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僕らを蝕む「ゼロリスク幻想」とは

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6月に政府が閣議決定した「医薬品のネット販売解禁」を巡り、賛否両論が渦巻いている。これは一部の例外を除き、一般用医薬品(大衆薬)のネット販売を全面解禁するもの。だが、薬剤師会を中心に、健康被害を懸念する声があがっている。

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反対派の主張をざっくり言うと、「ネット販売では患者の様子を対面でチェックできず、健康被害のリスクがあるので、やめたほうがいい」というもの。

一方、賛成派は「対面販売だから安全、ネット販売だから危険、という単純な話ではない。ネット販売でも安全性が保てるよう、販売方法を工夫すれば良い」と主張する。

それぞれ一理あるだけに、賛否の判断は難しい。ただ、この問題の背景には、昨今の日本を覆う“ある空気”が横たわっていると指摘する声がある。それが「ゼロリスク幻想」といわれるものだ。

「ゼロリスク幻想」とは、端的に言えば「リスクがない状態なんて現実的にはあり得ないのに、そういう状態があり得るかのように錯覚している状態」を指す。物事を「安全」か「危険」かの二項対立で捉え、「100%安全」でなければ「危険」と捉えてしまうのだ。

リスクとは本来「程度」問題であり、定量的にその大小を評価して、対策を講じるべきものだ。「100%安全」なんて、ありもしない幻想を求めるからこそ、その矛盾が新たな問題を生み出してしまう。たとえば対策に莫大なお金が掛かったり、利便性が失われたり…といった問題だ。

サイエンスライターの佐藤健太郎氏は、著書『「ゼロリスク社会」の罠』のなかで、「目先のリスクに惑わされて、ゼロリスクの幻を追うのではなく、ある程度のリスクを受け入れること。本能的判断も重要ではあるけれど、リスクを定量的に捉えて広い視野で判断してゆくことも同じように重要」と説く。

こうした「ゼロリスク幻想」の象徴ともいうべき問題が、奇しくも6月末で終わりを告げることになった。「国産牛の牛海綿状脳症(BSE)全頭検査」である。全頭検査をしてもBSE牛を100%チェックできるわけではなく、国際的にも「非科学的」と批判されてきた。

だが、政府・自治体は「狂牛病パニック」を封じ込めるべく、「全頭検査をしているから安心」という“見せかけの安心感”を12年間も国民に演出し続けてきた。そんなことをしたって、リスクがゼロにならないのはわかっていながら、ヒステリックな世論をなだめるには、こうするしかなかったのだ。

「そんな非科学的なことはやめよう」――当時、そういう声があっても良かったはずだ。いや、一部にはそういう声もあったが、「リスクを無くすためには、やれることはすべてやるべき。いくらお金と手間がかかっても、健康のほうが大切!」という世論の大合唱にかき消されてしまった。まさに「ゼロリスク幻想」というべき状況だった。

こうした「ゼロリスク幻想」をめぐるテーマのひとつには、昨今の「原発」問題もある。「原発=悪」という単純な構図で捉え、「100%安全を確保できない以上、やめるべき」「事故が起きたら手に負えないから、やめるべき」「事故が起きたとき、どのような健康被害が起きるかわからないから、やめるべき」…と、問答無用で全否定してしまう。

だが、こうした主張はかえって「原発」のリスクを見えにくくするだけではないだろうか?

むしろ「原発のリスクとは“どの程度”なのか?」「事故が起きる確率は“どの程度”なのか?」「事故が起きたときの健康被害は“どの程度”なのか?」という定量的なファクトを前提に議論しなければ、冷静な判断は下しにくい。

筆者は「原発推進派」ではないが、原発への賛否を問われても、こうしたファクトが示されない限り、判断しようがない。自身の問題として考えるためには、きたるべき参院選でもこうしたファクトを示し、「争点」として僕らに賛否を問うてもらいたいと思う。

BSEにせよ薬のネット販売にせよ、どんな物事にも一定のリスクが内在することを受け入れる。その上で、リスクとリターンを冷静に評価する。難しいことだけど、それが大人の振る舞いだと思うのだが…。
(篠塚裕也)
(R25編集部)

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※コラムの内容は、フリーマガジンR25およびweb R25から一部抜粋したものです
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