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「リンゴが苦労を共にしてくれたから、今の自分がある」―“奇跡のリンゴ”を栽培した木村秋則さんの想い(後)

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 皆さんは「奇跡のリンゴ」を知っていますか?無農薬、無肥料という、いわゆる自然栽培によって作られたリンゴなのですが、これはとある日本の農家が世界で初めて成功させるまでは、リンゴの自然栽培は不可能とされてきました。
 そんな世界初の偉業を成し遂げたのが木村秋則さんです。しかし、この偉業にたどり着くまでには、様々な苦難がありました。リンゴと向き合うあまり、家族がいるのにも関わらず無収入が続いたり、失敗が続き、自殺を考えて山に入っていったりしたこともありました。

 自然と向き合ってきた木村さんは、新刊『リンゴの心』(佼成出版社/刊)で天台宗の大僧正である荒了寛氏と、自然と人間の共生をテーマに、対談を行っています。その中で木村さんはどんなことを感じたのでしょうか? インタビュー後編では、教育の話に切り込んでいます。
(新刊JP編集部)

  ◇    ◇    ◇

―木村さんがリンゴ栽培を続けてきて一番良かったと思うときはどんなときですか?

「もちろん、無農薬栽培に挑戦し始めてから、初めてリンゴの実が実った時は、それはもううれしかったですよ。あの時の家族の笑った顔は、一生私の脳裏に焼きついて離れないでしょうね。
そして、今、リンゴの畑に立つとしみじみと思うんです。この畑から出発して、私はずいぶん遠くまで出かけてきたなぁって。そして、何て多くの人と出会わせてもらったんだろうかと思います。無農薬栽培に取り組まなければ会えなかっただろう全国の自然栽培を志す仲間や、言葉の通じない海外の人たちにまで会えました。その間、私はずっとリンゴたちと二人三脚で歩んできました。いや、リンゴたちに引っ張ってもらって、いろんな出会いをいただいてきたと言っていい。今は、そうした新たな出会いをいただいたことが、何よりの喜びです」

―本書では自然との接し方を通して、「教育」の分野にまで切り込んでいますが、教育という観点から今、課題だと思っているところ、疑問に思っていることはありますか?

「大切なのは、食事の際の『いただきます』や『ごちそうさまでした』という言葉の受けとめ方を、私たち大人が子どもにきちんと伝えていくことじゃないかと思っています。
私はよく、小学校や中学校にも呼ばれて話をする機会があるのですが、とある小学校で話をした後、子どもたちと一緒に給食をいただく機会がありました。ところが、みんなで『ごちそうさま』と言う段になって、見学していた保護者の一人が『給食費を払っているのに、なぜそういう挨拶をしなくちゃならないのか』と先生に質問したんです。話では聞いていたけれど、本当にそんな人がいるんだと、心底驚きました。

今回、和尚さんにお話をうかがって、こうした問題についても改めて考えさせられました。仏教では、物事は何一つとして独立して存在しないと説くそうですね。自分の口に食べ物が入るということは、野菜や豚や牛を育ててくれた人や自然をはじめ、調理してくれた人のはたらきがある、ということです。給食費を払うにしても、それだけの収入のある仕事が必要です。私は無収入の時代が長くあったのでそのことをより痛感するわけですが、仕事に普通に就ける状況や、給食供給のシステムも、安定した社会情勢のうえに成り立っています。すべて、多くの人の働きや時代の流れなど、自力だけでないさまざまな作用のもとに、今、目の前に馳走された(ふるまわれた)この一口、一食だととらえる。何事も当たり前にあるものなんてない、すべては届けられたものと思うと、深い感謝がわいてくるじゃないですか。だからこその『いただきます――頂きます』であり、『ごちそうさま――ご馳走様』なんです。こうしたことを大人がきちんととらえていなければ、どうして子どもたちに生きる姿勢を伝えられるでしょうか。
今は、大人が子どもに『世のため、人のためになる人間になれ』と教えることが少なくなりました。昔の人には、自分の力だけでできることなどたかが知れている、人はいついかなる時にも他の人びとや社会、自然に生かされて生きているという“わきまえ”があったんですね。だから、自分にできることはさせていただこう、という志をもって生きられたんです。それが、今は変な個人主義が横行していて『お金さえ払えば、権利が得られて当然』と、感謝を忘れている。そのへんを、大人たちはもう一度、心して学びなおさなければならないことだと思います」

■「リンゴが苦労を共にしてくれたから、今の自分がある」

―木村さんにとってのリンゴ栽培の“ゴール”とはどのようなものですか?

「今、私は各地の農家の方たちと、自然栽培農法に関する知識を分け合いながら、日本の「農」のあり方や認識を変えていこうという運動を広げています。自然と共存する生き方を、『農』や『食』の場面から発信して、もっとみんなの常識になるくらいまで到達できれば、と思っています。
 それはすべて、リンゴが私に教えてくれたことです。私は、リンゴたちから人生の苦労をいただいて、それによって生きる姿勢を教えてもらったんです。無農薬栽培を確率しようと試行錯誤していた時期、私は畑のリンゴの木たちにほんとうにつらい思いをさせました。枯れてしまった木もあります。彼らとそうした苦労を共にして学ばせてもらったこと――『リンゴの心』を伝えていくことが、今の私の使命であり、目標ですね」

― 本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?

「今回は、対談という形でこの本をまとめていただいています。ですから、私のリンゴ栽培の話だけでなく、仕事をするうえでの心のもち方や、人を育てるときに大切なことなど、人の生き方をテーマとした話に自然と広がっていきました。これも相手のいる対談だからこそですね。ですから、学校の先生方や子どもを持つ親御さん、お仕事をされている方や若い方にも、手に取ってもらえるといいんじゃないかと思います」

― このインタビューの読者の皆さまへメッセージをお願いします。

「タイトルに冠した『リンゴの心』とは、『すべてのものがつながって、互いに生かし生かされて生きる』というメッセージです。私はこのことをリンゴに教えてもらって、目の前に見えてくる世界が一変しました。自分を取り巻く世界が、こんなにも分かちがたい絆で結ばれていて、その中に自分もまた抱かれている。そう気づくと、世界が私に微笑みかけてくれているような心持ちで生きていかれるし、自分もまた世界に応えるように生きていこうという力が湧いてきます。そうしたリンゴからのメッセージを、ぜひ皆さんには受け取っていただき、真の意味の豊かな人生を実現してほしいと思います」

(了)



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