過労死防止法で悲劇は根絶できる?

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「過労死等防止対策推進法案」が衆議院本会議で可決

過労死防止法で悲劇は根絶できる?

厚生労働省の発表では、2012年度に長時間労働などで脳・心臓疾患を発症し労災認定を受けた人のうち、死亡者は123人。うつ病などの精神障害で労災認定を受けた人のうち、未遂を含む自殺者は過去最多の93人だったということです。

そのような実態を踏まえて、5月27日、過労死や過労自殺の対策が国の責任であることを初めて法律に明記した「過労死等防止対策推進法案」が衆議院本会議で可決されました。今後、参議院でも可決されて成立することは確実です。

国に対して調査や防止策を求める一方で企業に対する規制はない

この法案は、超党派の議員連盟が議員立法で提出したものです。長時間労働などによる労働者の過労死や過労自殺の防止が目的とされ、国に対して過労死の調査研究や防止策の実施を求める一方で、労働時間の制限など、企業に対する規制は盛り込まれていません。

企業に対する規制が盛り込まれていないとなると、「その法律の実効性は?」と思ってしまうのですが、実感としては、この法律を制定しただけでは大きな変化は期待できないということになるのかもしれません。

この法案は、「~基本法」と言われる他の法律と一緒で、課題を認識してその対策の大枠を定めるだけのものです。「国も過労死対策に力を入れるべき」というテーマに反対する人はいないでしょうから、総論賛成・各論反対の立場でも法律の制定に支障はありません。その意味で、国会の全会一致で成立することは言ってみれば当然の帰結でした。

法案では大綱を定めることを国に求めており、今後、過労死の遺族や労働者・使用者代表らで構成される「過労死等防止対策推進協議会」を厚生労働省に設置して議論することになります。国の対策として、事業者に対する規制を行うのかについても、今後の議論を待たなければならないというのが現時点における到達点ということです。

今回の法律制定が過労死防止に寄与するかは未知数

それでは、この法律を制定したことに意味がなかったのかというと、そうでもありません。この法律によって、国が過労死の問題を正面から認めたことになるのですから、今後の労災認定において、過労死が労災として認められやすくなるという効果は期待できます。

しかし、過労死で亡くなってから労災と認められたとしても、亡くなった人は帰ってきません。その意味ではこの法律の制定がどの程度、過労死防止に寄与するかは未知数です。

ただ、過労死研究のなかで、企業側が留意すべき事項が整理され、それが周知されるという流れになれば、企業側が対策すべき義務も明確になり、その義務を怠っているということが雇用主の安全配慮義務違反と認定される確率は高くなります。その意味では遠回りではありますが、過労死の減少に役立つということにはなるのでしょう。労働者の立場で考えると、一歩前進ではあるが、まだまだ注意深く見守る必要がある段階ということなのだと思います。

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