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酒場めぐりが楽しくなる一冊

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 気の合う同僚と上司や仕事の愚痴を言い合う。年末の忘年会シーズンには、そんなサラリーマンの姿をあちこちの居酒屋で見かけるようになる。そんなサラリーマンやOLたちの仕事終わりの楽しみの場でもある駅前の飲食店街にはルーツがある。

 酒場という舞台でいろいろな人に人生を語ってもらえば、面白い物語が書けるはず。読売新聞メディア局に勤める小坂剛氏は、読売新聞ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」で「酒都を歩く」という連載を始めた。この取材に協力したのは、居酒屋を巡るテレビ番組でも有名な太田和彦氏、ノンフィクション作家の吉永みち子氏、フォークシンガーのなぎら健壱氏、社会学者の橋本健二氏など13人。本書『あの人と、「酒都」放浪 -日本一ぜいたくな酒場めぐり』(小坂剛/著、中央公論新社/刊)はその連載をまとめた一冊だ。

 社会学者の橋本健二氏は、格差や階級論を専門とし、フィールドワークと趣味を兼ねて酒場を訪ねている。小坂氏は「フィールドワークの現場を見せてほしい」とお願いし、橋本氏と向かった先は、池袋駅の東0.4キロ、美久仁小路にある「ふくろ 美久仁小路店」。1合瓶で200円の焼酎と、ホッピーや炭酸といった割り材が別売りされ、つまみも300〜400円台が中心と安い。
 敗戦後、空襲で焼け野原となった東京では、延焼を防ぐための建物疎開で空き地だった駅前にヤミ市が形成された。池袋東口にも木炭や石炭のカスで固めた地面にバラックや露店が立ち、配給物資の不足で飢えた家族のために食糧を買い求める人でごった返した。しかし、1949年に始まった戦災復興の区画整理によって、店は立ち退きをすることになる。
 美久仁小路も、ヤミ市の店が集団で移転してできた小路で、45人の仲間が集まり、雑木林を切り開いた土地に1軒あたり10平方メートルほどの店舗を建てたのが始まりである。
 この小路ができた当初は、周囲に何もなく、お客さんを拾いに駅に出なければいけないほどだったという。しかし、高度成長期を迎えて街の発展とともに小路もにぎわうようになった。現在、客の多くはサラリーマン。「ここは自腹で呑む店だから、職場で気の合う仲間同士が多い。上司が部下に説教する店じゃないんですよ」と橋本氏は話す。店のあちこちから「俺に言わせれば、あいつはだいたい・・・」といったサラリーマンの本音トークが聞こえてくる。

 駅前の飲食店や焼き鳥やのほとんどはヤミ市にルーツがある。ヤクザが仕切り、貧困と暴力が支配する非情な世界だったとされるヤミ市だが、階級の違いや貧富の格差を超え、同じように酒を楽しむことができるという、盛り場の理想を体現する空間だったともいえると、橋本氏は語る。

 年末の今の時期、忘年会など、飲み屋に行く機会も増える。チェーン店の居酒屋もいいが、横丁の飲食店街にある昭和の雰囲気の残る酒場で、気の合う同僚と一杯やるのも楽しいはずだ。
(新刊JP編集部)



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