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『千日の瑠璃』488日目——私はういろうだ。(丸山健二小説連載)

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私はういろうだ。

まほろ町の南東に位するめくるめく連山のはるか彼方から、あたりの柔らかい極道者によって運ばれてきた、ういろうだ。三階建ての黒いビルにこもり切りの男たちは今、黙したまま私を食べ、大振りな湯呑みで渋茶をすすっている。にちゃにちゃ、くちゃくちゃという音が、甘い物に飢える刑務所暮らしを甦らせ、三人を壁際に押しつける。使い走りの少年の感興をそそっているのは、私ではなく、テーブルの上に並べられた物騒な代物だ。

私をみやげに持って、銃身と銃床を切り詰めた未登録の猟銃三挺と、粒のでかい散弾数百発を売りこみにきた男は、捗々しい進展を見せた商談に満足して、数え終えたばかりの札束を懐へしまいこむ。彼は商売上手だ。法律の外に身を置き、恐怖から逃れたくてやたらに盟友の契りを結びたがる連中の嗜好をよく心得ている。「これはいける」と指無し男。「たまにはいいな」と用心深い組長。「これからは菓子屋になったらどうです」と豪胆を以て鳴る長身の青年。だが、見習いの少年は勧められても私に手を出さない。彼は至近距離では有効な武器を恐る恐る手に取り、窓に寄る。ブラインドを少し開け、それをぎごちなく構え、通りの向うをきょうの雪のようにふらふらして歩く、とても狙いにくい少年に銃口を向ける。しかし男たちは相変らず私に夢中で、誰も彼を咎めない。「ばんっ!」という声が発せられても、にちゃにちゃ、くちゃくちゃ。
(1・31・水)

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