誰が「J-POP」を殺したのか?

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 「日本の音楽業界は瀕死の状態だ」という言説を、音楽好きであれば(好きでなくても)一度は目にしたことがあるだろう。
 CDシングルのミリオン突破は、オリコン調べによると1998年に20作だったのが2012年には5作。2012年の5作は全てAKB48の作品で、何枚もCDを買わせる“AKB商法”と批判されることも多い。
 その一方でライブとグッズ販売は好調の兆しを見せているほか、映像配信にも可能性があるといわれる。

 そんな日本の音楽業界―とりわけ、「J−POP」と呼ばれるジャンルの未来はどうなっていくのか。そのテーマに深く切り込む一冊が『誰がJ−POPを救えるか?』(朝日新聞出版/刊)だ。雑誌「日経エンタテインメント!」創刊メンバーで、音楽評論家としてエンターテインメント業界を長く見守り続けてきた麻生香太郎氏が、とある雑誌の編集者・マツオカと契約デスクのタカマツといった架空の人物を通して、音楽業界のタブーをえぐり出す“実録風フィクション”となっている。

 本書で触れられているタブーの一つが“著作権”だ。その管理団体として知られるJASRAC(日本音楽著作権協会)はツイッター上などでよく批判を浴びている。
 麻生氏は、日本のJASRACほど音楽著作権の二次使用に関してパーフェクトに管理できている団体は世界になく、著作権Gメンの存在には頭が下がるほどだとつづる。
 印税には大別して2種類あり、一つは「録音使用料」、つまりCDの売上。もう一つが「演奏使用料」、テレビやラジオ、有線、カラオケ、実演などによる二次使用料だ。JASRACが鋭意、徴収しているのはこの二次使用料なのだが、ヒット曲の場合、CD印税の4〜10倍になるという、いわば“ドル箱”なのだ。
 つまり、音楽出版社や作詞家、作曲家たちは、JASRACがなければ、活動の存続が難しくなる恐れがあるといえるだろう。

 しかし、こうした側面の一方で、JASRACは「天下り先」という事実があることも麻生氏は指摘する。バックは半分、親方の日の丸(文化庁管轄)で、音楽が使用され続ける限り、未来永劫、食いっぱぐれることはないシステムに庇護されるのだ。
 本書では、月報の理事の欄に10名あまりの元官僚たちが並んでいたことに、ワカマツはひっくり返りそうになる。JASRACの一般職員やGメンたちが汗水たらし、批判を浴びながら働いていることを知っているワカマツにとって、憤慨すべき出来事だったのだ。

 また、そうした中で、草の根から著作権への抵抗を見せるムーブメントも出てきた。その最先端が「初音ミク」、いわゆるボーカロイド(ボカロ)だ。
 初音ミクを歌手に据えた創作の連鎖はネット上で爆発的に広がり、自分の作品を次々と発信していく。そこにあるのは、著作権フリーの思想だと麻生氏は述べる。そして、ボカロこそが、次代のJ−POPのインキュベーターになるという。

 今回紹介した著作権団体や著作権は本書で言及されているケースの一つに過ぎず、「ソニー」「韓流」「つんく」「歌番組」「圧縮技術」「スマホ」「世界の不況」など、さまざまな部分からJ−POPの衰退と、新しいJ−POPの形について思考する。
 時代が大きく動き、それに伴って大衆文化もダイナミックに変わるなかで、旧時代の構造のまま立ち向かっていっても、維持することは難しいことは誰もが分かっていることのはず。音楽業界に対する麻生氏の提言は刺激的だが、理に適っているといえるのではないだろうか。
(新刊JP編集部)



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