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貧困、挫折、逮捕……それでも自分の芯を貫くには

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 個性的な人物が多い写真家の中でも、ひときわ異彩を放つ存在がレスリー・キーだ。彼がクリエイティブ・ディレクターを務める「SUPER」シリーズは、ひとつのテーマに焦点を絞って徹底的に撮り下ろすスタイルの写真誌で、レディー・ガガをはじめ、アフリカの人と動物、子持ちのママなどを被写体に、斬新なカットを次々に発表している。
 ところが、2013年2月、彼は猥褻図画頒布罪で逮捕されてしまう。男性の無修正ヌード写真集を販売したことが罪とされたのだ。それに最も驚いたのは、誰よりも本人だった。

 朝日出版社が発行する〈アイデアインク〉シリーズの新刊『SUPERな写真家』は、レスリー本人が自身の半生を初めて告白した一冊だ。
 その冒頭は、逮捕劇の様子と、「アート」と「わいせつ」の境界はどこにあるのかという問いかけからスタートする。そして、「大好きな日本の、若い世代のために、アートの権利と自由を少しでも広げていきたい」(p47-48より)と述べるのだ。

 本書からはレスリーのアートにかける想いを強く感じることができるのだが、彼は決して順風満帆な人生を送ってきたわけではない。
 レスリーは1971年、シンガポールで生まれた。彼が生まれ育ったのは中心街から少し離れた「地元のギャングスターたちがたむろするエリア」だったという。生まれた時にはすでに父親はおらず、母親は水商売をしていたのでいつもおばあちゃんの側にいたという。
 そんな彼がカメラを手にとったのは13歳の誕生日のとき。「誕生日のプレゼント、何がほしい?」と母親に聞かれ、カメラと答えたのだ。7歳下の異父妹を、幼少期の写真がなく悲しい想いをした自分のようにさせたくないという想いからだった。

 しかし、その4ヶ月後、母親は急死。一時、孤児院に預けられるものの、叔母の養子として引き取られることになる。13歳のレスリーは、叔母が働いていた日系の工場で、学校に通いながら働くことになる。
 そんなレスリーにとって、カメラは友人とのコミュニケーションを取るうえでとても大切なものだったという。同級生を被写体にして写真を撮る時、まるでカメラが通訳をしていてくれているかのようだったと回想する。
 この時期、レスリーは人生の航路に影響する重要な人物と出会う。ユーミンこと松任谷由実さんだ。工場では当時の日本のポップスがかかっており、ユーミンの歌は過酷な生活を送るレスリーをを魅了し支えた。人生を変えたアルバムは『ダイアモンドダストが消えぬまに』だそうだ。

 こうして日本が「夢の国」になった少年は、工場で働いたお金を貯めて、22歳のときに本格的に来日。家族もお金も学歴もコネも、何も持たずに(初来日は20歳の頃、徴兵が決まって命を落としてしまうかもしれないという心配から5日間だけ日本を訪れ、ユーミンのライブを初めて観たそうだ)。
 来日当初は写真家になろうとは思っていなかったそうで、本格的に写真家を志したのは24歳のとき。頼み込んで東京ビジュアルアーツに入学し技術を学ぶのだが、コンテストや新人賞はことごとく落選。故郷から遠く離れた異国の地でスタートも遅く、誰からも評価されない時間が長く続き、苦しい時間が流れる。そんなレスリーを支えたものやはり、ユーミンをはじめとする日本の音楽だった。

 「捨てる神あれば拾う神あり」とはよく言うものだが、人生も同じことが言えるはずだ。長く続く苦しい状況も、ちょっとしたきっかけで大きく道が開ける。レスリーにとって、それは伝説的モデル、山口小夜子さんとの出会いだった。たまたま山口さんが彼の写真を見て気に入り、事務所の社長を通じて山口さんの写真を撮るよう連絡が来たのだ。
 そこから一気にに話は進む。レスリーの写真を気に入った山口さんは、雑誌の専属カメラマンとして彼を指名したのだ。

 写真家レスリー・キーがその後、どのようにアートに目覚め、自分表現を追求していったのかは本書を読んでほしいのだが、何気ない一つのきっかけで人間は大きく開花することができるものだ。
 くすぶっている間は、その毎日がずっと続くかもしれないという不安に駆られがちだ。その環境から逃げたくもなるし、諦めの気持ちも生まれるだろう。しかし、レスリーは情熱とポジティブさ、そして使命感で、前を向いて走り続けてきた。壁はたくさんある。アートを追求するあまり、逮捕もされてしまった。しかし、そこで彼は自分の夢を再確認し、さらに大きく飛び出そうとしているのだ。

 レスリーは「ネバー・ストップ・ドリーミング」という言葉を読者に伝えようとしている。つまらない、面白みがないと思う毎日を送っている人は、もう一度、昔見ていた夢を思い出してみてほしい。夢を見続ける人だけが、夢をかなえられるのだから。
(新刊JP編集部)



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