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『お寺でフェスタ!』に行ってきた! 

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■ 尾道のお寺でアートイベント

 広島県の南東部、山陽地方のほぼ中南部に位置する場所に、今回の目的の地 “尾道” がある。尾道と言えば、古くから海運による物流の集散地として繁栄した街であり、小京都とも言える古い町並みを今に残す歴史のある街である。

 また、『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の大林宣彦監督「尾道三部作」の舞台であったことや、林芙美子、志賀直哉といった文学者が住んでいたことで映画や文学の街として知られているが、最近では地域をあげて空き家の再生プロジェクトに力を入れており、特に芸術家の受け入れを熱心に行っているアートの街でもある。

 そんな尾道を含めた周辺地域に根付いて活動する浄土真宗本願寺派の若手の僧侶達が、何やら面白そうなイベントを開催するというので、彼岸寺で【禅僧の台所】を連載している同じ広島県民の吉村昇洋が取材をしてきたのでリポートをしたいと思う。ただ、3日間ある会期の中で最終日のみの参加だったので、情報が偏ることをお許し頂きたい。


 彼らは『備龍会(びりゅうかい)』と呼ばれる組織を運営しており、備後教区内にある浄土真宗本願寺派に所属する20〜50歳の若手僧侶で構成されている。今回のイベントは、この備龍会の結成40周年記念事業として開かれるということで、相当力が入っているのが分かった。というのも、これまでは宗派関係者に向けた仏教講座など内向きのイベントを主にやってきていたところを、今回初めて外に向けた催しを試みるというのである。

 こういった方向転換は、伝統のある組織であればあるほど “冒険” であり、組織の内外で賛否両論あったことは容易に想像がつく。しかも、スタッフは僧侶であって、言わば素人の集団である。しかし、それを乗り越えた上での開催であることは、本イベントの 「お寺×アート×尾道」 という明確なコンセプトを見事に表現した、プロの仕事を感じさせるセンスの良いポスターからも伺い知ることが出来た。モデルの女の子の目に、本当の意味で “アイキャッチ” されるだけの突き抜けた表現力が、期待感を十二分に煽ってくれるのだ。

 ところで、初めて外向きのイベントを開催するというのに、いきなり5月24〜26日の3日間の会期を設定したというのには正直驚いた。慣れないイベントの運営であれば、1日で完結させるところから始めるのが普通である。そこを敢えて3日開催にしたのは、「テーマであるアートに触れてもらうには、3日は必要だ!!」との判断があったらしい。つまり、主題ありきで運営は二の次という、一歩間違えば大ヤケドをしそうな状況だが、スタッフの中でその道に長けた者を適材適所に配置することで、回すことは可能との判断があったとのことだった。

■ お寺ART PROJECT

 では、浄泉寺という伝統ある浄土真宗寺院で開催された3日間で、どういった “アート” と出会うことが出来たのか? 大きく分けて、「絵画」「インスタレーション(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)」「VJ(映像効果・演出)」「音楽」の4ジャンルに加え、来場者全員に配られた津久井智子と麻田弘潤の消しゴムはんこユニット「諸行無常ズ」のアートグッズもあり、『お寺ART PROJECT』の看板に偽りなく、実に様々なアーティスト達が関わっていた。美術好きが高じて、博物館学学芸員資格を取得するに到った私は、当イベントの目玉であるハナレグミのLIVEだけではなく、お寺の中でどのようにアートを “みせる(見せる・魅せる)” のか期待するところであり、アーティスト達がどんな風にお寺で遊ぶのか非常に興味があった。

 実際に回った中で私が最も面白いと感じたのは、茶室を会場としたGemiの作品群で、作者本人が旅先で出会った風景に現代のアニメ風の萌絵を融合させた絵画を、掛け軸に表装して展示がされていた。これがまた、妙に和の雰囲気に合うのである。


 いつもの茶室が、Gemi作品によって、日常のちょっとした違和感というか、微妙に異質空間と化した空間全体がアート作品になっているような印象。いかにも “インスタレーション作品です” と全面に押し出されないインスタレーション作品といった感じだろうか。それだけ、絶妙な調和が保たれていたのだと思う。おそらくそれは、軸装による和と調和しやすい効果からだけではなく、作品の雰囲気自体が、尾道の風景を切り取ったものかのような、どこか懐かしさを感じさせるものだったからかも知れない。

 日本人の持つ原風景、それが尾道というストーリーや伝統のある寺院建築と相まって、作品を見る目に投影される。思わず、「この絵は尾道の風景ですか?」と作者本人に聞いてみたが、尾道には今回初めて来訪したとのことで、これから描いてみたいと言われていたので、首を長くして待ちたいと思う。


 余談ではあるが、実は広島県を舞台とした漫画・アニメでは、こういった原風景を思わせる実在の土地の描写が念入りにされているものが結構ある。広島県三次市を舞台にした宇河弘樹の漫画『朝霧の巫女』、広島県尾道市を舞台のモデルにしたアニメ『かみちゅ!』、広島県竹原市を舞台にしたアニメ『たまゆら』シリーズがあり、これらの漫画・アニメ版のロケ地巡りを指すいわゆる “聖地巡礼” に多くのコアな読者・視聴者をかき立てている。こうした、歴史的な建造物の残る片田舎のリアルに空想の産物を乗せることで、キャラクター達の心情や葛藤を表現しやすくなり、そこにグッときた人々が、「あっ、ここがモデルかぁ!!」 と物語をリアルに追体験するのも理解できない話ではない。

■ 音聲空間(おんじょうくうかん)

 ところで、絵画やインスタレーションのように、視覚刺激に訴えるだけがアートではない。主に聴覚刺激に訴えるアートとして、会期の2日目には「おなじ話(2005)」「アセロラ体操のうた(2010)」でおなじみのハンバートハンバート、3日目には現在角ハイボールのCMで流れている「ウイスキーが、お好きでしょ」や名曲「家族の風景」のハナレグミとタブラ奏者U-zhaanのコラボによる音楽LIVEが繰り広げられた。

 私は、3日目だけの参加だったので、ハンバートハンバートのLIVEは見ていないが、このラインナップを見たとき、「お寺に合いそうな人達を、よくぞセレクトしてくれた!!」と内心ほくそ笑んだ。しかし、この場合の “合う” はあくまでも声質であり、他にもきっと星野源あたりも合うだろうなぁと個人的には思うが、LIVEパフォーマンスという意味で “合う” かどうかは未知数であった。


 3日目の音聲空間。13:00、それは大きな本堂の中で始まった。VJでライティング演出された内陣の中で響き渡る備龍会のメンバーによる声明、雅楽、法話。地域のお寺を人々にとってただの風景ではなく、開かれたお寺にしていきたいというメッセージが胸に迫ってくる。2日目にはどうやらVJに彩られた舞楽もあったようで、写真をお借りすることができたので、ここに掲載しておく。そして、私を含む多くの日本の僧侶は、こうした他宗の儀式に触れる機会は案外少なく、非日常体験ゆえになかなか面白く感じられるものなのだ。

 次に、休憩をはさんで14:00。ハナレグミとU-zhaanが登場。今イベント一番の目玉であり、このLIVEのために遠くは秋田県から足を運んだファンもいたとのことだが、ひとたびその歌声を聞けばその労力も十分納得できる。透明感に加え唯一無二の圧倒的な歌唱力をみせるハナレグミの声に、絶妙にマッチするU-zhaanのタブラ。予想していたとおり、やっぱりお寺の空気に合う!! 普通のライブハウスやコンサート会場ではなく、お寺の本堂で聴けるということが、ちょっとした幸福感というか優越感というか、何か贅沢な思いをしているように感じられた。

 そして、LIVEの数日前に発売となったカバーアルバム『だれそかれそ』からも西岡恭三「プカプカ」、SUPER BUTTER DOG時代からの名曲「サヨナラCOLOR」など、気持ちの良い音楽が身体を包み、二人の絶妙なMCで観客を飽きさせないパフォーマンスには、さすがプロフェッショナルだなぁと圧倒される。

 中でも「カな」という曲には驚いた。ど下ネタの要素を今回のLIVEに合わせて急遽加えたという楽曲を、本堂の本尊の前でプレイする勇気。タブーを恐れないそのエネルギーこそが、開かれたお寺を象徴しているかのようだった。お寺は伝統の名のもとに守るものが増え、歴史的にあらゆるものが権威化しタブー視されてきたが、本来人間のとらわれから解放を促すのが仏教の役割だとするならば、一見場にそぐわない「カな」がプレイされたこと自体が実は仏教的ですらある。まさに、臨済義玄禅師の自分から勝手にとらわれてしまっている固定概念からの解放を意味する「仏に逢うては仏を殺せ・・・・・・云々」の語を思い出さずにはいられない。彼らのキャスティングに成功したスタッフの僧侶に目一杯の拍手を送りたい。

■ お寺で行われる音楽系イベントの賛否

 こういった開かれたお寺を表現する時に、寺院境内での音楽イベントの開催が増えてきた。十数年前であればバイオリンやピアノといった比較的落ち着いたコンサートが多かったが、最近では『お寺でフェスタ!』のように規模の大小を問わず、有名アーティストを呼ぶことも珍しくはなくなった。その一方で、このような動きに対して、仏教者の中には批判的な意見を持つものもいる。彼らの言い分は大抵「お寺を会場にしたコンサートであって、どこに仏教があるのか? ただの客寄せじゃないか」というものだ。

 確かに、お寺でこうしたイベントを開催したところで、来場者が即座に仏教徒になるわけではないし、仏教的な要素を組み込んだところで、一歩外に出れば忘れてしまうかも知れない。しかしそれは、既存の仏教行事でも同じことで、法要のあとに僧侶のありがたい法話を聞いて涙を流しても、家に戻ったときには何の話だったか覚えていないという笑えない話もよく聞く。一生懸命に仏教行事を執り行えば、人々の心に伝わると思うのは勝手だが、もしかするとそれは僧侶のただの独りよがりであるかも知れないのだ。

 今回の『お寺でフェスタ!』のようなイベントに限らず、従来の仏教行事でも大切なのは、お寺でどんな体験をしてもらうかという視点だろう。仏教に触れてもらい、仏の教えに根付いた生活を送ってもらうことが、多くの僧侶の思いであることに疑う余地はないが、その前に仏教そのもの、もしくは仏教周辺文化が持つ魅力に触れてもらう機会を増やし、参加者にポジティブな体験として享受してもらうことにポイントがあるように思う。そういう意味では、普段仏教に触れる機会の少ない不特定多数の人々に足を運んでもらい、お寺という空間の中で楽しんでもらえた時点で、9割方の目標は達成できているのである。

 しかし、こうしたイベントを開催するには、どうしてもマンパワーの問題が出てくる。『お寺でフェスタ!』では、当日50人を超えるスタッフが関わっており、聞けばお寺の僧侶や寺族で構成されているのだという。こうしたイベントの運営など初めての人ばかりのはずなのに、あたふたする場面があまりないなと端から見ていて驚いた。例えば、コンサート会場となる本堂への入場一つとっても、導き方が上手で非常にスムーズなのだ。ともすると手間取りやすい部分ではあるが、担当スタッフの中にこうしたイベントに慣れている僧侶を配置して、しっかりとノウハウを共有した結果である。

■ さいごに

 そう考えると、現代仏教は “プラスα” を持つ僧侶の時代なのかも知れない。もちろん、基本となる仏事をきっちり押さえた上でのプラスαである。といっても、何も全く異なった分野の強みを持つことだけが魅力なのではない。ストイックにとことん伝統的な仏道修行に打ち込む僧侶もまた、多くの僧侶が実際には真似できないという意味でプラスαのある僧侶なのだ。

 しかも、インターネット時代に入り、そうした異能で面白い僧侶達に出会える機会は増えてきている。今回の『お寺でフェスタ!』の他にも、『誰そ彼』『向源』『メリシャカライブ』『本願寺LIVE 他力本願でいこう!』『極楽パンチ』『お寺座LIVE』などのようにお寺の敷居を低くし、開かれたお寺を標榜するイベントは全国的に増えており、今後も緩やかに増加傾向を示すだろう。(しかし、有名どころの多くが、浄土真宗関係によるものというのは特筆すべき点だが・・・)

 そこで、これを読んでいる皆さんには、是非ともこうした機会にお寺に足を運び、生の僧侶とバシバシ関わりを持ってもらいたいと思う。そして、時に厳しい質問や想いの丈をぶつけてもらいたいのだ。もちろん、ライトな疑問でも何でも構わない。真剣に僧侶をしている者は、打てば必ず響く存在であるし、皆さんからの刺激を受けて僧侶も勉強を促され、成長につながる互恵的な関係にある。その足がかりとする視点で改めて捉え直してみると、こうしたイベントのポテンシャルは計り知れないのである。

 

◆お寺でフェスタ! 〜 お寺×アート×尾道 〜
◆日 時:2013年5月24日(金)〜 26日(日)
◆会 場:浄泉寺 (尾道市西久保町2-2)

 <取材協力> Gemi・佐藤知水・備龍会
 <写真提供> 石川幸典・杉原秀晃・吉村昇洋

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