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作家が「一家に一冊」と勧める本

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第58回となる今回は、デビュー作「べしみ」を含む連作短編集『甘いお菓子は食べません』(新潮社/刊)を刊行した、田中兆子さんが登場!
 結婚、セックス、夫婦関係などなど、様々なことに悩み、苦しみながら生きる40代の女性たちを、時に哀しく、時にコミカルに描いたこの短編集は、女性なら誰でも他人事とは思えないはず。
 今回は田中さんにインタビュー。執筆時のエピソードや、込められた思いなど、この作品の裏側について語っていただきました。注目の最終回です!
(新刊JP編集部)

■谷川俊太郎を追いかけて現代詩の世界へ
―小説演習の授業を受講するだけあって、かなりの読書家だったんですね。

田中:でも、育った家には絵本や児童文学がまったくなかったんですよ。幼稚園などで多少読んだりはしているんでしょうけど、そういったものにはほとんど触れませんでした。
記憶にあるのが、幼児向け雑誌を買ってくれると言われたのに、「そんな子どもっぽいものは読みたくないから漫画にしてくれ」と言って「りぼん」とか「なかよし」を買ってもらっていたことです。それが幼稚園くらいでした。
小学校にあがってからは、父が買ってきた「週刊新潮」と、母が毎月取っていた「家庭画報」を読んでいましたから、子ども向けの本は読まずじまいでしたね。

―それはかなり変わった読書歴だと思います。

田中:「週刊新潮」の中でも好きだったのが「黒い報告書」でしたから、いきなり下世話なものに入ってしまいました(笑)。図書館にも行っていましたが、読んでいたものは小説ではなくて、歴史などの本が多かったです。
だから文学的なものとなると、現代詩が最初だと思います。

―いきなり現代詩!

田中:谷川俊太郎さんの詩が小学校の教科書に載っていたりするじゃないですか。そのプロフィールを見ていたら、著作のところに『二十億光年の孤独』とあって、そのタイトルにやられてしまった。「この人の詩は絶対わかる!」と直感して、そこから谷川さんを追いかけるように、現代詩を読み始めました。

―中学生以降の読書はいかがですか?

田中:「ぴあ」などを読んでいました。私は富山の田舎の出身なのですが、東京の情報が得られる雑誌を読むのが背伸びしたい中学生の流行りだったんです。

―東京でやるコンサートの情報を富山で調べる中学生。

田中:そうなんです(笑)。東京の情報を知ってるぞ、という自分が好きだったんでしょうね。
あとは、当時「ビックリハウス」っていうサブカルの雑誌があって、そういうのを読んだ男の子たちが自慢してくるんですよね。それに対抗するように「現代詩手帖」を読んだりとか。
だから、しっかり小説を読むようになったのは高校に入ってからですね。

―大学の授業で最低点をもらってからは、小説を書く熱意は冷めてしまったのでしょうか。

田中:そうですね。そこからはひたすら読むだけでした。大学を卒業して就職した会社では外回りの営業をしていたのですが、移動時間が長くてたくさん本が読めたんですよ。
移動中に本を読んで、読み終えた本を会社のロッカーに入れて、ということを繰り返していたら、辞める頃にはロッカーが本でぎっしりになっていて、段ボールに詰めて持ち帰った記憶があります。その頃にはもう何でも読んでいましたね。

―田中さんが人生で影響を受けた本がありましたら、三冊ほどご紹介いただければと思います。

田中:まずは『詩のこころを読む』です。「日本人なら一家に一冊」と言いたいほどの名著ですね。『甘いお菓子は食べません』にもちょっとだけ登場する金子光晴さんの「寂しさの歌」ですとか、日本を代表するすばらしい詩が平易な言葉で紹介されています。岩波ジュニア新書なのですが、大人が読んでもまったく問題のない、とてもいい本です。
二冊目は『描かれた女性たち―現代女性作家の短篇小説集』。これはアメリカの女性作家の作品を集めた短編集です。アン・ビーティが好きで買ったんですけど、他のラインナップも豪華なんですよ。先日ノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローも、確かこの本で知ったんだと思います。
読んだのはもう25年くらい前なんですけど、当時はアメリカの女性作家たちがフェミニズムを経て、古くからある「男性を支える存在としての女性」とは違う女性を書き始めた時期だったんです。それがすごく新鮮だったのを覚えています。
最後は古井由吉さんの『小説家の帰還―古井由吉対談集』にします。どの対談も、一言一言が非常に深くて、きちんと読み取れているかはわからないのですが、小説を書くようになってからこの本のすごさがさらにわかったといいますか、示唆を受けています。たとえば、夏目漱石の『道草』はこんな読み方ができて、この表現はこう解釈できて、など、気づかされることが多いですね。

―今後どんな作品を書いていきたいとお考えですか。

田中:「小説新潮」で書かせていただいた短編が昨日校了になったのですが、それが「昭和の不器用な男と女のいい話」というような作品なんです。
これはもともと「いい話」を構想していたわけではなくて、編集の方のアドバイスを受けて、最終的にそういう話になったのですが、「自分にこんないい人の話が書けるんだ」という驚きがありました。自分では性格が悪い人の話を書くことばかりが得意だと思っていたので、しみじみとしたいい話も書けるというのは発見だったんです。
こんなことがあったものですから、色々なお題をいただいて、どんな作品でも挑戦してみたいという気持ちはあります。あまり自分のコアがなく、色々なものに影響されやすいところがあるので、その中でどこまでのものが出せるのか、やってみたいですね。

―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いします。

田中:人によっては全然共感することのできない本かもしれません。でも、その共感しない部分を探して読んでいただけたらうれしいです。特に男性の方には「女ってそうなのか、男とは全然違うんだな」と思っていただけたらいいですね。今の女性をかなり意識して書いているので、2014年の女性はこうだというのがわかると思います。
(インタビュー・記事/山田洋介)



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