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医者が患者から言われて困る言葉とは?

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 医療費の高騰や患者のたらい回し、医療訴訟、医師不足、地域医療の崩壊など、日本の医療の崩壊が叫ばれて久しい。
 生まれてから死ぬまで医療機関に関係しない人はいない。だからこそ、常に注目を浴び、そして批判も厳しくなる。その一方で、医師たちは患者の命を救うべく、過酷な勤務をこなしているという現実もある。

 『医者ムラの真実』(ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊)は、医療業界のリアルな状況を病理医の榎木英介氏が描き出した一冊である。
 医者の視点から見た“医療業界”は一体どのような姿をしているのか? 榎木氏へのインタビュー、今回は後編をお伝えする。
(新刊JP編集部)

 ◇   ◇   ◇

―榎木先生はかつて研究者を志していたけれど、才能がなくて断念し、医師の道を歩んできたと本書内で書かれています。研究者に求められる才能や素質とはどのようなものでしょうか。

「なんで私が研究者としてぱっとしなかったかというと、一つのことに執着できる根気というか、集中力が少し足りなかったからかなあと思ったりしています。あと、ちょっと思考がネガティブだった(苦笑)。
研究というのは、人が考えなかったことを思いついて、仮説をたて、それを何らかの方法で証明するということをするわけです。それは口で言うのはたやすいですが、ものすごく大変です。人が考えなかったことを思いつくことも大変ですが、思いついたとしても、それを証明する方法がなければダメなわけです。そして証明する方法がみつかったとしても、証明するまでには時間がかかりますし、証明できない場合もある。しかも、世界中の研究者がライバルです。競争に勝たなければならない。2位じゃだめなんです。
こうした状況を楽しめるような楽観的な人でないと、研究者として成功するのは難しいでしょうね。
あと、運もあります。というか、運の要素はものすごく大きい。たまたま人からやれと言われたテーマで研究したら大成功した、なんてことはゴロゴロあります。一人の成功者の周りには、失敗者の屍がやまのようにある。努力しないで成功する人はいませんが、努力したからと言って成功できるとは限りません。私も運は全然なかった(苦笑)。けれど、成果のでないまま40代で路頭に迷うということはありませんでした。こじらせないうちに方向転換をできたのは、今考えると良かったのかもしれません。」

―榎木先生がこれまで対峙してきた中で、「これは理不尽だな」と思った出来事はありますか? また、患者から言われて一番困ることはなんですか?

「私は病理医として、病理診断を行っているわけですが、患者さんと直接接することはほとんどありません。普段は他の科の医者相手に仕事をしています。だから、理不尽だな、と思う対象は他の科の医者だったりします。
理不尽だなと思うことは、他の科の医者が病理に対して無理難題を押し付けてくることですね。守秘義務があるので、具体的なことは言えませんが、診断すべき標本ができていないのに、今すぐ診断しろと言われたりとか、思っていた結果と違う診断結果が出たら怒鳴りこみにくるとか、他の科の医者に振り回されるときは、叫びたくなることがあります。誤診で迷惑を被ったからオレに謝罪しろと言われたこともあります。患者さんに謝罪するというのは分かりますが…。
他の科の人たちにも言い分はあると思います。それは分かるのですが、チーム医療の一員として、お互いを尊重し、よく対話すればいいのにと思います。そうしたことができていない医療現場、医者の態度は大きな問題があると思います。

患者さんから言われて困ることですか…拙い臨床経験でいうと、こんなのですかね。例えば救急外来などでは、重症な人ほど静かで、軽症な人ほど大きな声が出せます。重症の患者さんを優先させるのは当然ですけれど、そんなときに軽症の人が、「オレを先に診ろ!」と騒ぐ現場に遭遇したことがあります。そういうのはものすごく困ります…。
本書にも書きましたが、今の医療の現場では、「はやい」「うまい」「やすい」を両立することは難しくなってきています。すぐ診察してくれて、しかも一流の技術で、かつ安価で、ということですが、医者不足は深刻で、少ない医者でたくさんの患者さんをみるから、「はやい」を実現することが難しくなっています。「オレを診ろ!」と言われても無理です。そうした状態では医者のスキルアップも難しい。医者を増やすとなると、教育にお金がかかるわけで、「やすい」は実現できない。ジレンマです。
こうしたジレンマがあることを、読者の皆さんにも知ってもらい、そしてどうすればよいか考えてほしいと思います。」

―週刊誌や書籍などで「医療業界は腐敗している」と指摘されることもあると思います。そういった報道について、どのようにお考えですか?

「前にも言いましたが、確かに医療業界に問題は多いです。週刊誌や本が指摘することはあたっている部分も多いです。そうした問題点を明らかにして報道することは、メディアの重要な役割だと思います。
けれど、医者を全員取り替えることはできません。医療は一分、一秒たりとも止めることができないわけです。問題がある状態のままでやっていかないといけない部分があるわけです。
だから、報道に望むことは、糾弾というか、一方的に叩くだけでなく、じゃあどうするんだ、ということを含めて伝えてほしいということです。そうした良質の報道はたくさんあります。問題意識を持ったメディア関係の方々とは、是非いい意味での緊張関係を保っていけたらなと思います。」

―榎木先生が持っていらっしゃる理想的な医師像について教えて下さい。

「意外に思われる方が多いかもしれませんが、理想の医師は「普通の人」です。
え?どうして?と言われそうですけれど、普通というのはものすごく重要だと思っています。
今の医者は、ものすごく特殊な人たちです。医者一家か偏差値エリート、あるいは両方出身の人たちが多いわけです。もちろん、そういう人たちによいお医者さんはたくさんいるわけですが、医療が社会的な部分を切り捨てて、患者さんをある意味置いてきぼりにして技術優先になってしまったのは、そうした特殊な人たちが多いことと無関係ではないように思います。
患者さんがどんなところに住んでいて、どんな家族構成で、どんな経済状況なのか、そういうことも含めて考えていかないと、患者さんの立場にたった医療はできないと思います。残念ながら、今の医者は多様性がなくて、経済的に裕福な家庭出身の人が多いので、そういうことになかなか思い至れません。
そういう意味で、普通の家庭出身の医者ももっと増えてほしいのです。

もう一つの普通は、普通の人が働ける環境を作るために、問題を問題だとちゃんと言える人です。
医者は基本的に真面目で、コツコツとなんでもやってしまいます。受験勉強でそうした能力が鍛えられるためでしょう。だから、医療現場に問題があっても、なんとかこなしてしまう。寝ないで働いたりできてしまうのです。ある種超人です。
けれど、いくら個人の能力が高くても、過酷な勤務を長く続けることはできません。ある日燃え尽きてしまう。今医療現場で、突然燃え尽き、現場から立ち去る人が増えていると言われています。また、女性医師やイクメン医師は長時間労働ができず、現場からはじき出されます。
だから、そんな超人的な能力を医者に求めてはいけないのです。普通の体力でも働ける職場を作っていくべきだったのに、超人に頼ると、突然崩壊してしまうのです。
普通の人が働ける環境を作るために、医療現場から声をもっとあげていかなければなりません。声をあげられる普通の医師が増えてほしいと思います。」

―本書をどのような方に読んで欲しいとお考えですか?

「医療に関わるすべての人に読んでいただけたらと思います。世の中に医療機関にかからずに過ごせる人はごく小数なので、要はあらゆる人に読んでほしいです。
とはいうものの、結構分厚い本になってしまいました。歯ごたえは多少あるかも。政治や経済、社会問題に関心のある人には特におすすめします。
あと、医者にも読んでほしいですね。病理や研究のことなど、他の科の医者も知らないことですし。また、医者が当たり前と思っていることは結構社会からみるとおかしいことだよ、ということも知ってほしいですね。」

―このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします。

「本書は、ちょっと変わった経歴を持つ私の視点から、普段はなかなか取り上げられない問題を中心に、医療の問題をとりあげました。
すでに述べましたけれど、本書は暴露本ではありません。医療問題を取り上げるだけでなく、どうやったら解決するかということも述べさせていただきました。
結局、立場の異なる人が対話をして、解決策を考えていくしかないというのが結論です。医療に関わる人、それは、今は健康な方も含まれますが、あらゆる人が自分の立場を表明し、それをオープンな場で議論し、妥協ではなく、それぞれの立場の人たちが満足いく案を考えていくことしかないと思っています。「医療否定本」は劇薬でしかありません。

本来は否定的な意味で使われるポジショントークという言葉を使いましたが、あらゆる立場の人が、オープンな場でフラットな関係でポジショントークをすることが重要です。ポジショントークが問題になるのは、そのポジションを変えずに一つの考えに固執することです。相手のポジショントークを聞き、自分のポジションを柔軟に変えながら、解決策を作り出していく。この解決策を、スティーブン・R.コヴィーの言葉を使って「第三の案」と述べました。

医療の問題は、既得権益もからんで、立場の異なる人達が厳しく対立している問題も多いです。そんな状況を変えたいと思って本書を書きました。
是非皆さんも、本書を手に取り、医療の問題について考えてみてください。そして考えをTwitterやFacebook、LINEでもいいですが、SNSなどで発信してみてください。
本書が皆さんにとって、医療の問題を考えるきっかけになると同時に、医療の問題がよりよい方向に解決されていくことを心より願っています。」

(了)



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