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NHK「55歳のハローライフ」から湧いてくる基本的な疑問とは

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 大人が愉しめる枠として定評があるNHKの土曜ドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が新作について考察する。

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 村上龍原作のドラマ『55歳のハローライフ』(NHK土曜午後9時)。ちょっと風変わりな、注目ドラマです。

 同じ集合住宅に暮らし、互いに面識のない夫婦を一回ずつ登場させては展開させていく、全5話のオムニバス。細やかなカメラワーク、美しい映像。凝った構成、たくみに演出された、完成度の高いドラマ。

 主人公たちはみんな、人生の折り返し点を過ぎた中高年たち。舞台はリビング。ベランダには観葉植物。テーブルの上にはコーヒー。ありきたりな日常風景。そこを静かに深く、えぐっていくと……。

 マグマとなって溜まっていたドラマツルギー。人の想いのすれ違いが、物語となって噴出してくるのです。

 第1話『キャンピングカー』は、リリー・フランキーと戸田恵子が演じる夫婦。58歳で早期退職した夫には、会社時代の思考法と人間の関係の作り方が染みついている。

「キャンピングカーを買って旅に出よう」

 夫は「よかれ」と思って一生懸命、夫婦の明日を考えての提案のつもり。それが、妻にとっては、「押しつけ」にしかならない、という現実の哀しさ。

 老後の夢をめぐって夫と妻のすれ違いが鋭く鮮やかに、描き出されていく。リアルでした。見事でした。生活の匂いが漂うドラマに、考えさせられました。

 第2話の『ペットロス』は、松尾スズキと風吹ジュンの夫婦。イヌの存在をめぐって、夫婦のすれ違いを描き出していく。シニア世代の人々が、胸の中に隠し持っている葛藤、愛情への飢え、孤独と模索。感情の振幅。

『55歳のハローライフ』を見ていると、まだまだ暮らしの周辺に描くべきテーマがたくさんあるのだ、ドラマにはやるべき仕事があるのだ、と気付かされます。

 視聴者層の想定もシニア。リタイアして家にいる時間が多くなり、そもそも青春時代からテレビと一緒に生きてきた世代。テレビドラマという媒体が息を吹き返すチャンスのように思えます。

 とても完成度が高いのに、ただ一つ、第1話にも第2話にも共通して「残念な点」がある。中高年になればなるほど、「人は変わることが難しい」という決定的な現実についての、描き方の甘さです。

 頑固な夫がある瞬間、妻の理解者に変わる。妻のために、思いやりをもって温かい一杯のお茶を淹れてあげる。そんなことって、果たして、現実に起こりうるでしょうか?

「奇跡」に近くありませんか?

 長い時間の中でできあがってきた自分自身の性格を、ちょっとしたきっかけで変えることなんて本当にできるでしょうか?

 よほどの大事件に遭遇し価値観が大転換したり、生死をかけた出来事を通して相手の存在を再確認するのでもなければ、なかなかありえないことでは。しかし、このドラマではその変化が短時間で起こってしまう。

 日常の中から気付きを見つける程度で、人は根底から変われるものなのかどうか。ドラマを見ながら基本的な疑問が湧いてきてしまう。

 フィクションだからしょうがない。限られた時間の中だからしょうがない。それはわかっています。でも、限られたドラマの時間の中でいかにそのあたり上手に処理できるのか、「なるほどそういう奇跡もありうるな」と視聴者を納得させられるかが、このドラマの「肝」になるのでは。

 もちろん、新しい世界の幕開けを感じさせてくれる完成度の高いこのドラマに、大きな期待を抱いているからこそ、の辛口エールです。いずれにせよ中高年を描く最大のドラマツルギーが、「夫婦関係の変化と転換」に潜んでいることは間違いないでしょう。

 番組紹介には〈再就職、ペットの死、老いてからの婚活、老いらくの恋、親友との別れ……。果たして、人生の「再出発」は可能なのか?〉とあります。第3話は「婚活」ですか。期待しましょう。

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