大人になった今、読み返したくなる芥川龍之介の魅力

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 突然ですが、みなさんは芥川龍之介を知っていますか?
「そういえば昔教科書で読んだなあ……」
「高校生のころちょっとだけ読んだけど、あんまり覚えていないなあ……」
 という人も多いのではないでしょうか。
 そんな芥川龍之介ですが、実は、芥川は大人だからこそ味わえるような、深みのある作品を多数執筆しています。文脈に神経が通っているかのような、繊細かつ精密な文章。人間の醜悪さや不条理を描き出す、知的な視線。まさに大人でなければ味わえない醍醐味といえそうです。

 というわけで、今回は新刊JPライターの浅田由妃が、タイプ別に、オススメの作品をピックアップしたいと思います。いずれも15分もあれば読めるような短編です。ぜひ読んでみてください。

■「明るい話が読みたい人」にオススメ――「蜜柑」
 比較的初期のころに書かれたこの作品。芥川本人の体験を小説としてまとめたものと言われています。
 舞台は列車の中。主人公の男は冒頭で、「云いようのない疲労と倦怠」を感じています。主人公は乗り込んできたみすぼらしい姿の田舎娘を見て不快に思うのですが、ある一瞬の出来事をきっかけに、その心情は一変します。

窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑みかんが凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。私は思はず息を呑んだ。さうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴おもむかうとしてゐる小娘は、その懐に蔵してゐた幾顆いくくわの蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。(『蜜柑』より引用)

 なんという鮮やかな転換でしょうか。場面が目の前に浮かんでくるようです。読んだあと爽やかな気分になれること間違いなしの作品です。

■「暗い話が読みたい人」にオススメ――「歯車」
 暗いというよりもちょっと不気味なこの作品。芥川の最晩年の作品で、すでに精神を病んでいた芥川が、いよいよ死に向かっていく様がありありと描かれています。
 この作品はあらすじを説明するのが難しいのですが、全体として幻惑的な雰囲気を醸し出しています。作品の最後の部分を抜粋します。

「どうした?」
「いえ、どうもしないのです。……」
 妻はやつと顔を擡もたげ、無理に微笑して話しつづけた。
「どうもした訳ではないのですけれどもね、唯何だかお父さんが死んでしまひさうな気がしたものですから。……」
  それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だつた。――僕はもうこの先を書きつづける力を持つてゐない。かう云ふ気もちの中に生きてゐるのは何とも言はれない苦痛である。誰か僕の眠つてゐるうちにそつと絞め殺してくれるものはないか?(『歯車』より引用)

 これほど衝撃的な終わり方をする小説があるでしょうか。この「歯車」を読むと、芥川が自殺せざるを得なかった理由がはっきりと分かります。かなり「病ん」でいる作品なので、精神的に弱っているときは、読まないほうがいいかもしれません。

 いかがでしたか?
 ちなみに、先日7月24日は服毒自殺をした芥川龍之介の命日であり、この日は芥川が好きだったといわれている河童にちなんで「河童忌」と呼ばれています。
 芥川に馴染みのない皆さんも、ぜひ芥川の作品を手に取ってみてください。大人ならではの感動や、新たな発見が必ずあるはずです。
(新刊JP編集部/浅田由妃)

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