日本の中高の英語教育がマイナスにしかならない件について

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My Life in MIT Sloan

今回はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

日本の中高の英語教育がマイナスにしかならない件について
“日本人が英語が出来ない” ということが、実は世界中でネタにされていることが意外と知られていないらしい。ということが、おととい『Twitter』で英語ネタで盛り上がったときにわかった。

英語がちょっと出来るだけで、海外で、
「日本人でこんなに英語で話せる人、初めて見ました」
「日本人にしては英語すごい上手ですね」
と驚かれる人は世の中には多い、という経験談が色々『Twitter』でシェアされた。

私もそうだ。渡米前は『TOEFL』を8回受けても、Speaking22点が最高点でしたから、正直大したことはない。押し出しの強い性格だからイイタイコトはちゃんと言えるけど、別に超ぺらぺらなわけではない。しかし、その(程度の)英語力のせいで、海外で日本人だと思われたことはほとんどない。

で、日本人だ、というと、「えー、でも移民でしょ?」とか言われる。アメリカ人が聞けば、なまりがあるので長くアメリカに暮らしてるわけじゃないのはすぐ分かるのだが、にしても、日本人にしては英語がしゃべれる、ということで、MBAの後輩にはフランス人かスペイン人だと思われている。この程度の英語で、それかよ。日本人の英語力をバカにするな、と腹が立つわけですよ。この手の話はいくらでもあり、話しはじめたら一日中語れる。

定量的な話で言うと、2005年のTOEFLの点数の国際比較 *1 で、日本はアジアで最下位だったなんて話もあり、でも、あれは受験人数が他国より圧倒的に多く、ネコも杓子も受けてるせいだ、なんて話もあり。
*1:「Test and Score Data Summary for TOEFL Internet-Based Test」September 2005 December 2006 『ETS』
http://www.ets.org/Media/Research/pdf/TOEFL-SUM-0506-iBT.pdf

しかし実際に海外によく行く人や、海外に住んでる人なら、日本人の英語がバカにされてる感覚は、『TOEFL』の点数なんか持ち出さなくても、はっきり分かる。

何で、日本人はこんなに英語が出来ないことになってるのか?奥ゆかしい、思ってることを中々言わない、日本人の性格によるところも多々あるが、しゃべれないだけでなく、アレだけ英語を勉強してるのに、読むのも書くのも苦手な日本人は多い。

私はハッキリ言って、大学受験の英語、そしてそれを念頭にした中学高校の英語教育が悪いのだと思っている。

もちろん、良い点もある。特に中学でやる英文法とか、どこの国よりもしっかりしていると思う。『NHKラジオ』とか、市販の教材にも良いものがたくさんある。

しかし、最終的に英語圏で留学したり、仕事したりするレベルになることを考えると、ハッキリとこれはマイナスにしかならない、と言えるものが、次の4点だ。

1.和訳中心の勉強法
大学入試の問題を見ても「和訳せよ」、中高のクラスでも「○○さん、和訳してください」。おかげで市販の英語の問題集も和訳ばかりだ。

この、和訳ばかりさせて勉強させる、というのは日本独特の、まさにガラパゴスな英語勉強法だ。
恐らく漢文の素読の慣習から来ているのではないか、と推測するが、ハッキリ言って、和訳は無駄であるどころか、マイナスにしかならない。最終的に英語だけ読んで理解し、大量の情報を英語で処理し、英語で考えられるようになるには、和訳していてはダメなのだ。

ところが中学・高校で和訳をする癖がついていると、中々英語で読んで英語で考える癖はつかない。こういう癖がついてると、英語だけで理解し考えるための新たな訓練が必要になる、と言う意味で、「マイナスだ」と言うわけである。

和訳の癖の一番悪いのは、まるで漢文のレ点のように、言ったり来たりしながら日本語の語順で読もうとしてしまうことだ。こんな読み方をしていたのでは、いつまでも速く読めるようにはならない。和訳して日本語で考えていたのでは、英語で考えられるようにはいつまでもならない。

2. 間違った発音教育
在米30年以上の日本人の友人の、アメリカで生まれ育ったお子さんが、中学のとき日本に帰ったのだそうだ。編入時に、特にアメリカ育ちだと言うことを申告しなかったためか、日本の中学の英語の先生に、「あなたの発音は意味が分からないから、直しなさい」といわれ続けたそうな。恐らくボストンなまりだったので、せいぜいCNNなどのキレイな英語しか聞いていない日本人の先生には、分からなかったのだろう(注:これって例えば博多弁しゃべってる人が「あなたの日本語間違ってるから直しなさい」って言われる感覚よ)。本人が気にもしなかったのが幸いだが、2年目に、ネイティブの先生がフォローしてくれ、漸く解決したそうだ。

『Twitter』でもこんな経験談をコメントしてくれた人がいた。
——
小学生のときはずっと英会話塾に通っていたので発音は良かったのですが、“Doctor”を「ダクトゥァー」と発音したところ、先生に「ドクター」ですね、と直されてトラウマになった
——

この手の話も尽きない。要は、中高の日本人の先生で、英語の発音に間違った認識をもっており、間違っていても直してくれないどころか、正しい発音なのに日本語発音に直してしまう、という人が存在することから起こる問題だが、こんなのも、一度通過すると、変な癖がついてしまうので、マイナスにしかならない。

これも、全ての先生がそうであるわけではないし、最近はネイティブの先生が増えてて、クリティカルな間違え(“R”と“L”など)は直してもらえるようになっていると思う。

英語の発音は、ネイティブに直してもらえるような環境になければ、自分の耳を研ぎ澄ませ、ラジオや音声教材などのネイティブ発音と、自分の録音した発音を何度も聞き比べて直していくのが最良の方法だ。

一番大切なのは、“L”と“R”、“E”や“AE”や“OE”の発音、“W”の発音など、日本語に存在しないために、日本人には発音しづらいのだが、ネイティブが聞くと混乱するようなものを、しっかり学校でも指摘し、早い時期から直すことである。

ちなみに、こういう発音は子供に戻った気持ちで訓練するしかない。小さいとき、「でんしゃ」のこと「れんしゃ」とか言って、「で」が言える様になるまで何度も練習したでしょ?それと同じ。頭の固い大人なんだから、もっともっと練習しないと、発音が出来るようになるわけはないのだ。

3. 英語構文なる間違った英文法
高校生になると、「英語構文」なるものをやらされ、受験前に問題集一冊やったりするが、これが曲者だ。ここで覚えさせられる英語構文のうち、3分の1くらいは、文法的に間違っていたり、ネイティブが使わない用法だったりするのだ。

例えば、“So as to” と“So as not to”。これは米文法では、間違った用法だが、高校の英語構文では“So as (not) to + 動詞”、で覚えさせられる(“So as to 大学受験”、でGoogleで検索しただけでも大量に出てくる)。しかしこれは、正しくは、“So + 形容詞 + as to + 動詞”。それ以外の用法は間違ってることになっている。

その上この熟語は、数学とか法律とか契約などでしか使わない表現で、日常生活では絶対に使わない(→→米国でも文章書くときにたまに使う人はいるが、「ら抜き」と一緒で間違いは間違いだそうです)ということを、『MBA』を受ける時に『GMAT』のために勉強をして初めて知ったりするのだ。

“Different than” -これは英文法として明らかに間違ってるのだが、正しくは“Different from”。比較級がないのに“Than”は絶対に使わない。

日本人が大好きな “So that” ですら、超学術的文章でしか使わないそうだ。私はこっちに来てから、非ネイティブながらチームを代表して文章を書いたり、といったことをよくやらせてもらったが、“So that”は「何それ?こんなの使わないよ」と笑われながら何度も直された。契約とか論文でも書いてるなら“So that” を使ってもいいが、そうでないならやめましょう。ついでに、“Such that”なんて出てくるの、数学の教科書だけです。

そんなわけで、こういう大学受験のための、英語構文に出てくる英語表現に、文法的に間違っていたり、絶対に使わない表現が出てくるわけで、こんな間違ったものを覚えても、マイナスにしかならないのだ。

そんなことよりも、日常的に使う”Take a look”とか、“make a turn”とか、普通の熟語を覚えた方が1000倍役に立つ。

4. 文学部に行く人間しか使わないような英単語
日本の中学高校の教育では、習う英単語すら、日常とかけ離れたものが多い。特に、難しい評論や小説なども読むようになる高校では、かなり高度な文学的表現や単語を習ったりする。その割には、“Sewer(下水)”とか、“Bail out(銀行などを救済する)”みたいな、普通に日常会話やニュースで出てくる単語が全く出てこなかったりする。これも、結局中高の英語教育を、英文学科の教授とか、そういうところを出た先生がやってるからではないだろうか?

結局、英語を使う現場と言えば、ビジネスだったりサイエンスだったり、政治だったりするわけで、まずは日常英語と、そっち系の専門用語の方がずっと役に立つ。『TOEFL』や『GMAT』の英単語が、実際にアメリカに住んでて役に立つのはそのためだ。

もっとも、シェークスピアやオスカー・ワイルドの名言を知ってるのは、教養としてはとっても大切だ。英語がある程度出来るようになり、ビジネスをやってると(特にヨーロッパと東海岸の人間には)こういうことを知ってるのはとても大切になる。

しかし、普通はその前にやるべきことがあるだろう、と思うのだ。

まずは英語の新聞が読め、科学や経済で英語の教科書がすらすら読める英語力。英文学の教養はその後でもいいのではないか?

以上、日本の中高の英語教育について、英米各国で英語で勉強したり研究したりビジネスしたりするにあたり、マイナスにしかならないと思われるものを指摘してみた。

何度も書くが、日本の中高の英語教育にも、もちろんいい面もある。最近はリスニング力とか強化されたり、どんどんインタラクティブになってる。でも、上の4点は変わってないマイナス面なのだ。

じゃあどうすればいいかって?

もうこういう教育を受けてきちゃった人は、「今まで習ってきたことはマイナスかもしれない」と覚悟して、英米系の問題集などを使って『TOEFL』や『TOEIC』のために勉強するしかないよ。別に『TOEFL』ファンとかじゃないけど、日本で簡単に手に入る市販の勉強教材では一番まともだから。

高校生は、市販の受験問題集にあまり固執せず、やはり『TOEFL』や『TOEIC』で高得点を取ることを目指して勉強する方がいいんじゃないか、と思う。それから、ラジオの英語とか、興味のある分野の英語の雑誌(『World Soccer』でも、『New Scientist』でも)を読めるように辞書引いて頑張ってもいい。

あとは大学受験を変えていくしかないんだけど、影響力のある国立大学から変えてくしかないと思うね。大学の英語の先生が、もっと留学して、苦労して、まともな英語力を身につけるのも大事だ。

この記事の続きは明日掲載いたします:
「じゃあ中高の英語教育をどう変えるべきか考えてみる」

執筆: この記事はLilacさんのブログ『My Life in MIT Sloan』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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