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日本の対米「自発的従属」構造の成立過程を京大教授が解説

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 経済大国としての発展を遂げた日本は一見、戦後の対米従属から脱却したかのように見える。しかし現在、TPP、規制緩和などの度重なる米国の要求を拒否できずにいる日本の姿勢を見れば、いまだ「洗脳」は解けていないのではないか。京都大学教授の佐伯啓思氏が現在の洗脳構造をひも解く。

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 終戦から約70年、占領政策が終わって日本が「主権の回復」を謳ったサンフランシスコ講和条約から62年が過ぎた。それらから半世紀以上経ち、戦争を体験した世代も大半が鬼籍に入ってしまった。米国を中心とするGHQの占領政策の意図は、日本を徹底して非軍国化し、民主的な近代国家へと作り変える点にあり、米国によるこの「洗脳」は見事に成功した。

 それまでの帝国憲法下の日本は軍国主義として否定され、一億総懺悔と共に「天皇陛下万歳」は一夜で戦後民主主義礼賛へと変わった。占領下の日本ではマッカーサーを賛美する声があがり、彼は日本国民の英雄になってしまった。以降、「主権の回復」後も日本の米国への隷属は続いた。

 この隷属は目に見えた強圧的なものではなく、世論に働きかけ巧みに誘導するものだった。「マッカーサー万歳」同様、あたかも催眠術にかかったかのように日本側から米国へと自発的に隷従する構造ができあがってしまった。

 米国の典型的な誘導の文句は次のふたつである。ひとつは、「○○することは日本の利益になる」。もうひとつは、「日本はまだ遅れている。いま世界のスタンダードはこうなっている」といった言い方である。すると日本のマスコミ、学者、ジャーナリズムの多くがその誘導に飛びつく。その一方では「米国は、その指摘に応じなければ日米関係が悪化すると言っている」と「外圧」があることを仄めかして、政策を有利に進めようとする政府関係者や官僚まで出てくる。

 米国が自国の国益を目指して日本に圧力をかけるのは当然ともいえよう。しかし、日本のメディアやジャーナリスト、時には政治家までもがそれを「正義」であり、「日本の国益」であり、「グローバル・スタンダード」であると主張する。これは、単なる浅慮なのか、意図的な背信なのか、隠れた自己利益なのか、いずれにせよ、見苦しいだけではなく、それこそ時には「国益」を大きく損なう。その結果、グローバルなコスト競争に身を投じられた日本はデフレに陥り、今も脱却できずにいる。

 もちろん、場合によれば米国からの要望が日本の国益にも適うことはあるだろう。それらは何よりまず、日本の状況や事情に即して「われわれ」が定義すべきものであって、他国からいわれることではない。しかも、今日のようなパワーポリティックス(軍事力や経済力を背景に展開する権力政治)が支配的となった国際関係にあっては、これらの言葉も、往々にして自国の権益を追求し、他国に圧力をかける口実になるのである。

 日米関係は、占領政策以来、政治的にも軍事的にも、そして何よりも精神的に決して対等ではない。かつて江藤淳が述べていたように、米国からは、日本国内の状況があたかもガラス張りであるかのように眺められる。しかし、日本人はそれを知らずに自分たちで自由に論議し、決定しているかのように思わされている。

 そうしてリモートコントロールにかかったように、日本国内の世論や議論が自発的に米国の要望に誘導されてゆくのである。かくて「自発的従属」という構造ができあがってしまった。

 そのような「自発的に誘導されていく様子」は近年、いっそう著しい。1990年代の構造改革では、もともと対日赤字の解消と経済再建を目指していた米国の要請(日米構造協議)は、「日本の経済構造は遅れている」、「世界標準になっていない」、「自由な市場競争という正義に適っていない」、さらには「構造改革は日本の消費者のためになる」という文句を並べ要求を迫るものだった。

 やがてその要求は日本の大新聞の主張となり、経済学者やジャーナリストも支持した。そして彼らは「日本の経済構造はいまだに『戦時体制(40年体制)』である」と主張するようになった。
 
 またTPP論議が始まったころ、「日本の開国」を求める論調が中心になった。そこには「閉鎖的で後進的な日本」を市場開放し、自国企業の参入をはかる米国の意図が背景にあった。日本のジャーナリズムは先導して「平成の開国」を唱え、「日経」や「読売」は当然として、「朝日」を含めた5大新聞はこぞってTPPに賛同した。各紙とも「アジアの活力を取り込め」、「自由貿易の流れに乗り遅れるな」と訴えたのである。

※SAPIO2014年8月号

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