“子どもが自分の家族を殺す”非情な世界を変えるには?

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“子どもが自分の家族を殺す”非情な世界を変えるには?
「僕は、お母さんの腕を切らなければいけなかったんだ」

 16歳のウガンダの少年はそう語った。その惨劇が起きたのは、少年がまだ12歳のときだった。隣村に出かけた母親を迎えにいった彼は、銃を持った兵士に誘拐され、自分の生まれ育った村を襲うように指示された。

「切らなければ、母親もお前も殺す」

 兵士たちは、子どもを絶対的に服従させるために、非情な手段を使う。人を傷つけたり、殺したりする抵抗をなくすために自分の生まれ育った村を襲わせ、大切な家族や親せき、友達を殺させるのだ。
 これは決して特別なことではない。ウガンダでは、反政府軍が多くの子どもを誘拐し、兵士として従軍させた。その数、3万8000人。
 この現実に、自分は何かできないだろうかと考えた人もいれば、遠い異国の話なのだから自分には関係ないと思う人もいるだろう。

 しかし、何かを感じ、動き、現実を目の当たりにして、各々の想いを持って何かしらの活動を立ち上げた人たちがいる。
 その一人がNPO法人テラ・ルネッサンスの創設者である鬼丸昌也さんだ。

 テラ・ルネッサンスは2001年に当時立命館大学に在学していた鬼丸さんが一人で立ち上げた。設立当初は「カンボジアの地雷除去支援と地雷被害支援を通して、すべての生命が安心して生活できる社会づくりを目指す」という活動理念を掲げていたが、その後、活動の幅は広がり、現在は「地雷」「小型武器」「子ども兵」という3つの課題に取り組んでいる。

 鬼丸さんにはこうした活動を始めるに至ったきっかけがあった。
 もともと海外に興味があり、小学生の頃の趣味がなんと「在日大使館への資料請求」。さらに、その好奇心は途切れることなく、膨らんでいく。
 決定的な言葉に出会ったのは、高校3年生のスリランカへのスタディツアーのときだった。スリランカの有名な社会活動家、アリヤラトネ博士が次のように話したという。

「すべての人に、未来をつくる力がある」

 さらに、それまで得てきた知識や情報、使命感、好奇心、そしてアリヤラトネ博士の言葉は、大学生になって訪れたカンボジアの地雷原で線となって結ばれる。
 そこで見た現実。希望を奪う悪魔の兵器“地雷”の存在。そして、その被害者の3割は子どもであるということ。鬼丸さんはカンボジアで打ちのめされた。

 鬼丸さんは、世界の紛争に先進国も加担しているとつづる。政治的、経済的な利害が絡んでいるのだ。例えば、子ども兵が持っている小型武器は先進国で生産されたもので、そこに軍需産業が発展し、先進国に莫大な利益をもたらしているという。

 しかし、一人で立ち上げたNPOを法人化し、13年間運営し続けてきたというその努力は、並大抵のことではない。多くのNPO法人が運営費のねん出に四苦八苦している現実がある。一体どのようにして彼は活動を続けてきたのだろうか。
 その答えが書かれているのが、鬼丸さんの新刊『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』(扶桑社/刊)だ。本書は彼のテラ・ルネッサンスを立ち上げから、どのようにして運営してきたのか、どのように想いを伝えてきたのかが書かれた一冊である。

 本書の1章は鬼丸さん自身の生い立ちが語られており、2章以降は、社会起業の方法について説明されている。
 メソッドだけを抽出すれば、普通のビジネス書に書かれているような「目標を達成する方法」「やりたいことをやる方法」にも通じる内容なのだが、そうした書籍とはまるで印象が違う。それは、単に「目標を決めて達成しよう」「想いを伝えよう」とただ口で言っているのではなく、自ら重い荷物を背負った上で、一つ一つ活動を広げてきたという彼自身の下地があるからだろう。そして、それは今なお、現在進行形であるということも特筆すべき点だ。
 3章ではプレゼンの技術がつづられている。こうした活動の成否は何よりも他者への「啓発」が鍵を握るもので、私たち一般市民が目を反らしたがる内容をいかに知ってもらうか、自分事として考えてもらうかということを、鬼丸さんは普通の人以上に考えてきたはずだ。そういった礎の上に、本書の内容があるのだ。

 プレゼンやコミュニケーション術、目標達成の仕方などは、ビジネスパーソンにとっても非常に効果的なスキルとして使えるだろう。社会起業に興味がある人はもちろんのこと、社会活動にあまり興味がない人にも役立つはずだ。
(新刊JP編集部)



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