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平等を重んじると差別が生まれる?

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●[対談]乙武洋匡×木村草太「憲法を考える」(2)

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乙武: 日本国憲法第14条では「法の下の平等」が規定されていますが、僕は3年間の教員経験のなかで、ずっと違和感を持っていたことがあるんです。それは、公教育は「平等」を建前としながら、実際には平等な教育を実現できていないのではないか、ということでした。

木村: それはどういうことでしょう?

乙武: たとえば、クラス全員にTシャツを配るとします。でも、子供たちは同じ年齢でもそれぞれ体の大きさが異なりますよね。僕の感覚では、各自の体に合ったサイズのTシャツを配布するのが平等なのですが、今の公教育というのは、全員にMサイズのTシャツを配布することをもって平等としているフシがある。

木村: ああ、なるほど。真ん中ぐらいの子に合わせて作られた型を、全員に押し付ける感じですね。私が常々考えているのは、「平等」とはあまり重視しすぎてはいけない価値観である、ということなんです。たとえばアメリカでは昔、表向きには人種差別を撤廃しようとしながらも、“この地域の土地は◯エーカー未満に区切って販売してはいけない”というルールを設けることで、実質的に貧しい黒人の人々が住めないようにしていたことがありました。これを差別として訴えようにも、平等権では手出しができないんですね。

乙武: たしかに、結果的には富裕層以外を排除しているけれど、同じルールが適用されるという点では万人に平等な状況ですものね。

木村: そう。つまり平等について価値を認め過ぎると、このケースのように実質的な不平等を助長することになりかねないわけです。乙武さんのいう、Tシャツの例も同様でしょう。これが平等権の難しいところです。

乙武: 木村さんのような憲法学の専門家が、平等を重視しすぎてはいけないと語るのは非常に興味深いです。では、実質的な不平等を減らすためには、僕らは何をすべきなのでしょうか?

木村: 公教育の話でいえば、教育の目的をどこに置くかを話し合うことが重要だと思います。たとえば、最近はクラスに外国人の子供がいることも珍しくありませんが、ネイティブの子供は英語の授業をどうするのか、という問題が生じます。英語教育の目的が純粋に英語力の向上を目指すのであれば、能力に応じたクラス編成を行うべきです。しかし、英語という文化を介したコミュニケーションが目的なら、現状のままでいいわけです。

乙武: たしかにそうですね。個人的にはその場合、英語は話せるけど日本語はまだ不十分という子であるなら、みんなが英語の授業を受けている間、日本語の授業を受けられたらいいと思うんです。でも、そういう柔軟な対応をしてくれる学校がどれだけあるか…。公教育では、どうしてもみんな一緒であることが第一に考えられてしまうんです。

木村: そうですね。「教育目的は教科の習得である」と考えているのだとすれば、みんなに同じ教え方をするというのは、目的実現のために合理的な手段とはいえません。そうなると、もっと効率的に目的を実現するため、つまり成績を良くするために、学習塾に通って学習内容を先取りするという、抜け駆けを推奨してしまう可能性があります。これがあまりに進むと、最後には学校での勉強は意味がない、ということにもなりかねません。

乙武: ルールを平等に適用することに縛られてしまって、そもそもの目的から遠のいてしまう。これは教育現場に限らず、起こりがちなことかもしれません。

木村: ちなみに法学の世界では、こういう状況を「法命題を見て帰結を見ない」と表現します。つまり、“◯◯罪なら懲役◯年”といったルール(命題)の部分だけを見るのではなく、こういうルールが設定されることで人はどう動くのか(帰結)を、本来は考えなければならないんです。法制度の目的は、あくまで正義に適った行動に人を導くことなわけですから。

乙武: なるほど。平等を保障するためにルールを作る。でも、そのルールを遵守することに固執してしまうと、実は本来の目的である平等が保たれないこともある、ということですよね。法を運用する際には、その法が作られた目的をしっかり考えることが重要なのだと再確認しました。

(構成:友清 哲)

【今回の対談相手】
木村草太さん
1980年生まれ。東京大学法学部卒。同大学助手を経て、首都大学東京准教授。著書に『平等なき平等条項論』『憲法の急所』『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『テレビが伝えない憲法の話』など。

(R25編集部)

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※コラムの内容は、フリーマガジンR25およびweb R25から一部抜粋したものです
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