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『千日の瑠璃』479日目——私はトラックだ。(丸山健二小説連載)

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私はトラックだ。

進出に次ぐ進出で勢力を拡大して派手に徒党を結ぶ敵対する一派に、ひと泡吹かせようと体当たりを敢行する無人のトラックだ。私の荷台にはガソリンの入ったドラム缶が四本積まれており、目標へ向けて走り出すと同時に、直情径行型の、わに足の男によって火が放たれる。そして、火を点けた男と、私のハンドルを握っていた男は、待機させてあったクルマに乗ってまほろ町を離れる。

発情した犬がさまよっている深夜で、街灯のまわりには粉雪が舞っている。私に気づく者は誰ひとりいない。いや、そうではない。そのとき、肢体が不自由な分だけ心が解き放たれている奇妙な少年が、私の前にひょっこり現われる。少年は物の怪のような動きでこっちの方へ向ってくる。その視界には、私と私が背負う炎が間違いなく入っているはずだ。ところが、少年は私をまったく恐れていない。

それどころか、少年は笑みを浮かべ、手を振りながら、更に近づいてくる。このまま進めば彼は確実に輪禍に遭い、今では賭場と化している湖畔の宿といっしょに炎上し、火だるまになるだろう。しかし、そうはならなかった。そうなる前に私は前輪の片方を穴ぼこに落とし、その拍子にハンドルが勝手に大きく切れてしまい、門柱のあいだを通り抜けるはずが左へそれ、急な斜面を駆け下り、積もりに積もった雪にのめりこんで逆立ちし、ゆっくり一回転して、ずぶずぶと湖へと沈んで行く。
(1・22・月)

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