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古川日出男、大長編『南無ロックンロール二十一部経』を語る(1)

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 今年デビュー15周年を迎えた、作家・古川日出男の新刊『南無ロックンロール二十一部経』(河出書房新社/刊)が、本日5月15日に発売された。
 「純文学」「エンターテイメント」といった既成のジャンルから外れ、作家の中でも独特の立ち位置を貫く古川氏の作品は、芸能人やミュージシャンなど多方面から支持され、熱狂的なファンを持つ。
 常に読者の期待を超え続ける同氏だが、今回発売された新刊は500ページを超える大長編。3つの物語が互いにかすかな接点を感じさせながら並行して進むという一見すると複雑な構成となっている。
 「小説の怪物を作ろうと思った」と語る古川氏はどのようにこの作品を構想し、書き上げていったのか。ここではご本人のお話を取り上げながらこの作品の魅力に迫る。

 まず目を引くのが『南無ロックンロール二十一部経』という奇妙なタイトルだ。2005年にも『ロックンロール七部作』(集英社/刊)を刊行した古川氏だが、同氏にとって「ロックンロール」とはどのようなものなのか。
 その点について古川氏本人にお話を聞くと
 「今“ロック”っていうと一つの音楽ジャンルになってしまったけど、本来“ロックンロール”は世間が認める音楽に対してアンチを唱えるもの、強い力に抗うものであって、単なるジャンルではなかった。
 自分の小説にしても権威的なことをやろうとしているわけじゃなくて、読んだ人が自分の感覚をバージョンアップして、目の前の日常に向き合えればいいと思っている。そういうところでロックンロールは自分の根源にある表現力に近いものだと思う」とした。

 そして、タイトルにも増して特異なのがその内容である。
 この作品は、前述の通り「第一の書」から「第七の書」まで3つの物語が並行して進む(7×3=21で“二十一部経”というわけだ)。
 『コーマW』は狭い病室で昏睡し続ける女性の傍らで、小説家の「私」が時に思索にふけり、時に彼女に語りかけるシーンが描かれている。
 「私」の語りかけを通して、彼らの関係性や過去が少しずつ明らかにされていく。

 『浄土前夜』は、目覚めると鶏やキツネなどの動物に生まれ変わっていた語り手(古川氏の言葉を借りると『何度も生まれ直す』)が、20世紀の東京で起こっている不穏な情景を目にし、その核心に迫る。

 そして『20世紀』は、ロックンロールを通して20世紀の歴史が軽妙なタッチで語り直される。特に一本のブルースギターが人から人へと渡り北上する『北米大陸の「鰐力の探求」』と、アフリカ大陸でフィールドワークをしていた文化人類学者が現地で奇妙な音楽に出会い、それを録音したテープの周りで起こったドラマを描いた『アフリカ大陸の「鬼面のテープ」』は圧巻だ。

 それぞれに雰囲気や文体が全くことなるこの3つの物語は、本の中で明確に区切られているため、読者は3つの別の作品として、どこか釈然としないものを抱えながら読み進めることになる。
 しかし、徐々にこの3つの物語を隔てる壁は薄くなっていく。そして最後の最後に、読者は驚愕の事実につきあたり、全てが一本につながるという大きな爽快感を味わうはずだ。
 「最後にちゃんと着地するということは声を大にして言いたいです。ちゃんと納得するから、と。納得したらもう一度読みたくなるはずです」(古川氏)
【後編に続く】
(新刊JP編集部)



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