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映画『マレフィセント』の美しい映像はこうして作られた! 日本人クリエイター・三橋忠央さんインタビュー

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マレフィセント
ディズニー・クラッシック・アニメーションの金字塔として、半世紀以上も世界中で愛され続けている『眠れる森の美女』。その物語に隠されていた、“禁断の呪い”が生んだ究極の愛の物語を描いた映画『マレフィセント』がいよいよ7月5日より全国公開となり、3月14日の公開以来16週連続1位だった『アナと雪の女王』を抜き、興行収入第1位を記録しています。

先日アンジェリーナ・ジョリーとエル・ファニングが来日し、豪華なジャパンプレミアを行ったことも記憶に新しい本作。主人公は、『眠れる森の美女』のヒロイン、オーロラ姫……ではなく、彼女に“永遠の眠り” の呪いをかけたディズニー史上最強の悪役=マレフィセント。55年前に発表された『眠れる森の美女』で描かれたのは、オーロラ姫の誕生を祝う王家のパーティーに“招かれざる客”マレフィセントが現れ、パーティーに呼ばれなかった腹いせにオーロラ姫に“禁断の呪い”をかけてしまうという事。

しかし、招かれなかっただけの理由で、なぜ彼女は恐ろしい呪いをかけたのか? これは半世紀以上の永い間、ディズニーが封印してきた禁断の秘密。映画『マレフィセント』ではその謎を解き明かし、“永遠の眠り”の呪いが生んだ究極の愛の物語を描いています。本作の見所はなんといっても美しい映像、そして物語から飛び出してきた様なピクシー(妖精)たち。

マレフィセント
本作で、技術開発の一員となりピクシーのしわや、マレフィセントの翼の模様・質感の部分を担当しているのが日本人クリエイター・三橋忠央さん。サンフランシスコの美大Academy of Art College(現・University)の大学院を卒業後、ハリウッド映画のVFX制作に携わり『マトリックス・リローデッド』『マトリックス・レボリューションズ』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『トロン:レガシー』『47RONIN』など多数作品に参加。欧米のハイエンド映像制作現場における14年間の経験をベースに、近年は日本での活動も展開しており『あしたのジョー』ではVFXスーパーバイザーとして、日本映画テレビ技術協会・映像技術賞を受賞しています。

今回は三橋さんに『マレフィセント』の見所や、最新のCG事情など色々とお話を伺ってきました。

マレフィセント
――『マレフィセント』を拝見して、あまりにも美しい映像の連続に「どうやって作ったんだろう」と驚かされました。もう、何からお聞きして良いか分からないほどで……。

三橋:そうですね、この映画は技術的に大きな革新があったと思います。オーロラ姫を16歳になるまで守るピクシー3人をデジタルで作るという大変なチャレンジに、「デジタル・ドメイン」社の技術力が期待されて実現したという流れです。デジタルでピクシーを作る際に、人間のプロポーションとは全然違うのでフルCGで作らなくてはいけないという部分が一番の課題で。『マレフィセント』のピクシーはまた人間にも戻りますから、その時にも自然に見えなくてはいけない。大きく見た目が変ってしまってはいけないんですね。

マレフィセント
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モーションキャプチャーという技術を使うと、実際の人間の顔の動きが反映されますが、キャプチャーしたものをそのまま使わなくてはいけなくなります。そこから手を加えるとなると、自由度が効かなくて、キャプチャーする数も増えるので膨大な時間がかかってしまいます。それが、デジタル・ドメインが持っているモーションキャプチャーの技術では人間の骨格・筋肉をどの様に動かせば、どの様な表情になるかというのを解析する事が出来るんですね。これを使う事によって「もうちょっと笑って」とか「もう少し悲しそうに」といった微調整が後から可能になるわけです。このピクシーにどれだけ感情移入出来るかどうかが、物語の成功の肝だと思っていましたので、とてもこだわっています。

――それはそれは膨大な時間がかかったのでは無いでしょうか?

三橋:100人以上のアーティスト達が参加して、最初から最後までは1年半くらい時間をかけています。最初の半分くらいは、皆さんがスクリーンでご覧になる映像とは直接関係無いものを作っています。

――映画には収録されない映像という事ですか?

三橋:研究開発という事ですね。これまでのデジタル・ドメインの技術をそのまま使うのでは無く、その技術をどうやって改良していくか、その改良の方向性は正しいのかという事を一つずつ確認しながら進めるので、そこに時間がかかります。映画によっては、これまでの技術を利用する事もあるのでケースバイケースですが、本作に関しては「今まで誰も観た事の無い映像を作る」という点で、研究開発のウェイトはとても大きかったです。ピクシー達がマネキンみたいに無機質だったり、皆さんに気持ち悪いと思われたら失敗ですよね。この作品が台無しとなってしまうので、その点で我々もプレッシャーを感じていました。

――これまで『眠れる森の美女』では完全な悪役として描かれていたマレフィセントの、人間らしい、繊細な感情がより濃く出ている作品ですものね。

三橋:そうですね。『マレフィセント』はファンタジーでありながら、リアルな人間の質感や感情を伝えたい作品で。とは言え、例えば「○○の夜景を」や「○○ビル」といった、実在する物を作る場合は、見た事のある物なのでゴールが明確ですが、『マレフィセント』の世界には誰も行った事が無いのでゴールが難しいですよね。試行錯誤していくうちに同じ場所をぐるぐる、ぐるぐる回って全然ゴールに近づかなかったり。

ただ、本作を作っているのが『アリス・イン・ワンダーランド』、『アバター』、『オズ はじまりの戦い』などでプロダクションデザイナーを務めたロバート・ストロンバーグ監督で、デジタル、CG分野の知識が豊富な方だったので助けられた部分は多いです、森の中の幻想的な景色も、監督が描いてデッサンを「これがゴールなんだよ」って見せてくれて。なので、迷う事無く、そのゴールにむけて一直線にむかう事が出来ました。

――監督によっては、その指示が明確で無い場合もあるという事ですよね。

三橋:よく言われるのは「とにかくカッコイイのお願い」というオーダーで、“カッコイイ”のも色々あるんですよね。それでいざ見せると「う〜ん、もうちょっと違うのがいいな」と言われると。そうするとぐるぐる……。ハイクオリティな物を作る時に試行錯誤を重ねるのは当然ですが、ぐるぐる同じ所でまわっているのか、ゴールに向かって小刻みに進んでいくのか、大きな違いですよね。

――三橋さんがこういったCG技術の方面に進んだきっかけはどんな事だったのでしょうか?

三橋:日本では物理学を勉強していたのですが、どうもこれは自分のやりたい事じゃないなとずっとモヤモヤしていて。その時、映画館で『トイ・ストーリー』を観て「CGでこんなに素晴らしい物語が描けるんだ!」ってとても感動して、「CGを学んでみたい」という気持ちが強くなりました。でもその頃はCGを教えている学校も少なかったものですから、サンフランシスコの美大に進学して。『トイ・ストーリー』の公開が1995年で、渡米したのが1996年ですから、感銘を受けてからの行動は早かったですね。

――抜群の行動力ですね! 美大生時代に一番苦労した事は何ですか?

三橋:よく「欧米の大学は入るのは簡単だけど、出るのは難しい」と言いますけど本当にすごいんですよ。英語もまだうまく話せないので、哲学の分厚い本を渡されて「一週間で読んでレポートを書いて、皆の前で発表しろ」とか課題も難解で。美大時代は一切遊ばずに勉強しました。でもその時は夢中でやっていたので、苦労とは思っていないんですけどね。

――その後プロになって、色々な作品に携わっていくと。

三橋:美大を卒業して運良く映像制作の会社に就職しまして、プロとして最初に携わった作品は『ミッション:インポッシブル2』です。トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが、敵のアジトの通気口から侵入し、爆弾を使って建物を爆破し高層ビルから飛び降りるというシーンがありますが、本当にトム・クルーズが飛び降りるワケにはいかないので、シドニーの夜景とイーサン・ハントをフルCGで作って。そのチームに携わりました。

――そうした欧米でのCG技術と日本のCG技術、その2つの差はまだまだ大きいものなのでしょうか? それとも差は縮まっているのでしょうか?

三橋:個々のレベルはさほど変らないと思います。日本には世界に通用する技術を持ったクリエイターの方がたくさんいて。ただ、その方々を束ねて組織・企業にし、『マレフィセント』の様に難しいチャレンジにあたるという大規模なプロジェクトを行うノウハウを日本はまだ確立出来ていないと思います。そこは残念ながら、欧米に比べると劣っている部分ですよね。

――そうすると、優秀なクリエイターの方が海外に出ていってしまうと。

三橋:そうですね、すごく多いですよね。実際に「日本でCGクリエイターとして活動していたけど、技術を発揮する場所が無いからアメリカに来た」という知り合いはたくさんいますね。クリエイターが出て行くばかりだと日本の技術が空洞化してしまいますよね。だから、僕はそろそろ日本のCG市場を盛り上げていきたいなと思っています。今はロスと日本を行ったり来たりなのですが、僕の様にアメリカで色々な物を見て学んできた人間が技術を持ち帰って、継承していきたいなと。

――若い世代への継承、これからの日本の映画界にとってとても重要な事ですよね。最後にこれから映画をご覧になる方に『マレフィセント』の見所、三橋さんが一番面白く感じた部分を教えてください。

三橋:1959年のオリジナルアニメーションを見直していたんですが、これを今の技術で実写化するとどうなるのかなと思っていて。でも『マレフィセント』には色々なツイストが入っていて、現代社会にふさわしい複雑なストーリーになっているので、いち映画ファンとして最後まで飽きずに楽しめましたよね。オリジナルの悪く言えば教科書どおりのラブストーリーを上手に改変して、とても良いラブストーリーになっているなと思って。男としてもすごく共感が出来ましたので、男性もぜひ劇場でご覧になっていただきたいです。

――今日はどうもありがとうございました!

マレフィセント
『マレフィセント』
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記者:

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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