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アメリカの科学技術を支える外国人たち

サイエンスあれこれ

人種のるつぼと言われるアメリカでも、移民に対する規制が厳しくなり、技術開発にも少なからずその影響がでてきているようです。今回はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

アメリカの科学技術を支える外国人たち
アメリカでは2001年の9.11事件以降、直後に提出された愛国者法 *1 、翌年に提出された国境警備強化・ビザ入国改正法案 *2 やビザマンティスプログラム修正 *3 (2005年に緩和)などにより、外国人研究者や技術者へのビザ発行基準を強化してきましたが、その後の長引く不況や雇用低迷は、その傾向にさらに拍車をかけ、昨年の2月に提出された景気刺激法修正案 *4 では、不良資産救済プログラム(TARP)で資金援助を受けた企業のH-1Bビザ申請に厳しい制限が課せられるようになりました。さらに、米国輸出規則 – Export Administration Regulations (EAR) *5 は、外国人が特定の研究分野で仕事をすることや、それらの分野への情報アクセスを禁止しています。これらの政策により、2001年以降、高度技術者へのH-1Bビザ発給件数や、アメリカの大学院への外国人志願者数が激減したそうです *6。そして、それは、アメリカにおける外国人によって申請された特許件数の減少という、目に見える結果として現れたというのです *7。この状況に危機感を抱き、アメリカの科学技術が、いかに外国人によって担われているかということを検証した論文が、『Nature Biotechnology』誌3月号に掲載されました。 *8

それによると、アメリカのバイテク分野における特許出願者の実に31%が外国生まれの外国人(台湾と香港を中国に含めるとそのうちの25%が中国人)なのだそうです。これは、彼らのアメリカ全人口に対する比率が11%、大卒人口比が22%であることを考えると、際立った数字と言えそうです。また、その中で技術的に傑出した上位 10%の特許のうち、21%がアメリカ人によるものだったのに対し、37%が外国人によるものでした。その差は、博士号所持者に限ってみると、さらに広がる結果(20%)となっています。

これらの特許の経済効果上位10%で比較すると、12%がアメリカ人、21%が外国人によるものでした。特許の重要性の指標である被引用回数を比較すると、外国人によるものが9%上回っていました。最後に、実際の商品化率で比較しても、外国人によるものが10%ほど上回っていました(これらのデータは、全標本の結果として本文中で触れられている値で、論文中の表に掲載されている主要標本の値とは異なっているようです。少し紛らわしいですね)。

論文では、同じ外国人でも、自分の最終学歴をアメリカで取得した外国人と、自国で取得後アメリカに働きに来た外国人で差があるかどうかも比較しています。ほとんどの比較で、両者に統計的に有意な差は認められなかったのですが、唯一、特許の商品化率において、アメリカで最終学歴を取得した外国人の割合が有意に高かったそうです。これらの層は、アメリカにとって特に大事なお客様というばかりでなく、教育のために投資した分を還元してもらうためには、絶対に手放してはならない存在というわけです。アメリカがこれらの大事な外国人研究者・技術者に対して、活躍の場を制限することは、国家にとって大きな損失ということになりそうです。

一方で、同誌の論説記事(購読無料)*9 が、この論文に対し語ったコメントがさらに興味深いので紹介します。いわく、確かにアメリカのバイテク産業における外国人の貢献度には大きいものがあるが、それは、想定外に大きいというわけではないというのです。というのも、外国人の対大卒人口比率は、22%だけでも、対大学院卒(博士号所持者)比率では29%もあるからです(昨年度発表の2008年アメリカ国立科学財団NSFデータより *10)。さらに、ブッシュ政権下でのアメリカ大学院への外国人志願者数の減少とは矛盾するのですが、1998年から2008年の間、アメリカでの博士号取得者のうち外国人の占める割合は、生命科学分野に限ってみても25%から29%と、決して減少してはいないと言うのです(同NSFデータより)。

このことから論説記事では、これまでの移民政策が、有能な外国人研究者や技術者の獲得にマイナスに作用したわけではないが、世界中で有能な外国人を奪い合う状況になったときに、移民政策は、多すぎる移民を制限する方向にばかり目を向けるのではなく、少なすぎる「有能な」移民を如何に多く確保するかに目を向けるべきだと論じています。

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