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中江有里 真保裕一新作「映像化したいと思わせる作品」と評す

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 ひとりのカリスマ経営者が自らに着せられた無実の罪の真相を追い続け、やがて想像を絶する犯罪計画を暴く──週刊ポスト連載時から読み応えのあるサスペンスと好評だった真保裕一氏の『アンダーカバー 秘密調査』が単行本として発売された。女優の中江有里が独自の視点で同書を紹介する。

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 こうした裏社会を描いたミステリーは、それほど手を出さないのですが、一読して驚きました。本作品は小説でありながら、小説を読んでいることを忘れさせる時があります。自分がその場にいるような臨場感を感じました。

 ひと言でいうと、スケールが大きい。私たちが見ている社会は、たとえるなら袋の表側だと思うんですよね。この袋をひっくり返して、裏側を見せてしまった。『アンダーカバー』はそういう小説だと思います。世界的なマフィアの活動、フィリピンの刑務所……。ここには、私たちの想像を凌駕する世界がありました。

 小説は3人の視点―異国の刑務所に収監された、若きカリスマ経営者・戸鹿野智貴(とがのともき)、キャスターの座を蹴ってフリージャーナリストとして戸鹿野の事件を追う伊刈美香子、麻薬捜査官ジャッド・ウォーカーの視点で進んで行きます。少し種を明かすと、3人の人生がある地点で交差するのですが、これがいつまで経っても重ならない。重なった時のカタルシスといったらありません。

 ひとりの女性としては、やはり伊刈美香子が気になりました。彼女は、いちばん読者に近しい人物です。美香子は、一記者としての限界を感じながら、それでもしぶとく事件を追っていきます。自分のこの言動は正義感から来ているのか、それとも偽善なのか、迷いながら進むのです。

 美香子を通して私たちは、世間の怖さも知ります。マスコミが事件をセンセーショナルに取り上げれば、我を忘れて熱狂し、関わった人物を追い詰める。時が経てば事件を忘れ、途端に無関心になる。このあたりの切り取り方はリアルです。

 こうしたミステリーは、人の死が記号化されてしまうことがよくあります。殺人がないと話が進まないという理由で、人の命が軽く描かれてしまう。ところが、『アンダーカバー』はそうではありません。「自分の行動が人の人生を狂わせてしまったのでは?」(あるいは「狂わせてしまうかも」)と、登場人物たちが立ち止まって迷うのです。こうした惑いが、人物たちに人間味を付与していて、ひとつの魅力となっています。私も一緒に迷いながら、読み進めました。

 女優として、映像の世界にいる身としては「映像化したい」と思わせる作品です。でも下手に映像化するよりは小説のままでとどめてほしいような……。私まで迷っていますね。

※週刊ポスト2014年8月8日号

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