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椎名林檎はW杯テーマ曲「NIPPON」で炎上商法を仕掛けたのか 

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 NHKがW杯テーマ曲に選んだ椎名林檎の歌が賛否両論を呼んでいる。あなたはどう思う? コラムニスト・オバタカズユキが切り込む。

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 椎名林檎が歌うNHKのW杯放送テーマソング『NIPPON』。初めて聞いたときに、「場違いな気がする」と違和感を覚えた。

 その後、テレビで何度曲が流れても耳になじまない。で、みんなはどうなんだろうとネットの反応をチェックしたら、まさに賛否両論が渦巻いていた。曲の歌詞が右翼的かどうかをめぐって、だ。

 あらためて歌詞を検索して読んでみると、なるほどその出だしからして、〈万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴〉と右寄りの人に好まれそうな単語の羅列になっている。〈この地球上で いちばん 混じり気ない気高い青〉という箇所も、サムライブルーに過剰な意味づけをしている。

 後半に出てくる〈淡い死の匂い〉や〈あの世へ持って行くさ〉という表現に対しては、「神風特攻隊を連想させられる」と危険視する声がある。私にはそこまでの連想力がないけれども、安倍政権下での日本の右傾化を心配している人がそのように警戒するのは理解できる。

 ただでさえ普段眠っていた愛国心が燃え上がるW杯の開催中である。そこで「国営放送」のNHKが『NIPPON』のような日本賛歌を流せば、一定数の日本人が「怖い」と反応して当然だ。同時にそうした日本人を、「だからブサヨは」と叩き始めるネトウヨなどが、一定数現れることもお決まりだ。この曲が「問題作」として騒がれることは、最初の放送前から分かっていたはずなのである。

 シンガーソングライターの椎名林檎が、どういう気持ちと事情で歌詞を書いたのかは知らない。ひさしくヒット曲から遠ざかっているので、実はちょっとした炎上商法を仕掛けたのかもしれない。いや、そもそもインテリ好みのブンガクっぽい言葉遊びを得意とする作詞家でもあるから、このたびのテイストは三島由紀夫でいくかな、くらいの軽いノリだったのかもしれない。

 クリエイターは、それが自身の倫理を勢い任せで逸脱するものでない限り、何をつくろうが自由だと思う。炎上商法だとしても表現手段の一つとして許容できる。けれども、私はこのような「問題作」をなぜNHKが平然と流しているのか、そこが解せない。

 念のためにしつこく確認しておくと、椎名林檎の『NIPPON』は、NHKのW杯放送のテーマソングだ。大会が終わってからも「サッカー関連番組で広く使用していきます」とNHKのサイトにあるが、あくまで前提は「サッカー放送のテーマ音楽」であり、「日本代表応援歌」ではない。

 なのに曲名がいきなり『NIPPON』でいい理由が分からない。「日本」にばかり目が向いている歌詞を、国際大会の放送の場で流す判断に頷けない。NHKのW杯中継は、日本戦以外の試合もたくさん中継する。盛り上がりを見せた外国同士の試合のエンディングに『NIPPON』が流れると、「おいおい、空気読んでくれよ」と言いたくなる。

 サッカーのW杯に引きこまれるのは、愛国心が刺激されるからだけではない。それまで何の関心もなかった外国について、選手たちのプレイや、実況・解説にはさみこまれるウンチクなどを通し、知り得る楽しさもある。他のスポーツの国際大会もそうだが、サッカーは特に「お国柄」を感じさせやすい競技だ。観戦するだけで自然と視聴者の「世界」が広がっていく。

 だから、その放送のテーマソングは、いつも無国籍な設定でつくられてきたと思うのだ。前回、2010年南アフリカ大会のテーマソングは、Superflyの『タマシイレボリューション』。声量のある女性ボーカルが「スタンダップ! モンスター~」と歌い上げたインパクトのある曲なので、まだ耳に残っている人も多いだろう。「スタンダップ!」と呼びかけられた「モンスター」の枠は、日本人選手限定ではなく、世界のすべての選手に開かれていた。

 2006年ドイツ大会は、ORANGE RANGEの『チャンピオーネ』がテーマソングだった。「幼稚だ」「歌が下手だ」など酷評されていたと記憶するが、歌詞も要は「みんなで盛り上がろうぜ」と言っているだけで、それ以上でも以下でもなかった。2002年の日韓大会で採用されたポルノグラフィティの『Mugen』はけっこう抽象性が高い歌詞だったが、そのぶん解釈の幅が広く、どの試合のどんな場面でも重ねることができた。

 過去のテーマソングは、どれも「日本」に触れていない。出来の良し悪しはバラバラでも、国際的な大会向けの曲であることは共有されていた。それが、今回はどうしていきなり『NIPPON』なのだろう。椎名林檎に曲の創作を依頼して、出来上がった作品を受け入れたNHKの意識が気になる。

 NHKも右傾化しているから、とは言わない。それよりも私の頭の中には、学校優等生ばかりのNHK職員が、ちょいとアブナい椎名林檎を起用した自分たちを「イケてる」と勘違いしている図、が浮かぶ。椎名林檎自身が動画で喋っていたが、曲を依頼してきた人はかなりの林檎ファンらしい。それで自分の仕事の本来の役割を見失ったのではないか。

 作品としての『NIPPON』には、プロモーションビデオの視聴を繰り返すと、テレビで違和感を覚えた私でも「カッコいいな」と思えてくるだけの力がある。音楽は好き好きなので、自分だけ分かったかのような批評はしたくないが、椎名林檎の楽曲の魅力はデカダンスでアングラでやや変態気味にエロい世界の創造性にあると思っていた。それが『NIPPON』ではもっと変幻自在に疾走している。名ドリブラーの流れるような動きを想起させる。

 ただ、実際のNHKの放送で頻繁にかかるのは、歌いだしの〈万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴〉の部分。「万歳」は「Hurray」と読む。何十年前かの小学校の運動会みたいに「フレー!フレー!」から始まるのである。ここは相当ずっこける。

 加えて、彼女の歌い方は基本的に言葉の意味が取りづらく、字幕なしだと私の耳には「フレ~フレ~日本バレー 熱湯臭い レアッパレー」と聞こえてしまう。「レアッパレー」とはなんなのだ。右翼的とか、国際的じゃないとか以前に、なにを言っているのか分からない。だから、歌詞が「問題作」でも、局的に問題になるほど大きな批判が起きる事態にはならない?

 もしNHKの人たちがそこまで先を読んで、この曲にOKを出していたのなら天晴だ。このコラムは非礼このうえないものであったと、謹んでお詫びを申し上げよう。



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