している。私は第4話を観終わった段階でこれを書いているが、ここまでの脚本家(代表作)と主演の組み合わせは次の通り。

・第1話……脚本:岡田惠和(『ビーチボーイズ』『ちゅらさん』など) 主演:田村正和&松たか子

・第2話……脚本:坂元裕二(『東京ラブストーリー』『Mother』など) 主演:役所広司&満島ひかり

・第3話……脚本:倉本聰(『前略おふくろ様』『北の国から』など) 主演:西田敏行

・第4話……脚本:鎌田敏夫(『金曜の妻たちへ』『男女7人夏物語』など) 主演:渡瀬恒彦&中村勘九郎

 連続ドラマならば不思議でもないが、1時間の単発ドラマで毎回これだけのビッグネームが登場するのは異例だ。第3話はおやじ役の西田敏行だけでなく、彼を取り巻く脇役たちも、妻役が由紀さおり、同級生役が大杉漣と小林稔侍、加えてナレーション役が徳光和夫と異常なほどゴージャスだった。

 名前がある役者は、みな相応の演技力もある。おやじ役は4人とも「名優」と呼ばれるだけの存在感を放っていた。また、田村正和や役所広司という癖の強いおやじたちを相手に、娘役の松たか子と満島ひかりもそれぞれ負けていなかった。渡瀬恒彦の息子をやった中村勘九郎の芝居は端的に言って大根だったが、その妻役のともさかりえは感情表現がたくみで良かった。俳優陣は、トータル、悪くはない。

 では、何が『おやじの背中』をハズレ続きにしているのか。それは脚本だと思う。このシリーズはすべてオリジナル脚本なのだが、これまで見たものは4話とも「おやじの背中の魅力」が分からなかった。おやじたちの設定が特殊すぎて、共感のしようがないのだ。

 第1話は東京郊外のアンティークな一軒家で静かに暮らす父娘の物語。妻(母)を交通事故で亡くして以来、パニック障害を患っている娘は、妻の代わりとして家事を担当している。そしてこの父娘はまるで新婚夫婦のように互いを「圭さん」「瞳子(ひとみこ)さん」と呼び合ってきた。という設定からして私には「気持ち悪いメルヘンの世界」としか映らなかった……。

 第2話も父と娘の物語だが、こちらはヤンキーモード全開。元プロボクサーの父が娘の五輪出場を夢見て、幼少時からボクシング一色の生活をさせてきた。娘には才能がない。27歳で引退を決意して結婚することに。ところが、式の前日に父親が娘を焚きつけ、結婚は取止めで、またボクシング生活に舞い戻る……って、アニマル浜口父娘をデフォルメしてどうするんだ。

 第3話は、高校中退で上京し、一代で金属加工会社を築き上げたおやじのの話。創立40周年のパーティー目前だが、会社はもう自分の思う通りに動かない。そんな状況に我慢のならない社長が行方不明を偽装してしまう。コメディタッチでテンポよく話は進むのだが、「老いを受け入れることの難しさ」以上のものが伝わってこない。子供たちの父への想いも薄っぺらい。

 第4話は、反体制の政治活動に明け暮れて家庭を顧みなかった元出版社経営者の父と、監査法人を辞めて有機農業ビジネスを営みながら家庭の幸せ最優先で生きる息子。わだかまりを抱えてきた父子が、秩父札所参りの道中で心に秘めてきた思いを初めてぶつけ合い……という要約だけで、そんな観念的な親子関係なんかどこにある、と首を傾げる人が大半だろう。

 とまあ、いずれも「ヘンなおやじ」や「困ったおやじ」は登場してきても、心に沁みるいい話にはなっていなかった。あくまでホームドラマだから、見る者の心を温かくさせたり、涙腺をゆるませたりしようと狙っているはずだが、大脚本家たちが手がけてもそういう話が展開しない。なぜか。

 それはたぶん、現代において、おやじが絵になる家族像を描くこと自体が困難なのだ。親子や夫婦間のディスコミュニケーションや、逆に親子が過剰に依存し合っている状態はすぐにイメージできる。極端に言えば、『家族狩り』が描き出しているようなホラーな家族のほうが現実世界でもリアリティがある。でも、お手本の一つになるような、こういう関係性を目指したいよね、とみんなが頷けるような家族はなかなかどうして見当たらない。ホームドラマの成立が、とても難しい時代なのだ。

 ただ、難しいからこそ、いいホームドラマを見てみたい。この記事のアップ予定日の前日に、『おやじの背中』の第5話が放送される。脚本は『野ブタ。をプロデュース』『Q10』などで知られる木皿泉だ(主演は遠藤憲一&堀北真希)。4話目までの脚本担当は70年代~90年代が全盛期だったビッグネームたちだが、木皿泉はゼロ年代に芽が出た作家。「そこに光を当てたか!」という家族観を提示してきそうな気もするので期待したい。

 それと8月24日の第7話は、いよいよ山田太一の作品が放送予定だ(主演は、渡辺謙&東出昌大)。もう80歳の大ベテランだが、今年の2月にテレビ朝日で放送された2時間超のドラマ『時はたちどまらない』も良かった。東日本大震災に翻弄された2組の家族をていねいに描いた佳作だった。短編は久しぶりだから、大ハズレの危険性もあるが、山田太一ファンの一人として私はこの放送を心待ちにしている。


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