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■春樹の「安心感」は「変わらなさ」と紙一重

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2013年の年間ベストセラーが、大手の出版取次会社、日本出版販売(ニッパン)から発表された。

総合1位は、発売前から「春樹祭り」とでも呼ぶべき盛り上がりを見せた、村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。

高校時代の仲間から覚えのない理由で絶交された多崎つくるは、その真相を探るべく、故郷の名古屋、さらにフィンランドへと足を運ぶ。36歳になるまで過去を振り返ろうとせず、親しくしている女性の助言に背中を押されてようやく「巡礼」に出かけるという腰の重い主人公キャラは相変わらずで、他にも洒落た会話、気の利いた比喩、多くの謎やエピソードを回収せずに放置しておく作風など、安心して春樹ワールドに浸れる作品ではある。

でも、その安心感は「変わらなさ」と紙一重だろう。毎度のことながら賛否が激しく割れた書評には、この作品に変化の兆しを読み込むものもあれば、“自己模倣”と断じるものもあった。不動の春樹ブランドは今後、大変身を遂げるのかどうか。いずれ書かれる長編によって本作の評価もまた変わってくるに違いない。

変わらなさといえば、総合2位の『医者に殺されない47の心得』の著者、近藤 誠もそう。96年に『患者よ、がんと闘うな』を出版して以来、抗がん剤は効かない、がんは原則として放置したほうがいい、と一貫して医療批判を繰り返してきたことで知られている。

本書では、がん以外の腎臓病、高血圧、糖尿病に対しても“医者や薬を信じるな”と主張。さらに元気に長生きするための生活習慣までカバーしており、近藤理論の総花的な一冊として売れた感じが強い。彼の主張に対しても、もちろん賛否両方ある。氏の理論だけを鵜呑みにせず、反論も読んだ上で医療に対するスタンスを考える材料にしてほしい。

■2013年の読書傾向と政治状況との共通点

総合3位は阿川佐和子『聞く力』。2012年の年間ベストセラーでも1位にランクインしている本書は、2年にわたって売れ続けている大ロングセラーだ。

さすが週刊文春の名物連載「この人に会いたい」のインタビュアーだけあって、エピソードや体験談の盛り込み方が秀逸。ノウハウ集というよりはエッセイ色の強い一冊で、ビジネスマン以外の層にも読みやすい筆致が読者を広げた。

今年の年間ベスト3を見ると、著者はいずれも大御所で、ブレのない人たち。読書にも安心感や安定を求める2013年のメンタリティは、変化を掲げた民主党に愛想を尽かして自民党を選んだことにも通じているように感じられる、というのは言い過ぎだろうか。

(斎藤哲也)

<書籍紹介>
●『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹/文藝春秋/1785円
●『医者に殺されない47の心得』近藤 誠/アスコム/1155円
●『聞く力 心をひらく35のヒント』阿川佐和子/文春新書/840円
(R25編集部)

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