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「MOZU」の西島秀俊 背中に哀しみが滲み出ていると女性作家

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 視聴者の反応がネットを通じてダイレクトに伝わってくることも影響してか、ドラマ制作の現場も変化しつつあるようだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が今クールで注目する枠は「木曜午後9時」である。

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 いよいよスタートした春ドラマ。中でもダントツの注目作品は、警察ドラマ「MOZU~百舌の叫ぶ夜~」(TBS・WOWOW共同制作 木曜午後9時)でしょう。西島秀俊、香川照之、長谷川博己、真木よう子……とにかく、緊張感がいい。

 説明がなくても、筋なんかはっきりしなくても、ピリピリした空気と陰影ある画面に、ぐっと吸い寄せられてしまう。かたときも眼が離せない。役者の身体性も際立つ。真木よう子が思い切り殴ったり、西島秀俊が割れた筋肉を見せたり。役者から立ち上る匂いまでが漂ってきそう。

 細かい視線の動きが、次の展開を示唆する。説明的なナレーションやテロップはない。視聴者を集中させる仕組みが整っている。そして吉田鋼太郎、伊藤淳史、品川徹……これでもか、と存在感ある役者たちが、ズラリ脇に揃う。

 嬉しい悲鳴。なんという贅沢な時間。さらに、物語に説得力を加えているのがロケ。あちこちに実写の風景、見覚えのある街角が。丁寧に地道に、ロケを重ねていることがリアルを作り出す。香川照之がふと口にした言葉が、その秘密を物語っていました。

 「半沢直樹」の撮影中に、すでに「MOZU」の撮影が始まっていた--番宣で出た番組で、ぽろっと口にしたのです。

 えっ、半年以上も前から? ドラマ一つに、いかに時間をかけて作っているのかが伝わってくるエピソードです。

 時間が功を奏しているのは、役作りも同じ。西島秀俊の中には、愛していた妻を爆弾事件で失った公安警察官・倉木尚武という人物が、たしかに結晶している。黙ってタバコを吸う背中に、哀しみが滲み出ている。

 じっくりと腰を据えて一つのキャラクターを造形し、自分の中に役を育てあげる時間があったからでしょう。と、久しぶりにドラマ世界にどっぷり引き込まれる醍醐味。

  では、「MOZU」以外のドラマはどうなのか? 見回してみると……?

「かつてない復讐ドラマの扉が開く!! 日本のドラマでは見たこともない、痛快で破天荒なダーク・ヒロイン」と派手な宣伝文句が躍る「アリスの棘」(TBS系金曜午後10時)。

 復讐を誓う医師役・上野樹里は眼の強さが印象的。たしかに復讐に燃える人物の眼をしている。大河ドラマの「江」とは別人と思えるくらい、ガラリと雰囲気を変えている。役者としてあっぱれ。才能と可能性を感じます。

 それなのに。「アリスの棘」のストーリーの方はなんとも陳腐。見なくてもわかってしまう展開。安っぽい仕掛けや作り。上野樹里の役者力が空回りしないかと心配です。

 あるいは、「リバースエッジ大川端探偵社」(テレビ東京 金曜深夜)の主演オダギリジョーにも、「ロング・グッドバイ」(NHK土曜午後9時)の浅野忠信にも、似たようなとまどいを感じてしまうのです。いずれの役者もいい味を持っていて雰囲気がある。けれど残念ながら、役者の魅力がじわっと画面全体に滲み出てこないのはなぜ? 

 もう一度考えてみたい。「MOZU」が、他のドラマと比べてここまで面白く感じられるのはなぜ?

「時」がヒントではないでしょうか? 時間の厚みが、ドラマを発酵させているからではないでしょうか?

 西島秀俊は細マッチョ肉体が話題ですが、むしろ、あのげっそりと落ちた頬や無精髭に、「愛する妻を失った男」の緊張が宿っている。役作りにしっかり時間をかけてきたことが伝わってくる。時の厚みが、確実に、画面から匂いたち、視聴者に届いてくる。

 才能がある俳優も、演じる役を自分の中で醸造させるのには時間がかかる。良いブドウも、ただ素材が良いだけでは美味しいワインにならないように。

 お手軽に作ったドラマは深みも味わいもない。発酵するためには時間が必要。そんな紛れもない現実を見せてしまったのが、「MOZU」ショックであり、一つの教訓ではないでしょうか。

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