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ロングインタビュー「冲方 丁」

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歴史小説を世界に!

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高校時代に書いたライトノベルでデビューし、

ゲーム、アニメ、マンガとメディアを横断して活動。

近未来を描いたSF作品で人気を博したかと思えば、

真逆といえる歴史小説が大ベストセラーに。

押しも押されもせぬ人気作家は悔しいほどイケメン。

しかも、話が面白い。たぶん、性格もいい。

そんな冲方 丁が見据える未来とは?

清少納言は現代の
キャリアウーマン!?

180cmを超える長身にイケメン俳優さながらの爽やかなルックス、サービス精神旺盛でどんな質問にも丁寧に答えてくれる。「小説家はかくあるべき」みたいな重々しい雰囲気はなく、むしろ雰囲気だけなら“IT系若社長”。ライトノベル出身で、ゲーム、アニメ、マンガと創作の舞台を広げ、そこで得た技術を駆使したエンタテインメント歴史小説が高い評価を得ている。冲方 丁、36歳。まるっきり出木杉くんじゃないか。

歴史小説3作目となる『はなとゆめ』は、『枕草子』の作者、清少納言の生涯を描いたもの。28歳で一条天皇の后である中宮定子の教養係として宮廷に仕えた清少納言は、華やかな朝廷の雰囲気になじめずにいた。だが、中宮定子に才能を見いだされ、沸き立つ想いを歌に記す喜びを知り、自分を目覚めさせてくれた人に恩返しをしたいと願う。舞台は平安時代、千年も昔の話だが作家・冲方 丁の目にはこう映る。

「シチュエーションだけで言うと、アラサーでバツイチ子持ちの女性が大企業に中途採用されて、新卒の若い人たちから指導を受けるっていう(笑)。しかも、いきなり重要な部署に抜擢されて、ズバ抜けて仕事ができる上司につく。言ってみれば、キャリアウーマンのストーリーそのもの。当時の状況も現代に近いんです。朝廷内の女房(女官)として働く人は、基本的に貴族層ですが、当時の女性は気軽に外出できなかった。その分、和歌や本の貸し借りをしていましたが、それが現代のメールのやりとりと似ています。和歌や日記を書いて、みんなでまわし読みするとか、要するにフェイスブックですよ」

作中の清少納言はくせっ毛に悩み、自分を場違いな存在と思って壁代に隠れるなど、かなり「乙女」である。その「乙女」な部分が読者の萌えポイントとなり、自然と感情移入させられる。まさにライトノベルにおける“キャラ立ち”と同じ構造だ。書き方にも工夫が。

「平安時代って、建築物の構造からして違うので、ひとつひとつ説明して書こうとするとSFみたいになるんです(笑)。例えば、『つぼね』をちゃんと説明すると、『ベランダを仕切って住んでいる』ですが、それだとニュアンスが変わってしまう。清少納言にすれば知っていて当然のことは、現代語に無理に置き換えないようにして読みやすくしました」

とはいえ、残された資料は少ない。

「最初の頃はわけがわかんなかったんです。清少納言の資料は宮中にいたときのものしかほとんど残っていませんし、内部事情を知っている前提で書かれているから細かい描写は省かれています。だから、清少納言や貴族が『なんで突然こんなこと言い出した』のかがわからない。資料を鵜呑みにするとつじつまが合わなくなるので、当時の社会情勢や日本史を調べて、裏の裏まで読み込みました。そこは苦労しましたね」

資料を調べるうちに、実は清少納言自身に枕草子を書く気があまりなかったことがわかってきた。枕草子が生まれたきっかけは、言葉遊びともとれるやりとり。一条天皇が『史記(敷物)』を書き写していたのに対し、“ならば私たちは『枕』を書こう”と、清少納言が言ったこと。だが、当の本人が枕草子を書いたのはこのくだりのずっと後なのだ。

「いつまでたっても書かないんですよ(笑)。要はざっくりしたイメージで言ったものの、清少納言は『枕』の意味を決めてなかったんじゃないかって。やること決めずに洒落で言ったらホントにやることになったっていう。それが今回の解釈です」

独自の視点で人物の魅力を描くのが、冲方流歴史小説の醍醐味のひとつ。では、なぜ歴史小説なのか?

「歴史小説を書いている動機が『日本ってなんだろう? この国とどうやって付き合っていこうか』なので、僕にとっては外せないラインなんです」

そのルーツは、幼少期を海外で過ごした体験にあるようだ。

日本の歴史物を輸出して
逆輸入される状況に

4~9歳までをシンガポール、10~14歳までをネパールで過ごした。様々な国籍や人種、宗教に触れ、いやが上にも「日本人であること」「日本ってなに?」を意識させられたという。貪るように辞書を読み、日本語に飢えた経験が、帰国後に小説を書く原動力となり、18歳のときに書いたライトノベルでデビュー。20代はゲーム、アニメ、マンガなどあらゆるジャンルで執筆し、メディアミックスの旗手と評された。

「一日も早くうまくなりたかったんです。まだ書けないのか、まだこれには手が届かないんだって、あの頃はとにかく書きました。26歳のときに1年で9冊の本を刊行したときは、“月刊冲方”とか呼ばれたけど(笑)。そうまでしないと食っていけないぞっていう危機感はすごくありました」

メディアを横断して書いたのは、純粋に楽しかったのと、短期間で技術を習得するため。それから。

「中堅になると、技術を持っているという扱いをされるので、手持ちの札しか使えなくなってくるんです。でも、新人だといろいろトライさせてもらえるし、教えてもらえる。『自分はこの業界では新人です』って態度がとれることも大切でした」

また、『冲方丁のライトノベルの書き方講座』などを刊行し、自ら手の内も積極的に明かしてきた。

「ウィキペディアと同じ発想です。知識と経験を一カ所に集めれば、僕もラクだし、後から来る人もラクだから、みんなラクになるんじゃないかって。時代の変化が激しいときは、隠し持っていた札がすぐに時代遅れになってしまう。それよりは札をばんばんテーブルにのせて、新しい札を手に入れる方が今は断然有利です」

ビジネスマンの異業種交流会さながらに、複数の出版社やアニメ会社がタッグを組み、広報活動や企画を盛り上げる「冲方サミット」も発足。

「一人フランチャイズみたいな(笑)。ネットワークを作ればいろんな情報が瞬時に集まるし、お客さんにとってもどこに行くと情報が手に入るかが明確になります。編集者同士が一堂に会することで、お互いの文化がシャッフルされて刺激になるし、僕も仕事が断然やりやすくなるんです」

ほぼ同時期、初めて一般文芸誌に書いた歴史小説『天地明察』で自ら作家宣言を行う。型破りな水戸黄門を描いた『光圀伝』で、歴史小説作家として確固たるポジションを築いた。

「昔は頭を切り替えるのが下手だったんです。当時は机が3つあって、アニメならアニメ用と作品ごとに机と本棚を変えていました。今は切り替えと情報の取捨選択ができるようになったので、大学ノート1冊に机1つ。見開きごとにノートを完結させて、だんだん熟練してきたかな」

奇しくも、『はなとゆめ』を執筆中に、アニメ映画『攻殻機動隊ARISE』の脚本も手掛けていたとか。メディアを横断するスタンスは今も健在。そして次回作にも意欲的だ。

「まだ先の話になりますが、次は勝海舟を書こうと思っています。『天地明察』で会津と江戸、『光圀伝』で江戸を書き、今回、京都を書きました。勝海舟を書くと西郷隆盛も書くことになるので、会津から薩摩まで、ざっと列島を俯瞰できるかなって。その次にやりたいのは日本列島、朝鮮半島、中国大陸の関係。将来的にはそれも含めて歴史小説っていう枠組みにしたいんです。朝鮮半島や中国大陸に住む人の常識をわきまえた複数の視点のなかで、歴史のダイナミズムを表現する。そうやって“日本史観”を広げたいんです」

実はその先の未来も見据えている。

「究極の目的は日本の歴史物が、翻訳されて普通に海外で売られること。こないだ日本語字幕の監修をした『47 RONIN』(忠臣蔵をモチーフにしたアメリカ映画)なんて、2m半くらいの鬼の仮面をかぶった男が出てきますから。そんな奴いねぇよみたいな(笑)。時代劇なのにやたら爆発するとか、関ヶ原でトロルが出てきたり。日本の歴史物がわけわかんないものになって逆輸入される方が絶対に面白いですよ! そのために、下地となる歴史小説をどんどん輸出していきたいんです」

冲方 丁という少し変わったペンネームは、暦のキーワードから構成したものだ。「丁」は火が爆ぜるの意味で、「冲」は氷が割れる音。「方」は職業である。つまりは“冷静さと熱意を職業”とする。…やっぱり、出木杉くんと呼ぶしかないのである。

プロフィール
「冲方 丁」うぶかた・とう

1977年、岐阜県生まれ。4~14歳までをシンガポール、ネパールで過ごす。日本に帰国後、96年に『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。以後、小説、マンガ、アニメ、ゲームと全方位型の執筆活動を開始。2003年『マルドゥック・スクランブル』が第24回日本SF大賞を受賞。10年には初の歴史小説『天地明察』が第7回本屋大賞などを受賞、直木賞にもノミネートされる。12年に『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。この秋、歴史小説第3弾となる『はなとゆめ』(角川書店)を上梓する。

(R25編集部)

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