じゃあ中高の英語教育をどう変えるべきか考えてみる

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My Life in MIT Sloan

今回はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

この記事は、以下の記事のつづきです。
「日本の中高の英語教育がマイナスにしかならない件について」
https://getnews.jp/archives/62593

じゃあ中高の英語教育をどう変えるべきか考えてみる

さて、前回の記事で私の唯一の反省は、現場で英語の授業改善を頑張ってる先生方がこれを読んでどう思うか、をあまり考えずに書いたこと。

私は「問題がある側も頑張ってるはずなので、出来ないのは何か別の理由があるはずだ」というスタンスだ。このブログでも、常に問題のある側にも共感し、建設的な問題解決を示していく、というやり方を取っている。以前の記事 *1 でも書いたけど、共感がなければ、本当の問題にたどり着かないので、問題は解けない
*1:「経営コンサルタントに大切なのはEmpathy(共感)だと思う」 2009/12/11 『My Life in MIT Sloan』
http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/42a5ea997ac59e918f7fdc0cf83f2656

ところが、前回の記事ではそのスタンスを破って、学校の英語の先生を浅く批判してる部分が多かった。意識の高い先生方から見れば「そんなの言われなくても分かってるよ!」という感じであっただろう。そこだけは大変申し訳なかったと思っている。

“日本人が英語が出来ない”理由は、中高の英語教育のためだけではない。ただし他の部分は解決するのは難しく、中高の英語教育を変えていくのが、一番やりやすく効果的な解だと思っている。

簡単に中高の英語教育以外の他の理由も見てみよう。

1. 日本語は英語と全く文法構造が異なる言語である
しかし、こればかりは言ってもどうしようもないし、韓国などを見るとこれを言い訳には出来ない。韓国語は日本語と非常に言語構造の似た言語であるが、彼等の中のエリートと呼ばれる人たちは、日本人ほど英語が出来ない人はあまりいない。これはむしろ、次の2、3の理由によるものだと思う。

2. 日本語とは、大学院の専門教育ですら英語を必要としないような、成熟した優れた言語である
日本語は非常に成熟した言語だ。大学院の社会学、経済学、物理学、化学などといった専門的な分野ですら日本語で議論が可能なほど、専門的な概念も日本語には存在する。結果として、英語が出来なくても各分野でそこそこのレベルまで勉強することは可能だ。一方、韓国などでは大学レベルからは英語の教科書で英語で議論するのは一般的らしい。東南アジア各国も同様。

では日本はどうするか?「高校からサイエンスを中心として、英語でやればいいのでは」という人がいるが、私は賛成できない。“モノを深くじっくりと、突き詰めて考える能力”も教育の大切な目的だ。しかし高校生だと、母国語の日本語でさえ、“深く考える”ことが出来てないだろう。それを考えると、まずは母国語でしっかりモノを考える習慣を高校までにつけさせるのは大切だと思う。同じ理由で、小学生に英語を教えるのは良いが、母国語でモノを考えさせる時間を減らすのには反対である(よって英語を増やすために授業の時間数を増やすのは良い)。

大学辺りからの専門教育をもっと英語でやる、という方法はあるかもしれない。ただし、それまでに日本語で“深くモノを考える”習慣が付けられていることが条件だ。それが出来ていれば、英語でも深くモノを考えることは訓練次第で出来るようになる。

3. 日本では、英語が話せることや留学などが必ずしも立身出世につながらない
受験英語を制覇して、いい大学に入る方が、個人レベルでは正しい戦略となっている(モチベーションの問題)。再度、おとなり韓国を見ると、この国は、留学することがサイエンスでもビジネスでも出世の条件になる。従って、教育熱心な親たちは、子供を留学させるべく、必死に教育する。留学の条件は、英語圏でも問題なく読め、聞け、話せ、書けることなので(まさに TOEFL)、そういう子供たちが育つ。結果として留学しなかったとしても、サイエンスやビジネスのエリートが、英語が話せるようになるのはこのためだ。

しかし、これって「社会に変われ」と言っているわけで、これを変えるのはなかなか難しい(これがすぐできるなら、起業家の問題だってすぐに解決する)。

4. ローマ字とカタカナ表記、和製英語などの問題
ごもっともだが、和製英語を禁止できるとも思わないし、全ての英単語を英語表記したからって問題が解決するとも思えない。

さて、こうやって見ていくと中学高校の英語教育と、大学受験のあり方を変えていくほうが、ずっと問題を解決しやすいのではないか、と思うのだ。では、どう変えるか。まず私は今の英語教育の問題点は、以下の3点だと思っている。

1. 和訳中心教育のため、英語でモノを読み(聞き)、英語で考える習慣がいつまでも身につかない。その結果、英語で聞いて話す、ということにものすごい苦労する

2. 全体として、インプットの量が圧倒的に少なくて、語彙(ごい)も少なく、正しい英語の言い回しなどが感覚的に身についていない。結果としてアウトプットができない。少ないインプットで、アウトプットを出させようとするから“英語構文”などの弊害が出る

3. (受験英語でなく)コミュニケーションの道具としての英語をやるモチベーションがわかない

ここから出てくる解決法はつぎの3点。

1. 和訳はやめる
“英語で読む・聞く→理解度を確認する”を繰りかえす。小学校の国語と一緒。何度も言うように、和訳中心の教育は、英語を速く読み、英語で考えることの妨げにしかならない。初歩の英語だけは和訳でも良いのでは、という方もいるが、一度その癖がついてしまうと、なかなか戻すのは大変なのだ。

学校の先生には、生徒の理解度を確認するのに和訳はいい方法だ、という方もいるだろう。しかし、本当に逐語訳レベルで理解度を確認する必要があるだろうか?同時通訳じゃないのだ。小学校の国語を考えてみれば、他の方法で理解度を確認していたはずだし、その理解度で文章を読むには十分なのだ。それと同じことができないか、と思うがどうだろう?

2. 和訳をやめるかわりに、リーディング、リスニングなどインプットの量を現在より増やす
全ての言語が上達するには(日本語も)、インプットをある閾値(しきいち)以上に増やすしかないが、現在の中高の英語はそれに達していないと私は思う。逆に言うと、インプットが足りていないのに、アウトプットを出させようとするから“英語構文丸暗記”のようなことが起こるのだ。暗記の効用は私も認めるが、基本的な文法や言い回しは、丸暗記しなくても自然に思えるほど、身につくくらいに、インプットが必要だと思っている。賛否両論はあるが、私は日本語の小学校の国語は非常に優れていると思っていて、その一番の理由は、大量に読む、ということだと思っている。その結果、日本人は世界で最も本を読む人種に育っている(確か一人当たりの本の消費量が世界で最大)。そして、日本語でしっかり考えることが出来るのだ。日本人が英語下手なのは、日本語でしっかり考えることに日本人が慣れてるから、と言えるかも知れないのだ。

だったら、英語も同じような状態に持っていけばよい。せめて、高校を卒業するときには、アメリカの中学の子が考えられるくらいのことを、考えられるようになりたいと思わないだろうか?そうしたらその程度のインプットが必要だということだ。それからのアウトプット。インプットなくしてのアウトプットはないと思っている。

3. ネイティブによる少人数英会話を取り入れた、今の中高の教育は続けていくべし
これは、正しい英語発音や表現を覚える、という理由もあるが、英語を学ぶモチベーションを高めるのに大切だと思うからだ。生の英語の教材への活用も、モチベーションを上げるのに役立つ。例えばオリンピックをやっていたら、浅田真央は世界でどのような報道のされ方をされているのかとか。
上に書いたように、日本語が優れていて、ほとんどのものが日本語で手に入るので難しいのだが、英語でしか手に入らない、面白い情報があることを中学、高校のうちから教えておきたい。

このくらいしか今の私には思いつかないのであるが、基本的には“今の英語教育の何が問題か”→“それを解決するにはどうすればよいか”、で考えていきたい。提案募集中。

TOEFL的にするのは一案だが、結局“英語しか出来ない”人が受かることを恐れて、良い大学からこの方式を辞退していくことになりかねないのは問題。日本では今のところ、ヨーロッパなどと違い“英語が出来る人”と“モノを深くじっくり考えることが出来る、大学が欲しいエリート”が重ならないのだ。

あるいは、大学受験から英語をなくす、というのも極論だがありうる。これで中高の英語が、受験英語から開放されるから。

以上、考えるための参考になれば幸い。

執筆: この記事はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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