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半数が外国人客 海外で人気高く土産に喜ばれる日本の職人技

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 ホームステイ先へのお土産や外国人へのプレゼント、“何か日本的なものを”と考えると、意外と難しい。実用的なものとしては、近年、海外で日本の包丁の人気が高まっているが、その中で特に外国人に支持されている店、かまた刃研社を取材した。

「この店は祖父が、刃物研ぎから始めて今年で91年。私が3代目で、4代目の息子も一緒に働いています。海外では、代々長く続くファミリー企業への信頼や価値を大切にしているようで、『そんなに続いている店と出会えるとは、自分はなんてラッキーなんだ!』と喜ばれるヨーロッパのお客さんもいますね」そう語るのは、店主の鎌田晴一さん。

 浅草・かっぱ橋というロケーションもあり、来客の半数強が外国人と聞いてはいたが、記者が訪れた時は8割以上が欧米を中心とした外国人客。慣れた様子のスタッフたちが英語で接客する中、5000円から数万円の包丁が次々と売れてゆく。同店ではHPで英語表示も行なっているほか、英語での接客の様子を紹介した動画を掲載。YouTubeにもアップされているその動画を見て、訪れる外国人も多いという。

 みなさんなかなかの英語力だが、ほとんどのスタッフは独学だと聞いて驚く。
「接客で使う英語はある程度限られますし、毎日お客さんとやり取りするのが一番の練習です。その代り、英会話教室で教えてくれるような、世間話みたいな会話はできませんよ」と、鎌田さんは謙遜する。

「日本の包丁が海外で人気になったきっかけは、1995年イギリスの商品テスト・レビュー雑誌『Which?』で、日本の包丁の切れ味の良さが紹介されたことです。特に高品質な商品がテストに使われたわけではありませんが、日本の包丁は基本的に欧米で売られているものよりも、切れ味が良いんですよ。

 包丁の文化は料理の文化でもあります。日本では刺身を薄く切る、キャベツを千切りするなど、一般家庭でも繊細な作業をする料理文化があることが、日本の包丁が優れている理由のひとつに挙げられます。鋭い切れ味にするには刃を薄く仕上げる技術を要しますし、一方で薄く仕上げた刃には、欠けやすいというデメリットもあります。欧米のメーカーの場合は、どのような食文化を持つ人々が使用しても、欠けることのない仕上げに留めていますし、硬くて長期間切れ味が衰えない永切れすることよりも、研ぎやすい粘り――柔らかさを鋼に求める傾向があります。

 最近では和食がユネスコ無形文化遺産になって、海外での和食ブームがさらに盛り上がり、日本の料理人たちが海外へ進出する機会が増えました。そうした人たちは、こだわりの道具として使い慣れた包丁を持って行き、現地の料理人との交流の中で『ちょっと使わせてみて』などのやり取りから、プロの間で日本の包丁人気が高まり、それが一般の人にも波及しているようです」(鎌田さん)

 店内には商品だけでなく研ぎや加工スペースがあり、同店で購入した商品なら、その場でカタカナか漢字の名入れも無料でしてくれる。家族や友人へのお土産に、1人で何本も購入する観光客や、日本での勤務を終えて帰国する長期滞在の人が何十本も、注文するケースもあるという。ちなみに外国人名の名入れについて、カタカナであれば問題ないが、漢字の当て字をどうするかに時間がかかるケースがあり、混んでいる際はすぐに対応することが難しいため、事前に“どの漢字を充てるか”を決めて行くのがオススメだ。

 そしてメインである包丁のショーケースには、私たちが普段使うような包丁だけでなく、桜や楓といった和のモチーフが装飾されたもの、小型ナイフ、本格的な和包丁など幅広い商品が並ぶ。どんなアイテムが、外国人に喜ばれているのだろうか?

「ステンレスを何枚も重ねて打ち叩いた、ダマスカスという鋼があるのですが、波状の模様になることから、日本刀をイメージするようです。これに柄の部分を本格的な和包丁のしつらえにしたものに、人気がありますね。

 また、ここにいらっしゃる外国人のお客様は、包丁に関してこだわりの強い人、マニアックな人が多いので、手入れが大変な炭素鋼の本格的な和包丁を買いに来るケースも。うちの店の商品は、手入れをすれば一生使えるものなので、手入れの方法を説明するだけじゃなくて、手順を日本語と英語で説明したパンフレットもお渡ししています」(鎌田さん)

 外国人限定というわけではなく、定期的に実施している包丁研ぎ教室の人気は高く、初級コースはすぐ満員になってしまう。一般の参加希望者に加え、体験型アクティビティが好きな観光客のニーズにも応えるには、「週1回くらい開催できるのが理想」と語る鎌田さんだが、現状は人手が足りないために、実施回数が絞られているのが残念だ。

 装飾加工が施された包丁や名入れ、英語での接客やパンフレット――外国人に向けた細やかなサービスに目を向けてしまうが、実は同店が高い支持を集めている本当の理由は、そうした目に見える部分だけではない。人種を問わず多くの人が同店を訪れるのは、国内でも屈指といわれる、“研ぎ”の技術力の高さが大きい。

 プロの料理人が長年使用し、自身では手に負えないほど変形したり、刃こぼれを起こした包丁も新品のように再生する技術を持つ同店は、“プロも頼りにする、メンテナンスのプロ”としてリピーターになる客が多い。顧客の中には「こんな新品みたいに仕上げちゃったら、新しい包丁が売れないでしょ?」と冗談まじりに言う人もいるというが、鎌田さんは「良い道具をしっかり手入れして、使い続けられるようにするのは、究極のエコロジーですよ」と語る。

「包丁を売っているだけでは、良い包丁を見極めることは難しい。本当に良い包丁は砥石に当てた時に、鋼の硬さや仕上げ、ムラのなさなどが、はっきりわかります。

 研ぎの技術で難しいのは、常に100%の仕上げが正解じゃない――使い方は人によって、千差万別なところです。例えば、硬いものを切ることが多い人には、刃を欠かせてしまわないように、研ぎ具合を加減する。繊細な料理を手掛ける人には、100%というように、使い手に合わせた仕上げをするのが重要。研ぎの依頼の場合は、出された時の包丁を見れば、普段その人がどう使っているか? どれくらいの仕上げが最適なのか? というのがわかりますからね。そうした使い手の求める“切れ味”を見抜く力も、職人の技のひとつです」(鎌田さん)

“道具を見れば人がわかる”というのは、職人技の高さを感じさせる言葉のひとつ。日本らしい装飾や名入れに加えて、違いのわかる人には、繊細な技術も伝わる――国境や文化を越えて強く支持されるのは、そうした技や心意気の部分なのかもしれない。


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