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NHK朝ドラ「花子とアン」 元少女愛読者から賛否両論が噴出か

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 春の新作ドラマが目白押しだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が注目の作品について言及した。

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 いよいよNHK朝ドラ「花子とアン」がスタートしました。幼い頃、『赤毛のアン』の愛読者だった私は、いったいどんな風に料理されるのかなと、かたずを飲んで見守っていました。

 冒頭、タイトルとテーマ曲が流れ、実写の「グリンゲイブルス・緑の切妻屋根」が大写しになった時。見たくない!と思わず眼を覆ってしまったのです。ひそかに心の中に描いてきた大切な世界。誰かに勝手に触られたくない、イメージを書き換えられたくない--偏屈かもしれませんがそんな感覚です。

『赤毛のアン』は昭和の少女のバイブル、とまで言われる独特なポジションの作品。熱中して読み込んできた愛読者はもの凄く多いはず。だから、きっと私の屈折した心理に共感してくれる方も、いるのではないでしょうか。

『赤毛のアン』の翻訳版が出たのは1952年。物語の舞台、カナダのプリンス・エドワード島は日本人にとってはるか遠い場所でした。その後も長い間、多くの少女読者たちは活字を通して、アンが生きる場所を思い思いに想像し、憧れを大きく膨らませてきたのです。 

 ビジュアルも情報も無い。風景が見えない。それがむしろ、想像力を発揮して、一人一人独自の「アンの世界」を創り上げる駆動力になったのです。

 アンの暮らす家や部屋、自然豊かな湖、谷、海岸線、細い路地に窪地……「プリンス・エドワード島」の地図を自分の頭の中に思い描くことが楽しい、という方、実は多いのではないでしょうか?

 海外旅行が手軽になって「赤毛のアン」ツアーが販売されるようになった昨今も、現地を訪ねたいという人ばかりではありません。「現地ロケに行ってきました」とばかり実写を大写しにするのはどうかほどほどに。

 そんな風に『赤毛のアン』は、少女たちの胸の中に深く棲み着いたナイーブで独特な世界。ドラマ制作の方々はもちろんご存じかと思いますが、改めて伝えておきたい気分です。というのも冒頭の2週間、そうしたナイーブさが感じられない演出に、少々残念な思いになったからです。

 山梨の農村で暮らす花子の一家は、いつも顔がうす汚れ、髪の毛はぼさぼさのまま。いくらドラマでフィクションが混じるにしても、ちょっと不自然すぎない? どんなに貧しくても顔くらいは拭くはず。それなりの身繕いをするのが日本人の習性ではないでしょうか。「貧しい」ということを、「汚れた容姿」と簡単に結びつけてしまう配慮のなさに違和感を覚えるのは私だけでしょうか?

 ナレーションにも賛否両論があるようです。

 私がナレーションに求めたいのは、必要最小限の説明を添えることによって、物語をより立ち上がらせ、主人公たちをいきいきと輝かせること。その役割から、ちょっと逸脱していませんか。

 あの震えるような声を聞くと物語よりも黄色い髪の毛の方の顔が浮かんでしまう。いつもその声の主の「存在」ばかりを意識させられてしまう。

 毎日「ごきげんよう、さようなら」と締めくくるナレーションもどうなのか。いくら村岡花子が使ったセリフの引用だとしても、内容とは関係ないその言葉が突然入ってくる唐突さ。耳につく五月蠅さ。そこまでして、ナレーションをする人物を目立たせる必要は、ないのではないでしょうか。

『赤毛のアン』は一見、子どもむけファンタジーや少女の夢物語に見えるかもしれませんが、そもそもヤワな物語ではない。描かれているのは切実で繊細でリアリティのある世界。誰にも愛されず、求められもしなかった赤毛の孤児が、いつまた捨てられるかと存在の不安を抱え、おびえ傷つきながら、それでも生きていこう、誰かとつながろうと格闘する。

 アンは「女の子」という立場に逃げこまない。草や木や空と語りあいながら明日を生きる力をもらう。そんなアンの姿に、大いなる勇気をもらった少女たちが何人いたことでしょう。

 生きにくい状況の中で、どう生きていけばいいのかを指し示す指標の役割を果たしてきた『赤毛のアン』。読者の想像の翼によって支えられてきた繊細で豊穣な世界が、紋切り型の演出や通俗的な自己主張によって吹っ飛んでしまわないことを、祈ります。

『赤毛のアン』の中でもっとも戒められていたのは「虚栄心」ですから。

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