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“雇われない生き方”を阻む壁とは?―古市憲寿氏インタビュー(1)

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 『絶望の国の幸福な若者たち』で大きな反響を呼び、メディアにも出演している気鋭の社会学者・古市憲寿氏。その古市氏にとって久しぶりの単著となる新刊『僕たちの前途』(講談社/刊)では、「起業論」を軸にしながら、若者の働き方を巡る言説をまとめている。
 今回はそんな古市氏に、本書についてインタビューに応じてもらった。若者たちの本当の姿を鋭くえぐり出す古市氏が考える、今の日本の「起業」と「働き方」をめぐる問題点とは? 今回はその前半をお届けする。
(新刊JP編集部)

■問題は日本社会が「雇われない生き方」に対応していないこと

―まず、ベストセラーとなった前著『絶望の国の幸福な若者たち』についてお話をうかがいしたいのですが、前著を読んだ読者から様々な反応が返ってきたと思います。その反応に対して手ごたえはありましたか?

「僕も編集者も出版社も、誰もそんなに話題になる本だとは思っていなかったので、びっくりしました。いろいろな反応があって、もちろんその中にはとぼけた批判や中傷も多かったのですが、それだけの方に知っていただけたということなので、そういう意味で「手応え」はありましたね。あとは、作家の高橋源一郎さんがこの本の「あとがき」を『非常時のことば』という本で引用しつつ、解説して下さったことがうれしかったです」

―久々の単著となる本書は前著の若者論からさらにテーマをしぼった、「起業家論」「仕事論」が展開されていますが、このテーマにフォーカスした理由は?

「『絶望の国の幸福な若者たち』では、ファストファッションに身をつつみ、スマートフォンを片手に、お金をかけずにそこそこ楽しい暮らしをする若者たちの姿を描きました。ただメディアなどでは、僕がさもその「若者の代表」として扱われる機会が増えたんです。
だけど僕のまわりには起業家や経営者、エンターテインメント業界で活躍する人など「すごい人」がたくさんいる。僕自身も学生をしながら友達を会社をしたりしている。全然属性的には「若者の代表」ではない。そこで、「僕のまわりの世界のこと」を書いてみようと思いました」

―本書でも述べられているように日本は「起業」に風当たりが強い、もしくはポジティブではないように思います。古市さんはその現状についてどうお考えですか?

「単純に「起業」が一般的ではないこと、そしてホリエモン騒動の影響が大きいと思います。本でも書いたように、昔は起業なんて当たり前。この国には自営業者がたくさんいました。作家の村上春樹さんも喫茶店を起業されていますよね。それが地価の高騰などの理由によって起業というのが一般の人のものではなくなった。そして、90年代からネットバブルがはじまり、そのピークがホリエモン騒動です。あれで「起業」に関するイメージが偏ってしまったのかなと思います」

―冒頭に古市さんが執行役として経営に携わっている(そして本のタイトルにも使われている)有限会社ゼントについて触れられています。ゼントとはどんな会社なのですか?

「本の書き出しがこんな風にはじまります。「上場はしない。社員は三人から増やさない。社員全員が同じマンションの別の部屋に住む。お互いがそれぞれの家の鍵を持ち合っている。誰かが死んだ時点で会社は解散する」。あんまり意味がわからないですよね。詳しくは本を読んでいただけるとうれしいです」

―古市さんはどうしてゼントにコミットされているのですか? また、ゼントを通して学んだことはありますか?

「気づいたら、いつの間にか…。今でも何をしているかは自分でもよくわかりません。ただ、「会社」や「役職」というのはただの箱や肩書きにすぎなくて、そんなものに縛られているのは窮屈だなあということには気づきました」

―一部の若者たちが、いわゆる「雇われない生き方」(起業などを含む、正規雇用にこだわらない生き方)を求めるのは何故なのでしょうか。また、古市さん自身は「雇われない生き方」について肯定的ですか? 否定的ですか?

「脱サラからはじまり、フリーターブームまで、ずっと昔から「雇われない生き方」ブームはありました。問題は、日本社会が「雇われない生き方」に対応していないこと。社会保障は基本的に会社や家族単位。一度失敗したら、なかなか再チャレンジができそうもない社会。そんな中で専門性のない人が起業しても、結局ただの下請けみたいになってしまうと思います。学生ベンチャーとかでありがちなのが、ちょっとの利益で喜んでいて、でも時給に換算したらマックでバイトしたほうがよかった、みたいなパターンです」
(後編へ続く)

■古市憲寿さんプロフィール
1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。
慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻 は社会学。
現在は、大学院で若者とコミュニティについての研究を進めるかたわら、有限会社ゼントでマーケティング、IT戦略立案等に関わる。著書に『希望難民ご一行様:ピースボートと「承認の共同体」幻想』(光文社新 書、2010年度新書大賞7位)、『絶望の国の幸福な若者たち』 (講談社、第11 回新潮ドキュメント賞最終候補)などがある。



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