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あるホームレスのおっちゃんが語った自分の人生

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 人生のなかで、街中ですれ違うだけの人は一体何人くらいいるのだろうか。何百万人、何千万人、いや、それ以上に数え切れないほどの人数とすれ違っているかもしれない。
 そうした「すれ違うだけの人」にも、その人なりの人生があり、深い物語があるのだということを感じさせてくれるのが、『街の人生』(岸政彦/著、勁草書房/刊)だ。

 本書は、社会学者である著者が、さまざまな人々に対してインタビューをし、ライフヒストリー(自分の人生についての語り)を集めたもの。本書でとりあげられるのは、日系南米人のゲイ、ニューハーフ、摂食障害の当事者など、「マイノリティ」と呼ばれる人ばかりだが、語られる人生はごく普通の、普遍的な物語だ。
 ここでは本書から抜粋して、ある西成のホームレスの男性の語りを紹介したい。

「俺もここきたときは……ホームレスなると思ってなかった。働いとったときはね。みんな不景気でやめた。不景気なったもんね。全然ホームレスなるの仕方なかった。」(本書218ページより)

 という言葉で語りははじまる。大阪の西成でホームレスをしていた矢根さん(仮名)は、自分の人生について、とうとうと話し続ける。
 矢根さんが語る彼の人生は次のようなものである。
 満州から引き揚げてきたあと、さまざまな土地でいろいろな仕事をし、三〇歳くらいのときに金沢で所帯を持った。
 しかしパチンコにハマった彼は、やがてサラ金に手を出し、返済できなくなると、突然妻を捨てて大阪に逃げてくる。そして釜ヶ崎での暮らしを経て、ホームレス生活も体験する。聞き取り当時は生活保護を受給して、「福祉マンション」で暮らしていた。元妻とも、自分の家族とも音信不通になっているという。
 自分の人生について、彼は次のように言う。

「俺は人生あほやなーと思って。いまで七〇なんぼやけどな。その人生の生き方をな、方向をな、方向をまちがっとったなーと思う。だから、もう俺今七七やろ。だから七七、成人になって、何をやったかなーって考えてみんねん。そしたらなんもここに残ってねーしよ。普通の人やったら墓でも自分で作って遺族が立ててくれるやろ。俺なんかだーれもたててくれへんもん。だから無縁仏にはいらないかんでしょ。」(本書260ページより)

 語り口は自虐に満ちているが、不思議と淡々としている。彼だけでなく彼の家族をも傷つけてきたに違いない波乱万丈な人生が、今となっては無我の境地で語られる。

 「マイノリティ」と呼ばれる人々の生活は、私たちの生活と地続きで、ごく当たり前のように存在している。そもそも、どこからがマイノリティで、どこからが普通なのか、本書を読んでいるとだんだん分からなくなってくる。
 本書は、語られた言葉がなるべく編集を受けず、ありのままの形であるように配慮されている。その言葉は生き生きとダイレクトに伝わってくるだろう。
(新刊JP編集部)

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