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アマゾンCEOのワシントン・ポスト買収の狙いと今後の展開は

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 名門新聞社の身売りは全世界に大きな衝撃をもたらした。8月5日、ネット通販の王者アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏(49)が、2億5000万ドル(約245億円)でワシントン・ポスト紙の買収を発表した。その2日前には、ボストン・グローブが7000万ドルで身売りすると発表したばかりだっただけに新聞崩壊を印象づけた。

 お金を出して買わなくても、ネットを通じて情報が手に入る。そんな読者の意識変革が旧来のメディアの凋落を招いている現状は、日本と変わらない。「アメリカのメディアで起きたことは3年後、日本でも起こる」(ジャーナリスト・佐々木俊尚氏)とも囁かれるなか、その余波は日本に訪れるのか。

 もはやじり貧だった。アメリカの日刊紙発行部数は、1980年代まで6200万部を保っていたが、ネット登場後に激減し2011年には4442万部へ激減。ワシントン・ポストも最盛期の半分の45万部に落ち込んでいた。

 皮肉にもそこに手をさしのべたのが、ネット企業の王者、アマゾンCEOのベゾス氏だっただけに買収劇は憶測を呼んだ。

 厳密にいえば、今回の買収劇は、ベゾス氏個人による買収だ。ちなみにベゾス氏の資産は250億ドルあり、買収金額はその1%。『米ハフィントン・ポストの衝撃』の著者でジャーナリストの牧野洋氏は、「慈善事業のつもりなのではないか」と語る。

 一方、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、同紙の記者はワシントンの政府関係者に深く食い込んでいるため、「権力へのパイプとして利用しようとしている可能性はある」と予想する。

 だが、ベゾス氏は天才経営者としてアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏と並び称される人物だ。ビジネス展開を考えないはずがない、というのが大方の見解である。もとよりベゾス氏の活字メディアへの関心は高い。『5年後、メディアは稼げるか』の著書を持つ東洋経済オンライン編集長の佐々木紀彦氏はいう。

「妻は小説家であり、ベゾスも大の読書好き。しかも夫婦が卒業したのは教養主義の色濃い東部の名門プリンストン大学です。理系色の濃いシリコンバレーの連中とは違う」

 稀代の経営者によるメディア大再編──ネット業界の買収劇は数あれど名門新聞社と巨大ネット企業のコンビは例がない。一体、どんなことが起こりうるのか。

「アマゾンにとって、世界中の人々の購買データが最大の財産。新聞社を持てればアマゾンの持つ顧客データがさらに拡充される。読者がどんな記事を選び何に興味があるのかを把握すればeコマース(電子商取引)はさらに進化する」(同)

 膨大な顧客データは各社垂涎の的だ。新聞のニュースサイトに、その読者が最も関心の高いバナー広告を出すなどのターゲットマーケティングが可能になる。

 活字メディアにとってはキンドル・ショック以来の衝撃になるかもしれない。アマゾンが発売したこのタブレットは書店に行かずして、書籍を購読することを可能にした。在米ジャーナリストの北丸雄二氏の話。

「アマゾンはキンドルに配信するコンテンツの一つ、キンドル・シングルズ(短編電子書籍)に力を入れている。これは新聞や雑誌の記事としては長く、かといって単行本としては短い、1万語~5万語未満の作品を、5ドル未満で販売するというもの。ベゾスはワシントン・ポストの記者にもシングルズで作品を発表させて、この流れを加速させたいのではないか」

 米国の印税は25%未満だがシングルズは70%。著者にとっても魅力的だ。電子書籍で新聞やキンドル・シングルズを読む習慣が広まれば、電子端末キンドルの普及にも貢献するという一石二鳥の商いである。

「すでにアマゾンの出版部門アマゾンパブリッシングには30人弱の編集者がいて、自前でコンテンツを配信できる態勢を整えている。小売業同様、メディアの“中抜き”を狙っているのかもしれない」(佐々木紀彦氏)

 ベゾス氏はわずか20年たらずでアマゾンを年間売上高5兆7000億円の巨大企業に成長させた。その過程で、アメリカの生活習慣を大きく変えてきた。いわゆる小売業の“中抜き”が起こり、小売店やスーパーが消えていくという痛みを伴った。アマゾンによる小売業の“中抜き”は、日本にも浸透している。

※週刊ポスト2013年8月30日号



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