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平幹二朗 「言葉をはっきり伝えるのが役者のやるべきこと」

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 俳優、平幹二朗が出演する舞台を観た人の多くは、彼が発する台詞がとても聞き取りやすいことに驚かされる。マシンガンを撃つように台詞を数珠つなぎに語り続ける現代劇が多い最近になって、言葉の伝え方について劇団四季を率いる浅利慶太から平が思い起こし、語った言葉とは。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載「役者は言葉でできている」からお届けする。

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 平幹二朗は1968年、それまで十年以上所属してきた俳優座を離れ、劇団四季の団友になる。四季を率いる浅利慶太と平は、その二年前に浅利演出の舞台『アンドロマック』で出会っている。

「その当時は新劇全体のレパートリーが政治的なアピールをする傾向になっていまして、居心地が悪くなってきたんです。僕がやりたいのは、情念や愛憎を描いた、人間の芝居でした。

 そんな時にたまたま浅利慶太さんがフランスの劇作家・ラシーヌの『アンドロマック』という芝居をやることになりましてね。日本では古典もの以外では台詞の朗誦術が確立されていないので、それを探し出して見つけたいと浅利さんは言い、僕と市原悦子さん、渡辺美佐子さん、日下武史さんとみんな三十代の中堅俳優を集めて、台詞だけでいろんなことを語る芝居をやっています。そこで僕は初めて『こういう芝居をやりたかったんだ』と思ったんです。

 その後、四季の十五周年に『ハムレット』をやるから出ないかと言われました。ただ浅利さんとしてはヨソの劇団の者が十五周年の主役をやるのはまずいので、俳優座を辞めて来てくれないか、と。そこで初めて岐路に立って、俳優座を辞めました。

 でも、四季には入りませんでした。劇団というものが僕には合わない感じがしていたんです。人の中で自分を強く出していくことができないので、劇団だとどうしても隅っこに行っちゃうんです。そういう性格が分かったので劇団には入るまいと、今まで一匹狼でやってきました」

 劇場で平の芝居を見ていて感じるのは、その台詞の聞き取りやすさだ。ハッキリとして、それでいて流れるような調子で耳に入ってくるため、客席で聞いていてストレスが全くない。

「浅利さんは今も同じことをおっしゃいます。それは『言葉はあくまでも観客に伝わらなくてはならない』ということです。そのためには一節ずつ全て綺麗に『音が切れる』必要がある。

 例えば台詞で『お』が続くことがあります。『たけお、おまえを、おこる』これを『たけおおまえをおこる』と言うと芝居では分からない。『たけお』『おまえを』『おこる』と言わないとお客さんには伝わらない。それでいて自然に言わなきゃいけない。それで初めて伝わるんです。

 今の現代劇で僕が気になるのは、台詞が切れてないから聞こえないことが多いことです。その方が生活感のリアリティがあって、一音一音きれいに聞こえることはリアリティがないと捉える場合が多くなりました。ただ、三島由紀夫さんにしろ、シェイクスピアにしろ、台詞はちゃんと書かれているのですから、その言葉をはっきり客に伝えるのが役者のやるべきことではないでしょうか。お客さんに届いて初めて台詞だと思います。

 ですから、感情を込め過ぎてもいけません。叫んで喉を使ったりすると必要以上の力がその声に伝わって声が割れて、音として独立して聞こえてこない。あくまでクールに言葉を伝えていかなきゃいけない。感情で芝居をするなってことです」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年7月4日号

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